発達心理学研究
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24 巻, 3 号
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原著
  • 中年期きょうだいにとって,葛藤の解決及び維持につながった要因
    笠田 舞
    2013 年 24 巻 3 号 p. 229-237
    発行日: 2013年
    公開日: 2015/09/21
    ジャーナル フリー
    本研究では知的障がい者(以下,同胞)の兄弟姉妹(以下,きょうだい)であることがきょうだいのライフコース選択をどのようなプロセスで導いていくか,また選択の際に葛藤の解決や維持に影響を及ぼしている要因について明らかにすることを目的とした。中年期のきょうだい男女14名を対象として個別に半構造化面接によるインタビュー調査を行い,時間を捨象せず人間の多様性や複雑性を扱うための方法論(サトウ,2009)である複線径路・等至性モデルを援用し分析を行った。進路・職業選択の時期は原家族に対する役割の転換期であり葛藤的体験となりやすいが,親からの働きかけによって主体的なライフコース選択に広がることが示された。一方で孤独感により成人期以降も葛藤的体験は維持されるが,同胞の養育の中心的存在である母親が親役割を降り始めることを契機にあくまでも自己の人生を主軸に親亡き後の現実に対処していこうとする,きょうだいが主体的に選択したケア役割の取り方に変容する。親はきょうだいにとって同胞のケア提供者以外の方向へ選択肢を広げそこへ導く存在でもあるが,ケア提供者に根強く束縛する存在でもあり,ライフステージを越えたキーパーソンの役割を果たす。また同胞ときょうだいが兄弟姉妹の関係で在り続けるためには,同胞に必要とされるサポートの在り方についてきょうだい同士で情報交換でき,きょうだい自身がサポートされる機会の拡充が必要である。
  • 役割観の異同の類型化と夫婦の関係性の視点から
    神谷 哲司
    2013 年 24 巻 3 号 p. 238-249
    発行日: 2013年
    公開日: 2015/09/21
    ジャーナル フリー
    本研究は育児期夫婦における家庭内の役割に着目し,その類型化を元に,家庭内役割観が相互に調整されていない(異なる)夫婦の関係性を明らかにすることを目的とした。具体的には,「相手にとっての自分の役割」と「自分にとっての相手の役割」という夫婦双方の家族成員としての役割観に基づき夫婦をペアとした家庭内役割観タイプを抽出し,夫婦関係満足度や情緒的なかかわりとの関連を検討した。質問紙による183組の夫婦のペアデータが分析された結果,家庭内役割観タイプとして,夫婦双方ともにすべての役割を重要であると認識する相互役割高群,反対に重要ではないとする相互役割低群と,役割観が異なるタイプとして,妻が夫を重要だと認識する一方で夫は自分もパートナーも重要でないと認識する視点格差群が抽出された。この視点格差群は相互役割高群と同様,妻の夫婦関係満足が高く,また情緒的なかかわりが夫婦ともに相互役割低群よりも高かった。これらの結果から,視点格差群について先行研究との関連で討議され,家庭内役割観のギャップを夫からの情緒的なかかわりによって補償している可能性が示唆された。
  • 半随意的な症状にいかに対処していくのか
    松田 なつみ
    2013 年 24 巻 3 号 p. 250-262
    発行日: 2013年
    公開日: 2015/09/21
    ジャーナル フリー
    児童期発症の慢性チック障害であるトゥレット症候群(TS)は,成人に従い軽症化し,症状の変動を伴う発達障害の一つである。TSのチックは短時間ならおさえられる等,ある程度はコントロールできるが対処しきれない性質を持つ。このようなチックの性質と経過からTSを有する者が普段から自己対処を行っている可能性が高いが,自己対処の負の影響も示唆されている。本研究では,チックへの自己対処が有効に働くにはどのような要因が重要なのか探るため,自己対処の機能や自己対処の生じる文脈を明らかにすることを目的とした。TSを有する本人16名(男性13名,女性3名,平均年齢25.5歳)に半構造化面接を行い,Grounded Theory Approachによって分析した。その結果,チックへの自己対処を行う際,「対処への圧力」と「対処の限界」が常にせめぎあっており,「部分的な対処」がその間に折り合いをつける機能を担っていることが示唆された。その上で,「対処への圧力」と「対処の限界」の両方が高く折り合いがつけられない状態(「対処の悪循環」)と,その両者の間に「部分的な対処」で折り合いをつけながら,「コントロール感」を得ていく状態(「チックと上手くつき合う」)を比較し,自己対処が上手く機能する文脈や関連する認識について考察した。
