発達心理学研究
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25 巻, 4 号
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特集序文
特集
原著(依頼)
  • 長谷川 真里
    2014 年 25 巻 4 号 p. 345-355
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,信念の多様性についての子どもの理解を探るために,相対主義の理解,異論への寛容性,心の理論の3つの関連を調べた。研究1では,幼児,小1生,小2生,小3生,合計253名が実験に参加した。実験では,まず,「道徳」,「事実」,「曖昧な事実」,「好み」の4領域の意見について本人の考えを確認した。その後,本人の考えと同じ子ども(A),逆の考えの子ども(B)の2種を提示し,「どちらの考えが正しいか,両方の考えが正しいか(相対主義の理解)」,「A,Bそれぞれが実験参加児に遊ぼうと言ったらどう思うか(寛容性)」を尋ねた。幼児については誤信念課題もあわせて実施した。その結果,幼児においても課題によっては相対主義の理解がみられた。また,どの年齢群も,領域を考慮して判断していたが,寛容性判断において年齢とともに道徳領域が分化していった。「好み」に対する相対主義の理解がみられなかったのは,課題として提示されたアイスクリームのおいしさが,子どもにとって絶対的なものなのかもしれない。そこで,研究2では,子どもにとってあまり魅力的ではない食べ物(野菜)を材料にした補足実験を行った。その結果,「野菜」課題において相対主義理解の割合が増加した。また,心の理論と相対主義の理解に関係がみられた。最後に,本研究の結果をもとに,文化差について議論した。
  • 首藤 敏元, 二宮 克美
    2014 年 25 巻 4 号 p. 356-366
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,母親の個人の自律性の概念と子どもの個人領域概念の獲得との関係を明らかにすることである。日本人の既婚女性34名と彼女らの子ども34名(平均年齢5歳10カ月)が面接に協力した。34名の女性は4種類の夫婦葛藤場面を提示され,それぞれについて夫と妻のどちらが最終決定をすべきかを答え,その理由を述べた。その後,子どもが親の指示に反発する場面を提示され,そこでのしつけの仕方について回答した。参加者の子ども34名は,母親と同じ子どもの反発場面が提示され,主人公の行動の悪さ判断とその理由が求められた。結果として,参加者は自律性を夫側に帰属させる傾向のあること,夫婦を互いに独立した関係とみなす参加者と階層的関係にあるとみなす参加者とでは子どもの反抗場面でのかかわり方に違いがあること,さらに子どもの道徳的判断にも違いが認められることが示された。母親の自律性の概念は家庭における子どもの道徳的発達の社会的文脈に反映し,子どもの個人領域の発達に影響することが示唆された。
原著(公募)
  • 小野田 亮介
    2014 年 25 巻 4 号 p. 367-378
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー
    社会的領域理論では,思考の基盤となる概念を「道徳」,「慣習」,「個人」の3領域に区別する。そして,実際の問題に対して人は3領域のいずれか,あるいは複数領域に基づく「領域調整」によって判断や行為を行うと考える。そこで本研究では,説得を目的とした意見文産出において,児童が説得対象者に合わせていかに領域調整を行うかについて検討した。まず,予備実験を実施し,本実験で用いる校則に関する意見文課題の適性を評価し,分析枠組みとなる理由づけカテゴリを作成した。本実験では,小学校4年生の1学級30名を対象に意見文課題を実施した。説得対象者として,校則に関する知識量の多い「親友」と,知識量の少ない「転入生」を設定し,(1)説得対象者に合わせた児童の領域調整の特徴,(2)領域調整に対する児童の困難感,の2点について検討した。その結果,転入生に対しては慣習領域の理由が多く産出され,親友に対しては個人領域の理由が多く産出されていた。また,説得に困難さを感じる児童ほど,領域調整によって質の異なる理由産出を行う傾向が認められた。以上より,児童は説得対象者に応じた領域調整の必要性を認識し,説得対象者に合わせた理由産出をしていることが明らかになった。ただし,領域調整の必要性を認識することで,かえって多様な理由を産出できない児童がいることも示された。
