発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
24 巻, 2 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
  • 上野 将紀, 奥住 秀之
    原稿種別: 本文
    2013 年 24 巻 2 号 p. 117-125
    発行日: 2013/06/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究は,幼児,学童,成人を対象に,前方に提示された目標物を「つかめる」と判断する臨界距離と,つかんでいる事物を最も置きやすい位置という最適距離の年齢発達的変化について,身体スケールとの関係性から検討することを目的とした。対象者は,4〜15歳児109名と成人25名である。対象者に判断課題と最適課題を実施した。判断課題では,正面にある机上の目標物を提示された距離ごとに肩や腰を動かさずに腕だけで「つかめる」か「つかめない」かの回答を口頭で求め,つかめると判断した最大距離を判断距離とした。実際に目標物をできるだけ遠方まで置くことができる距離を最高到達距離とした。最適課題では,対象者に目標物を利き手で握らせ,最も行いやすい位置に置くことを求め最適距離とした。その結果,どの年齢群においても判断距離が最高到達距離を上回ること,判断距離と最高到達距離の誤差は13歳以降の年齢で小さくなること,最高到達距離に占める最適距離の割合は年齢とともに小さくなり成人で6割程度になることが明らかとなった。つかめると判断する臨界距離は腕の長さよりも過大評価されること,低年齢児はリスクを冒す特性などから過大評価の傾向が強く,成人に近づくにつれて腕の長さと同じ距離をほぼ正確に知覚できるようになることなどが示唆された。
  • 風間 みどり, 平林 秀美, 唐澤 真弓, Twila Tardif, Sheryl Olson
    原稿種別: 本文
    2013 年 24 巻 2 号 p. 126-138
    発行日: 2013/06/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究では,日本の母親のあいまいな養育態度と4歳の子どもの他者理解との関連について,日米比較から検討した。あいまいな養育態度とは,親が子どもに対して一時的に言語による指示を控えたり,親の意図が子どもに明確には伝わりにくいと考えられる態度である。日本の幼児とその母親105組,米国の幼児とその母親58組を対象に,幼児には心の理論,他者感情理解,実行機能抑制制御,言語課題の実験を実施,母親には養育態度についてSOMAを用い質問紙調査を実施した。日本の母親はアメリカの母親に比べて,あいまいな養育態度の頻度が高いことが示された。子どもの月齢と言語能力,母親の学歴,SOMAの他の4変数を統制して偏相関を算出すると,日本では,母親のあいまいな養育態度と,子どもの心の理論及び他者感情理解の成績との間には負の相関,励ます養育態度と,子どもの心の理論の成績との間には正の相関が見られた。一方アメリカでは,母親の養育態度と子どもの他者理解との間に関連が見られなかった。子どもの実行機能抑制制御については,日米とも,母親の5つの養育態度との間に関連が見出されなかった。これらの結果から,日本の母親が,子どもが理解できる視点や言葉による明確な働きかけが少ないあいまいな養育態度をとることは,4歳の子どもの他者理解の発達を促進し難い可能性があると示唆された。
  • 野澤 祥子
    原稿種別: 本文
    2013 年 24 巻 2 号 p. 139-149
    発行日: 2013/06/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究は,子ども同士が互いに自己主張し合うやりとりの発達過程を明らかにすることを目的とし,主に2歳代の変化を検討するため,保育所の1歳児クラスで年度前半に2歳になった子ども5名の縦断的観察データを分析した。分析にあたっては,特に,強い不快情動の表出を伴わない平静な声調の発話によるやりとりの成立過程に焦点を当てた。その結果,I期(5〜8月)には,平静な声調の発話を含まず,物の取り合いや攻撃,不快情動の表出を伴う発話などによって葛藤がエスカレートするパターンが優勢であった。II期(9〜12月)になると,平静な声調の発話も含むやりとりが増加した。一方の子どもの,相手の意図を考慮する発話が,相手の不快情動や行動の調整,その後の交渉の展開を促す場合もみられた。さらにIII期(1〜3月)には,平静な声調の発話のみによるやりとりの割合が増加した。所有の順番や遊びについて言葉で交渉して相互理解を形成し,相互理解のもとでより複雑な意図調整が展開される場合も出現した。以上の結果から,保育所における2歳代の子ども同士の主張的やりとりは,情動や行動の相互調整の過程を含みつつ再組織化され,強い不快情動を表出せずに言葉でやりとりするパターンが成立してくることが示唆された。
  • 齋藤 有, 内田 伸子
    原稿種別: 本文