  • 飯塚 有紀
    2013 年 24 巻 3 号 p. 263-272
    発行日: 2013年
    公開日: 2015/09/21
    ジャーナル フリー
    本研究は,低出生体重等の理由で子どもが保育器に入ることによって母子分離を経験した8名の母親の心理・情緒的経験,葛藤を丁寧に描くことを目的とした。語られたインタビューの内容については,現象学的分析を用いて検討した。その結果,NICUへの入院を経験した低出生体重児の母親は,妊娠・分娩・出産のトラウマティックな傷つき体験と早産に関する自責の念を背景としながら,最初期の母子関係の構築を始めることが明らかとなった。保育器に子どもが入ることになり母子分離が起こると,子どもとの間に心理的な距離が発生し,母子関係構築のための貴重な時期に危機的状態が発生することが確認された。しかし,自由に抱っこができる状況,すなわち母子再統合がなされるとこの母子間の心理的な距離は一気に解消される。母子再統合によって,母親は,母親としての実感を抱くようになった。一時的な母子分離は,抱っこやそれに付随する授乳などによって容易に克服できる可能性が示された。しかし,妊娠・分娩・出産に伴うトラウマティックな傷つき体験と自責の念は,ことあるごとに繰り返しよみがえってくるようであった。カンガルーケア等の母子関係構築の初期における母子の接触を積極的に行うことが必要であろうし,また,このような母親の心性を医療スタッフが理解しておくことも重要である。
  • 主体的能力・障碍特性の変容と特定の他者との関連
    榊原 久直
    2013 年 24 巻 3 号 p. 273-283
    発行日: 2013年
    公開日: 2015/09/21
    ジャーナル フリー
    生得的な障碍を持つ者は,対人関係の中で後天的に更なる障碍を形成するリスクを有する。自閉症児はその最たる例であるが,それゆえに自閉症児への関係支援は対人関係の障碍の軽減や他機能の発達だけでなく,障碍特性そのものの軽減にも有効であると考えられる。本研究では対人関係の障碍の顕著な自閉症児A児(CA10:5~11:11)に対し,関係支援の基盤となるべく,養育者以外の他者(関与者)が特定二者となることを目指して関与を行い,両者の関係性の変容に伴う,主体的能力の発達や障碍特性の変容の関連及び特定の他者の影響を考察した。結果は以下の通りである。①他者認知の発達や原叙述の指差しや提示行動の表出に見られる象徴的思考の発達が観察された。②障碍特性の1つであるこだわりは,その強度及び頻度が低減し,質的な変容も観察された。③他者(児)との関わりは,快の情動が付随した対人経験の積み重ね,他者の配慮性,特別な他者の存在によって,関われる時間が延び,快の情動を必ずしも前提としない関わりを持つことが可能となっていった。これらのことから,自閉症児と特定の他者との関係の発達は,関係だけが発達するものではなく,その中で個の能力の発達や障碍特性の変容が生じるものであることが明らかとなった。加えて,これらの変化を支える者として,④関与者は「愛着対象」,「移行対象」,「自閉対象」という多重な意味を持つことが示唆された。
  • 髙坂 康雅
    2013 年 24 巻 3 号 p. 284-294
    発行日: 2013年
    公開日: 2015/09/21
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,“恋人を欲しいと思わない”青年(恋愛不要群)がもつ“恋人を欲しいと思わない”理由(恋愛不要理由)を分析し,その理由によって恋愛不要群を分類し,さらに,恋愛不要理由による分類によって自我発達の違いを検討することであった。大学生1532名を対象に,現在の恋愛状況を尋ねたところ,307名が恋人を欲しいと思っていなかった。次に,恋愛不要理由項目45項目について因子分析を行ったところ,「恋愛による負担の回避」,「恋愛に対する自信のなさ」,「充実した現実生活」,「恋愛の意義のわからなさ」,「過去の恋愛のひきずり」,「楽観的恋愛予期」の6因子が抽出された。さらに,恋愛不要理由6得点によるクラスター分析を行ったところ,恋愛不要群は恋愛拒否群,理由なし群,ひきずり群,自信なし群,楽観予期群に分類された。5つの群について自我発達を比較したところ,恋愛拒否群や自信なし群は自我発達の程度が低く,楽観予期群は自我発達の程度が高いことが明らかとなった。