  • 鈴木 亜由美
    2014 年 25 巻 4 号 p. 379-386
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,幼児において道徳的にネガティブな結果をもたらした加害者の信念を推測する際には誤りが生じやすいのかどうかを検討したものである。3–4歳児,4–5歳児,5–6歳児,合計71名に対して,行為者の同一の誤信念が道徳的にネガティブ,ポジティブ,ニュートラルな結果をもたらす3条件での誤信念の理解を問い,標準誤信念課題との正答率の差を検討した。加えて行為についての道徳的判断と理由づけを求めた。その結果,ニュートラル条件とネガティブ条件においては,標準誤信念課題よりも信念質問の正答率が低くなることがわかった。また,行為の背後にある誤信念を正しく理解している幼児であっても,非意図的行為がもたらす結果がネガティブかポジティブかに影響された道徳的判断を行うことが示された。一方で判断の根拠においては,誤信念を理解しない子どもに比べて,行為の意図性に言及した理由づけが多く見られることがわかった。これらの結果より,誤信念課題に道徳的文脈が加わることにより,加害者バイアスと状況の複雑さという2つの要因が影響し,幼児にとって誤信念の推測が難しくなることが示唆された。
  • 一柳 智紀
    2014 年 25 巻 4 号 p. 387-398
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,社会文化的アプローチに基づき,道徳授業を通した児童の道徳性の発達過程を明らかにすることである。そこで,道徳授業において扱う資料について児童が自分の判断や気持ちを表現したワークシートの記述を道徳性を媒介する言語と捉え,その変化を小学1年生の学級において縦断的に検討した。結果,当該学級で用いられた主人公や自分の気持ちを可視化するための「心の表情カード」を記述する際,当初児童の多くは教師が提示した見本の表情をそのまま使用していたが,徐々に見本をアレンジしたりオリジナルの表情を使用する児童が増加していったことが示された。そして,後者の児童の多くは主人公や自分といった1つの視点あるいは複数の人物の視点から,異なる複数の考えを記述していた。ここから,当該学級における道徳授業を通した児童の道徳性の発達は,自分なりの表情を用いながら,様々な視点から異なる複数の考えを,その間での葛藤を伴い表現するという言語を,当該学級における「ヴァナキュラーな道徳的言語」として専有していく過程と捉えることができた。ただし,こうした道徳性の発達は一方向的に進むのではなく,授業で扱う課題の内容や「心の表情カード」の変化により,行き来しながら進んでいることが示された。
  • 村上 達也, 西村 多久磨, 櫻井 茂男
    2014 年 25 巻 4 号 p. 399-411
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は他者のネガティブな感情とポジティブな感情の双方に着目した“子ども用認知・感情共感性尺度”の信頼性と妥当性を検討すること,共感性の性差および学年差を検討すること,そして,共感性と向社会的行動および攻撃行動の関連を検討することであった。小学4年生から6年生546名,中学生1年生から3年生646名に対して調査を行った。因子分析の結果,子ども用認知・感情共感性尺度は6因子構造であった。それらの因子は,共感性の認知的側面である,“他者感情への敏感性(敏感性)”と“視点取得”の2因子と,共感性の感情的側面である,“他者のポジティブな感情の共有(ポジ共有)”,“他者のポジティブな感情への好感(ポジ好感)”,“他者のネガティブな感情の共有(ネガ共有)”,“他者のネガティブな感情への同情(ネガ同情)”の4因子であった。重回帰分析の結果,小中学生で敏感性とネガ同情が向社会的行動を促進していることが明らかになった。また,小学生高学年ではポジ好感が身体的攻撃と関係性攻撃を抑制することが明らかになった一方で,中学生では視点取得が身体的攻撃と関係性攻撃を抑制することが明らかになった。
展望(依頼)
  • 登張 真稲
    2014 年 25 巻 4 号 p. 412-421
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー
