発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
26 巻, 1 号
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原著
  • 千島 雄太
    2015 年 26 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/03/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,多くの青年が主体的に自己の変容を望んでいるにもかかわらず,変容が実現されにくい原因の一つとして,自己変容のメリット・デメリット予期に伴う葛藤を仮定し,葛藤の特徴について学校段階による比較から明らかにすることを目的とした。予備調査では,自己変容と現状維持に関するメリットとデメリットを自由記述形式で尋ね,記述を分類した。その分類結果から自己変容のメリット・デメリット予期項目を作成し,中学生,高校生,大学生・専門学校生1162名に本調査を行った。3つの学校段階と自己変容の予期得点を組み合わせた5群の連関を検討した結果,中学生では“予期低群”と“現状維持メリット予期群”,高校生では“回避–回避葛藤群”,大学生・専門学校生では“自己変容メリット予期群”と“接近–接近葛藤群”の割合が有意に多いことが明らかになった。さらに,学校段階と自己変容の予期5群を要因とした二要因分散分析を行った結果,葛藤は自尊感情や内省の発達に伴って変化することが示された。また,“自己変容メリット予期群”と“回避–回避葛藤群”で自己変容の実現得点が低く,内省を深め,現在の自分を肯定的に受け止めることが自己変容の契機になることが示唆された。
  • 村山 恭朗, 伊藤 大幸, 浜田 恵, 中島 俊思, 野田 航, 片桐 正敏, 髙柳 伸哉, 田中 善大, 辻井 正次
    2015 年 26 巻 1 号 p. 13-22
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/03/20
    ジャーナル フリー
    これまでの研究において,我が国におけるいじめ加害・被害の経験率は報告されているものの,いじめに関わる生徒が示す内在化/外在化問題の重篤さはほとんど明らかにされていない。本研究は,内在化問題として抑うつ,自傷行為,欠席傾向を,外在化問題として攻撃性と非行性を取り上げ,いじめ加害および被害と内在化/外在化問題との関連性を調査することを目的とした。小学4年生から中学3年生の4,936名を対象とし,児童・生徒本人がいじめ加害・被害の経験,抑うつ,自傷行為,攻撃性,非行性を,担任教師が児童・生徒の多欠席を評定した。分析の結果,10%前後の生徒が週1回以上の頻度でいじめ加害もしくは被害を経験し,関係的いじめと言語的いじめが多い傾向にあった。さらに,いじめ加害・被害を経験していない生徒に比べて,いじめ被害を受けている児童・生徒では抑うつが強く,自傷を行うリスクが高かった。いじめ加害を行う児童・生徒では攻撃性が強く,いじめ加害および被害の両方を経験している児童・生徒は強い非行性を示した。
  • 菅沼 慎一郎
    2015 年 26 巻 1 号 p. 23-34
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/03/20
    ジャーナル フリー
    「諦める」ことの精神的健康に対する機能に関しては相反する知見が存在する。これまで「諦める」ことの行動的側面が注目されてきたが,「諦める」ことをプロセスとして捉えることでその精神的健康に対する機能がより明確になる可能性がある。本研究では,青年期において「諦める」ことが体験されるプロセスとその精神的健康に対する機能を質的に検討することとした。後青年期(22~30歳)の男女15名を対象に,過去の諦め体験に関して半構造化面接を行い,29エピソードを得た。M-GTAを用いた分析の結果,24概念が生成された。予備的な分析を行った結果,【実現欲求低下】という概念を得,これが「諦める」ことの精神的健康に対する機能と関連する可能性が示唆された。この【実現欲求低下】を軸に「諦める」プロセスを分析した上で,未練型,割り切り型,再選択型の3つに分類し,各々の型の詳細なプロセスに関するモデルを生成した。諦めることの機能に関しては,【実現欲求低下】と【達成エネルギーの転換】が重要な役割を果たしており,割り切り型と再選択型という2つのプロセスにおいては諦めることが建設的に働き,未練型においては非建設的に働くことが示唆された。最後に本研究の限界と課題について論じた。
  • 永瀬 開, 田中 真理
    2015 年 26 巻 1 号 p. 35-45
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/03/20
    ジャーナル フリー