  • 共同注意の発達との関連から
    狗巻 修司
    2013 年 24 巻 3 号 p. 295-307
    発行日: 2013年
    公開日: 2015/09/21
    ジャーナル フリー
    乳幼児期の子どもとの相互交渉では他者からのはたらきかけが重要な役割を果たす。それは対人的相互交渉に質的な障害を示す自閉症幼児にとっても同じであるといえる。本研究では保育場面の縦断的観察を行い,対象となる自閉症幼児の共同注意の発達により観察時期を3つに区分したうえで,それぞれの時期における保育者からのはたらきかけとそれに対する対象児の反応についての分析を行った。その結果,3つの時期を通じて対象児の興味・関心に寄り添う形での遊び道具の操作や身体的な接触といった保育者のはたらきかけに対して「受容」の反応を示すこと,逆に対象児の注意を無関係なモノへと定位するはたらきかけに対して無視や拒否など「受容以外」の反応を示すことが明らかとなった。一方,3つの時期により保育者からのはたらきかけの回数に差がみられること,そして,それぞれの時期で保育者からのはたらきかけに対する反応が異なるなど,共同注意スキルの発達によりはたらきかけと反応との関係に質的な差異がみられた。これらより,自閉症幼児へのはたらきかけとして,子どもが示す興味や関心に寄り添うことと同時に,子どもの発達的なレベルに応じて寄り添いの質を変化させていく重要性が示唆された。
  • 古見 文一
    2013 年 24 巻 3 号 p. 308-317
    発行日: 2013年
    公開日: 2015/09/21
    ジャーナル フリー
    本研究は古見・子安 (2012) において,成人で確認されたロールプレイがマインドリーディングに及ぼす効果について,マインドリーディングの発達過程にあると考えられる児童期でも同様の効果が表れるかを検討した。また,Keysar, Barr, Balin, & Brauner (2000) 以降用いられている“コミュニケーション課題”と従来の心の理論課題をはじめとする他者の心の理解課題との関連についても確認した。46名の小学3年生から小学5年生の児童は,心の理解課題に回答した後,ロールプレイ群とロールプレイなし群に分けられ,コミュニケーション課題を行った。その結果,ロールプレイ群のほうがロールプレイなし群よりも誤答率が低く,また心の理解課題の得点が満点であった参加児は,そうでなかった参加児よりも誤答率が低かった。さらに,心の理解得点が低い参加児のグループのほうが心の理解得点が満点であった参加児のグループよりもロールプレイの効果が大きく表れていた。これらの結果から,児童期においても成人と同じようにロールプレイはマインドリーディングにポジティブな影響を及ぼすことと他者の心の理解が未発達な子どものほうが,ロールプレイの効果がより強く表れるということが明らかとなった。40名の成人参加者の結果と比較すると,成人では反応時間がロールプレイによって速くなっているが,児童ではその差は見られなかった。
  • 大隅 順子, 松村 京子
    2013 年 24 巻 3 号 p. 318-325
    発行日: 2013年
    公開日: 2015/09/21
    ジャーナル フリー
    本研究は,知的障害特別支援学校で学ぶ中学生を対象に,教材中の文字部分を注視させる際の支援方法として,特別支援学校の現場で一般的に使用されている,文字を指し示す指示棒,アンダーライン,音声を用いたときの効果の違いについて明らかにした。自閉症児23名,知的障害児12名に対して,文字部分への視線停留時間,視線停留回数,最初の視線停留継続時間をアイトラッカーを用いて測定した。文字部分への注視の支援に指示棒やアンダーラインを用いたときに,視線停留時間,視線停留回数,最初の視線停留継続時間での主効果が有意であり,効果が認められた。音声を用いたときには,そのまま文字部分に視線を停留させる効果は認められなかった。今回の支援教材に関してはいずれも教材中の挿絵の影響はなかった。本研究の結果は指示棒やアンダーラインを使って見るべき箇所に視線を誘導する支援教材が有効であることを示唆している。いずれの方法も障害による効果の差はみられなかった。
  • 文脈の共有を通じた意図の読みとり
    石島 このみ, 根ヶ山 光一
    2013 年 24 巻 3 号 p. 326-336