    最近,共感の神経基盤を明らかにするための神経イメージング研究が盛んに行われている。本研究ではそのうちのいくつかを紹介し,それらの研究から共感に関連してどのようなことが分かったのかを,従来の共感の概念や理論と対照させながら検討した。最近の研究によると,身体的痛みや社会的痛み等への共感は,自分自身の痛み等の処理に関与する領域(島前部と帯状皮質前部等)と,アクション理解に関与する領域(下前頭回弁蓋部等),メンタライジング(心的状態の推測)に関与する領域(前頭前野背内側部,側頭–頭頂接合部,楔前部等)を活性化させた。また,それらの脳部位は共感の重要要素である他者との感情共有と他者の感情理解において重要な役割を果たすことが示唆された。さらに,共感は自動的に起こるとは限らず,状況要因や観察者の特徴によっては調整される場合もあることが明らかになった。向社会的行動の神経基盤を検討する神経科学的研究も見られるようになっており,この分野における新興のテーマの一つとなっている。
  • 渡辺 弥生
    2014 年 25 巻 4 号 p. 422-431
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー
    発達心理学研究において,道徳性および向社会的行動研究がどのように展開してきたかを概観し,今日学校予防教育が学校に導入しうるに至った経緯を考察した。子どもたちが社会的関係を築く能力や感情的なコンピテンスをどのように獲得するか,またいかに道徳的な価値を学びとるようになるのかは多くの研究の関心事であった。その後,研究と実践の橋がけに関心が抱かれ,道徳教育,ソーシャル・スキル・トレーニング,さらには社会性と感情の学習等のアプローチが,いじめを含むあらゆる学校危機を予防するために学校に導入されつつある。近年,こうした異なるアプローチがしだいに統合されつつあるが,これは,社会的文脈の一つとして学校全体が視野に入れられ,子どもたちが望ましい役割を適切に果たしていくために,認知,感情,行動のスキルが必要だというコンセンサスが得られてきたからであろう。今後,道徳性や向社会的行動の育成を意図した学校予防教育のさらなる発展に発達心理学研究の一層の活用が期待される。
  • 青木 多寿子
    2014 年 25 巻 4 号 p. 432-442
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,米国で実施されている品格教育について,その考え方や具体例を示し,品格教育の理論と実際を心理学の用語を含めて紹介することである。そこでまず,品格教育の概要を理解するため,品格教育が目指す姿を紹介し,その中でCharacterという言葉,品格教育が重視する徳について解説した。また全米で品格教育を推進するCEPの11の原理を紹介し,品格教育が目指す教育について解説した。次に,筆者が視察した3つのセンターとその特徴を記述する中で,品格教育が実際にどのように理解され,実践されているのかを具体的に示した。最後に,ポジティブ心理学や教育心理学との関係について紹介し,日本の道徳教育との相違点を述べて,実践としての品格教育の特徴を心理学の用語を用いてまとめた。
展望(公募)
  • 鹿子木 康弘
    2014 年 25 巻 4 号 p. 443-452
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー
    我々は生まれながらにして向社会的なのだろうか? より大胆に言えば,我々は生まれながらにして善なのだろうか? 近年の乳幼児研究によって,発達初期におけるヒトの向社会性が明らかにされつつある。しかしながら,発達科学からのヒトの向社会性の本質についての議論は少ない。そこで,本稿では,実証的な発達研究をもとに,向社会性の性質やその変容を明らかにすることを目的とした。まず,進化生物学の理論を考察することにより,ヒトにおいて向社会性がいかにして形成・維持されるのかを議論する。次に,乳幼児期から就学前児を対象にした向社会性に関連する一連の研究を概観し,ヒトの向社会性は,発達早期において生来的な性質を持つが,発達とともにその性質が変容することを示した。更にその変容を促す要因(社会化,認知能力の発達,暴力的な場面やメディアなどへの接触経験)を考察することにより,発達早期における向社会性がいかに変容するかを描写した。最後に,向社会性の本質の更なる理解のために,今後の方向性として,その生起メカニズムや変容の解明についての試論を行った。
原著
  • 河本 愛子