    2013 年 24 巻 2 号 p. 150-159
    発行日: 2013/06/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究では,子ども中心で子どもとの体験を享受する「共有型」養育態度と,子どもにトップダウンに関わり,罰を与えることも厭わない「強制型」養育態度の,絵本の読み聞かせ場面(絵本場面)における母子相互作用の比較検討を行った。対象は3-6歳児とその母親29組で,母子にとって新奇な絵本場面を録画観察した。結果,養育態度による絵本場面の相互作用の違いは,母親のことばかけの認知的な水準ではなく,絵本場面を取り巻く情緒的雰囲気に現れた。また,子どもの年齢にかかわらず「共有型」養育態度の母親は子どもに共感的で,子ども自身に考える余地を与えるような関わりが多い一方で,「強制型」養育態度の母親は,指示的で,子ども自身に考える余地を与えないトップダウンの説明の多い傾向があった。さらに,それぞれの関わりのもとで子どもの絵本に対する関わり方にも違いがあり,「共有型」養育態度のもとで,子どもはより主体的に絵本に関わっていることが明らかになった。
  • 竹村 明子, 仲 真紀子
    原稿種別: 本文
    2013 年 24 巻 2 号 p. 160-170
    発行日: 2013/06/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,高齢期に直面する身体や健康の衰退などを"統制困難な出来事"と定義し,70〜74歳高齢者の統制困難な出来事に対する対処方略について,調和焦点型二次的コントロール(SC)概念を用いて明らかにすることである。調査に参加した高齢者のうち,本人が病気である,または家族の介護をしている24名のインタビュー・データについて,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて対処方略に関する概念を生成し,概念間の関係に基づきカテゴリーに統合した。その結果,4つのカテゴリーと12の概念が生成された。そして,SCの高い高齢者は,(1)体力や健康などの自己資源が低下し自分の望みとのバランスが崩れたことを自覚すること,(2)多様な生き方に対する知識や理解があると,身体や健康の衰退を自律的に受容できること,(3)残された自己資源を現実的に査定することが大切だという知識や理解があると,現在の目標や認知,行動を身体の衰退に合わせて調整できること,(4)老いの受容や自己を調整することを維持するために,身近な人と交流し,気晴らしをして,忍耐強く統制困難な出来事とつきあっていること,が示された。
  • 水口 啓吾, 湯澤 正通, 李 思嫻
    原稿種別: 本文
    2013 年 24 巻 2 号 p. 171-182
    発行日: 2013/06/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究では,日本語母語幼児39名,中国語母語幼児22名に,音韻構造の異なる5つの英単語(CV,CVC,CVCV,CVCC,CVCVC)を用いた記憶スパン課題を実施して,英単語音声分節化傾向を検討した。その結果以下の点が明らかとなった。第1に,記憶スパンのパターンにおいて,日本語母語幼児はモーラのリズムのパターンと一致している一方で,中国語母語幼児は音節のリズムのパターンとは異なっていた。また,CVCCとCVCVCの英単語において,中国語母語幼児の方が日本語母語幼児よりもスパン成績が高かった。第2に,日本語母語幼児の反復音声持続時間は,中国語母語幼児のそれよりも長くなる傾向が見られた。第3に,日本語母語幼児の記憶スパンでは,中国語母語幼児のそれよりも,モーラのリズムによる分節化と一致するパターンが多く見られた。このことから,日本語母語幼児は,既に英語の音声知覚において,日本語のモーラのリズムの影響を受けているのに対して,中国語母語幼児は,音素数や音節数に関わりなく,英単語を1つのまとまりとして知覚している可能性があることが示唆された。
  • 小澤 義雄
    原稿種別: 本文
    2013 年 24 巻 2 号 p. 183-192
    発行日: 2013/06/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究は,健常な高齢者31名に家族についての語りを収集するインタビュー調査を実施し,正の遺産を受け渡す世代間継承と負の継承を分断する世代間緩衝の認識を伴う自己物語を表出した9名を対象に,その語りの類型化と各類型における世代間関係の秩序化の構造の分析を実施した。その結果,類型として「世代間継承成立型」,「世代間継承半成立型」,「世代間緩衝半成立型」の3つが抽出された。世代間継承の自己物語には,正の遺産の継承が成立した次世代やその一側面を称賛し,継承が成立しない次世代やその一側面を退ける対比構造が観察された。そこから,世代間継承の語りが自己経験に秩序をもたらす営みであることを指摘した。世代間緩衝の自己物語には,前世代との間に生じた苦難とその苦難を分断して育んだ次世代とを対比の中に,前世代との関係性に対する新たな発見や,断ち切ったはずの負の遺産の継承を次世代の中に発見することが観察された。そこから,負の遺産の分断を語ることが,自身の不運な幼少期の意味を塗り替える能動的側面と,不意に次世代の中に自身の負の遺産を発見するという受動的側面を併せ持つ営みであることを指摘した。
