発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
27 巻, 1 号
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原著
  • 松﨑 泰, 川住 隆一, 田中 真理
    2016 年 27 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/20
    ジャーナル フリー
    本研究では,自閉スペクトラム症(ASD)者がネガティブ感情を抱く他者へ共感する際に,自己注視的認知過程・他者注視的認知過程のどちらをとりやすいかを検討した。他者のネガティブ感情を知覚する際には「もし自分が相手のようになったら」といった,他者と自分自身についての情報を関連させた推論である自己注視的認知過程か,性格など他者についての情報に依拠した推論である他者注視的認知過程をとる。ASD者の共感の困難さの一側面として,不快や不安といった個人的苦痛が生起しやすいことが指摘されており,個人的苦痛の生起と自己注視的認知過程の関連が指摘されている。しかしASD者の自己注視的・他者注視的認知過程のとりやすさを直接検討した先行研究は見当たらない。15名の思春期・青年期ASD者と577名の典型発達男性に「恐怖」・「悲しみ」・「怒り」を抱く人物の図を見せ,各図について自由な書字表出(自由反応)と,自身が自己注視的・他者注視的認知過程のどちらをよりとったかについての自己報告(選択反応)を求めた。結果,「恐怖」における選択反応のみで,ASD者は典型発達男性と比較して他者注視的認知過程より自己注視的認知過程をとったと回答した者が多くみられた。恐怖を抱く他者へ,思春期・青年期ASD者が自己注視的認知過程をとりやすいことについて,彼ら/彼女らの恐怖の感じやすさ及び,恐怖経験の蓄積のしやすさとの関連が示唆された。
  • 鬼塚 史織
    2016 年 27 巻 1 号 p. 10-22
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/20
    ジャーナル フリー
    本研究では,乳幼児を抱える母親の地域の子育てグループへの参加過程を母親の居場所という視点から示し,当事者間で展開される支援として母親が得た体験を理解し,そこから支援者のあり方を考察することを目的とした。分析の対象者は,子育てグループの運営に携わった経験のある母親11名であり,子育てグループにおける居場所と参加のあり方に関して半構造化面接を行った。修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いた分析の結果,6つのカテゴリが得られ,【子育てグループとの出会い】から【一参加者としての交流】,【居場所となる】,【運営への参加】,【主体的な運営】,そして【子育て支援の展開】に至るという参加過程を示した。子育てに悩む一母親が運営に参加するという転換期を迎え,支援をする側へと変化する姿が捉えられた。この背景には,子育てをする一母親としての学習と,地域の子育て支援者としての学習という2つの学習過程が考えられた。また母親の居場所は,子どもとともに受容され,本来の自分を取り戻す場所であることに加えて,担った役割を達成し,充実感が得られるというような居場所へと変容することが示唆され,支援者はそれを理解し支えることが有用だと考えられる。
  • 中道 直子
    2016 年 27 巻 1 号 p. 23-31
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/20
    ジャーナル フリー
    他者の想像の枠組みを理解し,維持する能力を子どもに要求する社会的ふり遊びは,比較的洗練された形式のふり遊びだと考えられてきた。本研究は,どのようにして年上のきょうだいが,トドラーを社会的ふり遊びへ参加するように導くのかを検討した。26人の年上のきょうだい(M=5歳5ヶ月)は,彼らの年下のきょうだいであるトドラー(M=1歳11ヶ月)の前で,オヤツを本当に食べる様子(本当条件)と,オヤツを食べるふりをする様子(ふり条件)を観察された。年上のきょうだいは,本当条件よりふり条件で頻繁にまた長い時間微笑し,トドラーを注視し,効果音をより使い,オヤツ動作をより行った。さらに行動系列分析の結果は,ふり場面においてきょうだい間で表情や動作の模倣が生じていたのではないことや,きょうだいがふり動作をして,トドラーを注視し,微笑するといった特定の行動パターンを呈示した後に,トドラーはふり遊びに参加する傾向があることを示した。本研究の結果は,Rogoff(2003/2006)の「導かれた参加」の観点で論じられた。
  • 川本 哲也, 榊原 良太, 村木 良孝, 小島 淳広, 石井 悠, 遠藤 利彦
    2016 年 27 巻 1 号 p. 32-46