    発行日: 2013年
    公開日: 2015/09/21
    ジャーナル フリー
    本研究では,乳児と母親のくすぐり遊びにおいて,いかに相互作用がなされているのかを明らかにし,そこにおいて意図理解がなされている可能性とその発達について検討した。観察開始時生後5ヶ月の母子1組を対象とし,3ヶ月間,家庭での自然観察を縦断的に行った。その結果,生後6ヶ月半の時点で,くすぐり刺激源(母親の手)と母親の顔との間で交互注視が起こり,その生起頻度は発達的に増加していた。さらに生後6ヶ月半頃のくすぐり遊びの行動連鎖について検討したところ,くすぐったがり反応が生じた事例では,身体に触れずにくすぐり行動を顔の前に提示する「くすぐりの焦らし」がなされた後に乳児がくすぐり刺激源を見る,くすぐり刺激源と母親の顔に視線を配分させる,「くすぐりの焦らし」において予期的にくすぐったがる,といったパターンが生起していた。このことから,生後6ヶ月半の時点で,乳児は母親とくすぐりの文脈を共有し,母親の意図を読みとりながら能動的に相互作用を楽しんでいることが示唆された。くすぐりの場は,身体部位を対象化することで成り立つ「原三項関係 proto-triadic relationship」(Negayama, 2011)の一例であると言える。そのような母子の身体を媒介項とした自然な相互作用における萌芽的な意図の読みとりが,三項関係における意図理解の成立への橋渡し的役割を担っている可能性が指摘された。
  • キン イクン, 大野 久
    2013 年 24 巻 3 号 p. 337-347
    発行日: 2013年
    公開日: 2015/09/21
    ジャーナル フリー
    本研究では,漸成発達における主題の母子間の関連性と母親の主題の獲得状況と青年の「アイデンティティ達成」への影響を検討するために,104組の大学生(男性21名,女性83名)と母親を対象として,相関分析,共分散構造分析を行った。この結果,特に以下の点が明らかになった。1)母親と青年の両方においても漸成発達の各主題が互いに有意な関連があること,2)「基本的信頼感」と「自律性」において母子間に有意な正の相関があること,3)母親の「基本的信頼感」及び「自律性」の獲得は青年の「アイデンティティ達成」との間に有意な正の相関があること,4)さらに青年の「基本的信頼感」及び「自律性」はこの関連において媒介変数として機能していること。本研究の結果,青年期における「アイデンティティ達成」には,母親からの直接の影響よりも,母親の影響により獲得した青年自身の初期の人格発達の主題である「基本的信頼感」および「自律性」が影響していることが明らかになった。
  • 自己の驚きを手がかりとした心的状態の推論
    佐藤 賢輔, 実藤 和佳子
    2013 年 24 巻 3 号 p. 348-357
    発行日: 2013年
    公開日: 2015/09/21
    ジャーナル フリー
    本研究では,明示的な言語応答を求める誤信念課題において,驚きを喚起する事象の導入が,誤信念に基づく推論を容易にするかどうかを検討した。3歳4ヶ月から5歳3ヶ月の幼児69名を対象に,非合理的事象(物体消失・出現マジック)によって対象児の驚きを喚起する手続きを含んだ課題と,驚き喚起手続きを含まない2つの課題,計3種類の誤信念課題を実施した。その結果,他者の誤信念について尋ねる質問においても,自己の過去の誤信念について尋ねる質問においても,非合理的事象を含む課題の正答率は他の2つの課題の正答率よりも高かった。また,驚き喚起手続きを含む課題の正答率はチャンスレベルを有意に超えなかったものの,回答のパターンはある程度一貫しており,特に4歳児クラス(4歳4ヶ月~5歳3ヶ月)においては,個人内の回答の一貫性は他の誤信念課題と同程度に高かった。これらの結果から,非合理的事象によって喚起された驚きが,幼児が他者や過去の自己の心的状態を推論する過程において有効な手がかりとして機能していることが示された。さらに,幼児の持つ強力なあと知恵バイアスが信念の推測過程に干渉的に作用していることが標準的な誤信念課題における失敗の一因となっていること,また,他者の信念を表象するメカニズムが標準的な誤信念課題に通過する以前から機能していることも示唆された。
  • 乳児の初期寝返り動作との発達的関連から
    山本 尚樹
    2013 年 24 巻 3 号 p. 358-370
    発行日: 2013年
    公開日: 2015/09/21