  • 大杉 佳美, 内山 伊知郎
    原稿種別: 本文
    2013 年 24 巻 2 号 p. 193-201
    発行日: 2013/06/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究では,物理的概念のひとつである固体性の認識に関する課題において,3歳児から5歳児の探索行動が発達的にどのように変化するかを検討した。探索課題を達成するためには,装置に挿入されたボールの動きを止める板は一枚のつながった板であると判断し(対象物の単一性),ボールは板を突き抜けないという固体性の知識に基づいて探索すること,あるいは.板の形状を表象することが求められる。そこで本研究では,ボールの動きを遮る板に穴をあけ.ボールはその穴を通過して落下するが,あたかもその板がつながっているように見えるという探索課題を実施した。その結果,3歳児は,対象物の単一性と固体性の知識を用いてボールを見つけているが,表象しながら探索することが難しかったのに対し,4歳以降の子どもは,対象物の単一性と固体性の知識を用いることができるだけでなく,装置に挿入された板の形状を表象しながら探索することもできることが明らかとなった。つまり,板の形状を表象しながら探索することができるようになるのは,3歳から4歳にかけてであること,また,表象しながら探索するというスキルは,スクリーンの両端から見えている板に注目してボールを見つけることができるようになれば,獲得されるスキルである可能性が示唆された。
  • 山本 晃輔
    原稿種別: 本文
    2013 年 24 巻 2 号 p. 202-210
    発行日: 2013/06/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究では,アイデンティティ確立の個人差要因が自伝的記憶の想起に及ぼす影響を意図的および無意図的想起の両事態から検討した。研究1では,313名を対象にアイデンティティ尺度(下山,1992)を実施するとともに,日誌法によって無意図的に想起される自伝的記憶の特性を評価させた。その結果アイデンティティ確立高群では,低群よりも重要でかつ感情喚起度が高く.鮮明な自伝的記憶が頻繁に想起されることがわかった。研究2では,114名を対象に研究1と同様のアイデンティティ尺度を用いて,意図的想起事態における実験を行った。その結果,研究1と同様の結果が示された。また,補足的な分析として,研究1と研究2を比較すると,意図的に想起された自伝的記憶は無意図に想起された自伝的記憶よりも鮮明でかつ重要であることが示された。これら一連の結果は,アイデンティティ確立度の個人差が自伝的記憶の想起に影響を及ぼす可能性を示唆している。全体的考察では,Conway & Pleydell-Pearce(2000)による自己-記憶システム(Self-memory system)による解釈が行われ,今後の課題について議論された。
  • 伊藤 大幸, 望月 直人, 中島 俊思, 瀬野 由衣, 藤田 知加子, 高柳 伸哉, 大西 将史, 大嶽 さと子, 岡田 涼, 辻井 正次
    原稿種別: 本文
    2013 年 24 巻 2 号 p. 211-220
    発行日: 2013/06/20
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー
    本研究では.保育士が日常の保育業務の中で作成する「保育の記録」を心理学的・精神医学的観点から体系化した「保育記録による発達尺度(NDSC)」(中島ほか,2010)の構成概念妥当性について検証を行った。4年間にわたる単一市内全園調査によって,年少から年長まで,延べ9,074名の園児についてのデータを得た。主成分分析を行ったところ,9つの下位尺度が見出され,いずれも十分な内的整合性を持つことが示された。9尺度のうち,「落ち着き」,「注意力」,「社会性」,「順応性」の4尺度は月齢との関連が弱く,子どもの行動的・情緒的問題のスクリーニングツールであるStrengths and Difficulties Questionnaire(SDQ)との関連が強いことから,生来の発達障害様特性や不適切な養育環境による不適応問題を反映する尺度であることが示唆された。逆に,「好奇心」,「身辺自立」,「微細運動」,「粗大運動」の4尺度は,月齢との関連が強く,SDQとの関連が弱いことから,子どもの適応行動の発達状況を反映する尺度であることが示唆された。このようなバランスのとれた下位尺度構成によって,NDSCは,配慮が必要な子どもの検出と早期対処を実現するとともに,現在の子どもの発達状況に適合した保育計画の策定に貢献するツールとして有効性を発揮することが期待される。
feedback
Top