    2014 年 25 巻 4 号 p. 453-465
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー
    学校行事は授業と同様,すべての者が経験する教育活動であるにもかかわらず,どのような発達的意義を有するのかについては検討されてこなかった。そこで本研究では,中学・高校における学校行事体験に対する大学生の回顧的意味づけに着目して検討を行った。大学生670名を対象に質問紙調査を行い,中学・高校の学校行事体験を想起してもらった結果,6つの意味づけが見出された。それらは「集団への肯定的感情」,「他者意識の高まり」,「集団活動に対する消耗感」,「問題解決への積極性」,「他者統率の熟達」,「学校活動への更なる傾倒」であった。これらの意味づけにつながる参加の仕方を検討した結果,傾倒のみがすべての意味づけに関連していた。次に,傾倒に関連する活動の質を検討した結果,目標志向的に行動することが最も大きな関連を示していた。最後に,個人のパーソナリティ特性の調整効果を検討した結果,調和性の程度によって,活動の質と傾倒との関連の大きさが異なることが示された。以上より,中学・高校における学校行事体験がライフイベントとして個人の発達上,重要な意味を有することが示唆された。今後は,縦断研究を用いて,個人特性の違いを考慮した上で活動の発達的機能と影響過程を検討する必要があるだろう。
  • 西中 華子
    2014 年 25 巻 4 号 p. 466-476
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー
    本研究では小学生の居場所感の構造を心理学的観点および学校教育的観点から検討し,居場所づくりの実践研究への示唆を得ること,および性差・学年差の検討を目的とした。まず心理学における先行研究を概観し,居場所感の要素として「被受容感」,「安心感」および「本来感」を仮定した。加えて教育分野における居場所の提言や論考を参考に,「充実感」および「自己存在感」を仮定した。これらに関する計35項目を準備し,小学4~6年生の児童,男女合計931名を対象として調査を実施した。因子分析の結果,「被受容感」「充実感」「自己存在感」「安心感」の4因子が確認され,教育分野の実践においていわれている「充実感」や「自己存在感」が小学生の居場所感の一要素を表すことが明らかにされた。一方で青年期の居場所感において重要視されている「本来感」が小学生の段階では重視されない可能性が示唆された。これらのことより,小学生を対象とした居場所づくりでは,「被受容感」「充実感」「自己存在感」「安心感」を促進するような介入方法の必要性が示唆され,青年期とは異なる介入の検討が必要であると考えられた。また小学生の居場所感において,「被受容感」および「充実感」は5年生および6年生よりも4年生のほうが,「自己存在感」は5年生よりも4年生のほうが高いことが明らかにされた。さらに男子よりも女子のほうが「被受容感」および「安心感」が高いことが明らかになった。
  • 村山 恭朗, 伊藤 大幸, 高柳 伸哉, 松本 かおり, 田中 善大, 野田 航, 望月 直人, 中島 俊思, 辻井 正次
    2014 年 25 巻 4 号 p. 477-488
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー
    反応スタイルは抑うつの維持もしくは悪化を引き起こす要因である。本研究は小学4年生から中学3年生の5,217名を対象とし小学高学年・中学生用反応スタイル尺度を開発することを目的とした。既存の反応スタイル尺度を参考に,「反すう」,「問題解決」,「思考逃避」,「気晴らし」の4因子を想定した原案16項目を作成した。探索的因子分析の結果,想定された通り小学高学年・中学生用反応スタイル尺度は4因子(「反すう」,「問題解決」,「思考逃避」,「気晴らし」)で構成されることが示された。さらに各因子間に認められた相関は先行研究の知見に沿うものであった。また信頼性に関して,各下位尺度のα係数は概ね基準以上の値であることが確認された。外在基準とした抑うつおよび攻撃性との相関を検討したところ,「反すう」は正の相関,「問題解決」および「気晴らし」は負の相関を示した。これらの結果は先行研究に沿うものであり,小学高学年・中学生用反応スタイル尺度の構成概念妥当性が確認された。
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