    本稿では自閉症スペクトラム障害(ASD)児・者におけるユーモア体験の特性について,構造的不適合の評価と刺激の精緻化の視点から,思春期・青年期のASD児・者19名と定型発達児・者46名を対象に検討した。検討の結果,定型発達児・者において概念レベルの構造的不適合とスキーマレベルの構造的不適合との間でユーモア体験の強さに差が見られたのに対して,ASD児・者において概念レベルの構造的不適合とスキーマレベルの構造的不適合との間でユーモア体験の強さに差は見られないことが明らかになった。この結果の背景として,ASD児・者における弱い中枢性統合の特徴による概念レベルの構造的不適合の評価の困難さ,スキーマレベルの構造的不適合における因果関係の自発的な推測,それぞれの構造的不適合における刺激の精緻化のしやすさの影響があることが考えられた。また刺激の精緻化については,ASD児・者は定型発達児・者に比べてスキーマレベルの構造的不適合において非社会的な情報に関する推測を多く行うことが明らかになった。
  • 浜名 真以, 針生 悦子
    2015 年 26 巻 1 号 p. 46-55
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/03/20
    ジャーナル フリー
    子どもは本来より広いもしくは狭い範囲でその語の意味を捉えていることがあり,徐々に大人に近づくと言われている。本研究では幼児期における感情語の意味範囲の発達的変化を検討した。2~5歳児クラスの幼児118名を対象として,ストーリーを聞かせて主人公のキャラクターの感情を尋ねるストーリー課題と,表情写真からモデルの感情を尋ねる表情写真課題を行った。正答誤答に依らず課題を通して使用した感情語の数は2歳児クラスが3,4,5歳児クラスより少なかったものの,3~5歳児クラスの間では差が見られなかった。ストーリー課題では2歳児クラスの子どもは呼び分けが曖昧で,3,4歳児クラスになると快不快の呼び分けがなされるようになり,5歳になると不快感情内についても呼び分けができるようになることがわかった。表情写真課題では2歳児クラスの時点で喜び,驚き刺激を呼び分けており,2歳児クラスで他の不快刺激と呼び分けていた怒り刺激を3歳児クラスになると他のネガティブ感情刺激といったん一括りに捉え,4歳児クラスになると怒り刺激と嫌悪刺激が,また,恐怖刺激と悲しみ刺激が同じ語で呼ばれるようになり,5歳になると各刺激がばらばらに呼び分けられ始めることが示された。このことから,感情語においても新しい語が使えるようになった後もレキシコンの再編成が続き,語の意味範囲が変化していくことが示された。
  • 平井 美佳, 神前 裕子, 長谷川 麻衣, 高橋 惠子
    2015 年 26 巻 1 号 p. 56-69
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/03/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,わが国の未就学児に必須な養育環境とは何かについて,人々の持つ素朴信念を検討し,相対的貧困の指標とされる社会的必需品を考える一助とすることを目的とした。研究1では,先行研究を検討し,専門家および未就学児の親の意見を加味して40項目から成る「乳幼児に必須な養育環境リスト(What Children Need List:WCNリスト)」を作成した。未就学児の母親484名を協力者として,自分の子どもの養育環境の充足の程度を確認したところ,37項目で合意基準(50%以上)を超え,また,主観的経済状態を統制した上でも養育環境が充たされているほど子どもの発達が良好であるという関連が見出され,WCNリストの妥当性が確認された。研究2では,WCNリストを用いて未就学児の親503名(2a),性別と居住地域を人口動態に合わせた全国の市民1,000名(2b),および,未就学児のひとり親74名(2c)を協力者として,「現在の日本の子どもが健康に育つために必要である」と考える程度について尋ねた。その結果,合意基準を超えた項目は,2a~2cのそれぞれで19項目,9項目,30項目とサンプルにより異なり,特に未就学児を養育している当事者である,女性である,年代が若いことが合意を促進する要因であることが明らかになった。この結果について,本研究の限界と将来の課題を論じた。
  • 山本 晃輔
    2015 年 26 巻 1 号 p. 70-77
    発行日: 2015年
    公開日: 2017/03/20
    ジャーナル フリー
    本研究では,重要な自伝的記憶の想起がアイデンティティの達成度に影響するのかどうかについて検討した。実験では,231名の参加者にアイデンティティ尺度(下山,1992)を実施した後,重要度の高い(重要度高群),あるいは重要度の低い(重要度低群)自伝的記憶の想起をそれぞれに求め,その後再度アイデンティティ尺度を実施した。実験の結果,自伝的記憶想起前には,重要度高低群間のアイデンティティ尺度得点に差がみられなかったが,想起後には重要度高群の方が低群と比べてアイデンティティ尺度得点が高くなった。また,重要度の高い自伝的記憶は,それが低い自伝的記憶と比較して鮮明であり,感情喚起度が高くかつ快であり,想起頻度が多く,アイデンティティを形成する中心的な役割を果たしている可能性が示唆された。考察では重要な自伝的記憶の想起がどのようにしてアイデンティティの形成を促進させるのかについて解釈が行われるとともに,今後の課題が議論された。
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