    ジャーナル フリー
    本研究は,発達の多重時間スケールの議論を土台として,乳児の寝返り動作の発達研究の延長線上に成人の寝返り動作の多様性を位置づけることを目的とした。そのため,スタティックな観点から捉えられていた成人の寝返り動作の個人間の多様性を,固有のダイナミクスとして捉え,教示により動作の制約を加えることで実験中に生じる微視的発生プロセスの分析を行った。実験には健常な成人男性26名が参加した。1セット目では特に動作の指定を行わず,実験参加者が楽なように寝返りをしてもらい,2~4セット目では教示により,腕を振り出す動作,膝を立て床を蹴る動作,脚を振り出す動作,それぞれが先行するように動作を制約した。5セット目では動作を指定せず,改めて実験参加者が楽なように寝返りを行ってもらった。結果,次のことが示された。a)1セットのパフォーマンスと2~4セットパフォーマンスの相関は教示によって異なること,b)実験参加者の多くは1セットと5セットの間に有意なパフォーマンスの変化が認められたが,有意な変化のない実験参加者もいた。ここから次のことが示唆された。a)それぞれの固有のダイナミクスに応じた運動の調整は,動作の制約により異なること,b)固有のダイナミクスの安定性にはそれぞれ違いがある。最後に,以上の結果と先行研究の知見を総合し,乳児期から成人までの寝返り動作の発達プロセスの大筋の素描を試みた。
  • 原田 新
    2013 年 24 巻 3 号 p. 371-379
    発行日: 2013年
    公開日: 2015/09/21
    ジャーナル フリー
    本研究は,青年期から成人期の対人関係の発達に関わる変数として友人関係と親密性とを取り上げ,両発達段階間での自己愛と友人関係,自己愛と親密性とのそれぞれの関連性の差異について検討することを目的とした。まず仮説として,自己愛と友人関係の指標としての「友人への信頼」とは両発達段階間で関連性に差異は見られない一方,自己愛と「親密性」とは青年期よりも成人期でより強い負の関連が見られることが想定された。青年期として18歳~25歳の大学生,大学院生の247名,成人期として26歳~35歳の352名に対して,自己愛,「友人への信頼」,「親密性」の尺度を含む質問紙調査を実施した。得られたデータに対し,発達段階ごとに相関分析を行った上で,発達段階間での相関係数の差の検定を実施した。その結果,全6側面の自己愛と「友人への信頼」との関連については発達段階間で有意差は見られない一方,「親密性」とは自己愛の中でも「注目・賞賛欲求」,「自己愛的憤怒」,「自己愛性抑うつ」,「共感性の欠如」の4側面が成人期において有意に強い負の関連を持つという発達段階間での関連性の差異が示された。この結果から,自己愛は成人期になるにつれて対人関係の発達全般に関わるようになるのではなく,特に相互性に基づく親密性の形成に対して負の関わりを持つようになるということが示唆された。
  • 湯澤 正通, 渡辺 大介, 水口 啓吾, 森田 愛子, 湯澤 美紀
    2013 年 24 巻 3 号 p. 380-390
    発行日: 2013年
    公開日: 2015/09/21
    ジャーナル フリー
    本研究では,小学校1年のクラスでワーキングメモリの相対的に小さい児童の授業観察を行い,そのような観察対象児の授業中における態度の特徴を調べ,その教育的,発達的意味,および授業参加の支援方法についての考察を行った。小学校1年生2クラスを対象にコンピュータベースのワーキングメモリテストを行い,テスト成績の最下位の児童をそれぞれのクラスで3名ずつ選び,国語と算数の授業37時間で観察を行った。ワーキングメモリの小さい児童の授業態度は,個人によって違いが見られたが,挙手をほとんどしない児童が含まれ,全般に,課題や教材についての教師の説明や,他児の発言を聞くことが容易でないことが示唆された。挙手をほとんどしない観察対象児が挙手する場面を検討したところ,a) 発問の前に児童に考える時間を与えてから発問する,b) 発問をもう一度繰り返す,c)いくつかの具体的な選択肢を教師が提示した上で発問するといった場面で,他の場面よりも挙手率が有意に高かった。ワーキングメモリに発達的な個人差がある中で,ワーキングメモリの相対的に小さい児童にとって授業への参加は不利になること,そのため,教師は,ワーキングメモリの小さい児童を意識した支援方法を意図的に用いる必要があることが考察された。
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