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,東京大学で行われている「体験活動」と呼ばれる課外活動を通じて,大学生の社会情緒的側面がいかに発達するのかを検討することであった。分析対象者は276名(男性:164名,女性:106名,性別無回答6名)であり,一時点目の調査時点での平均年齢は20.46歳(SDage=1.43,Medianage=20,レンジ:18–27歳)であった。分析の対象とされた変数は,パーソナリティ特性,首尾一貫感覚,感情制御方略であった。各パーソナリティ特性と首尾一貫感覚の相対的な安定性,平均値の変化,および変化の個人差についてそれぞれ検討を行った。その結果,パーソナリティ特性と首尾一貫感覚は活動前後で高い程度で相対的に安定していることが示された。また平均値の変化については,外向性と首尾一貫感覚において統計的に有意な得点の上昇がみられた。さらに,その変化の個人差は,個人の感情制御方略の傾向によって一部説明されることも明らかとなった。分析結果より,肯定的再評価をよく用いるものほど外向性のレベルがより高くなる方向へ変化し,受容をよく用いるものほど外向性のレベルがより下がることが示された。本研究の結果は,大学生においても体験活動のような課外活動への参加が社会情緒的発達に対して効果的である可能性を示唆している。
  • 和田 美香
    2016 年 27 巻 1 号 p. 47-58
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,ひきこもり青年のきょうだいが家族から自律していく過程について,家族に対する気持ちと関わりに着目して体験の径路を描くこと,自律を援助するおよび妨げる社会文化的な影響を明らかにすることを目的とした。思春期・青年期に同胞がひきこもり状態にあった,そのきょうだい3名の発話データを,複線径路等至性モデルを用いて分析した。その結果,きょうだいの自律の径路は4つの時期からなり,同胞の変化に直面する時期,「変わってほしい」と「変わらない」を循環する時期,タイミングを見つつ距離を置く時期,割り切りと自己コントロールの時期を辿ることが明らかとなった。また,それらの径路には,ひきこもりを抱える家族からの自律という意味と,青年期の自立の意味があることが示された。きょうだいが自律に向けて家族から距離を置く時期では,儒教文化に基づく家に押しとどめようとする作用と,産業社会を背景にした進学時には自主性を尊重する作用との相反するような社会文化的な影響を受けることが示唆された。最後に,思春期・青年期におけるきょうだいの発達的変容について考察した。
  • 伊藤 大幸, 野田 航, 中島 俊思, 田中 善大, 浜田 恵, 片桐 正敏, 髙柳 伸哉, 村山 恭朗, 辻井 正次
    2016 年 27 巻 1 号 p. 59-71
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/20
    ジャーナル フリー
    保育士評定による年長時の発達特性が,就学後6年間の心理社会的不適応をどのように予測するかを検討するとともに,その予測精度を最大化する観点から,保育要録用発達評価尺度(DSNR)を開発した。単一市内全保育所および小学校を対象とした7年間の縦断調査によって得られた6つの学年コホートの計2,400名のデータを,交差妥当化のため,ランダムに訓練データとテストデータに分割して使用した。保育所での発達評価には,165項目からなる「保育記録による発達尺度(NDSC)」を用いた。重回帰分析の結果,外在化問題に対しては,注意欠如多動性障害(ADHD)に関連する「落ち着き」や「注意力」,内在化問題に対しては,自閉症スペクトラム障害(ASD)に関連する「社会性」,「順応性」,「コミュニケーション」や発達性協調運動障害(DCD)に関連する「粗大運動」,学業成績に対しては,ADHDに関連する「注意力」,ASDに関連する「コミュニケーション」,DCDに関連する「微細運動」が有意な効果を示した。この分析で有意な効果を示した下位尺度について,項目レベルの重回帰分析を行い,予測に貢献していた35項目をDSNRの項目として選定した。確認的因子分析により,DSNRの信頼性と因子的妥当性が確認された。また,DSNRは大幅な項目数の縮減にもかかわらず,就学後の心理社会的不適応に対してNDSCと同等以上の予測力を示した。
  • 中尾 達馬, 村上 達也
    2016 年 27 巻 1 号 p. 72-82
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,児童期中期におけるアタッチメントの安定性を測定可能なカーンズ・セキュリティ・スケール(KSS)の日本語版を作成することであった。調査対象は,小学4年生から6年生の848名(平均年齢10.2歳,男児420名,女児428名)であった。本研究では,まず,KSSが性別や学年によらず1因子で構成されているとみなせるかどうかについて検討を行った。次に,KSSの信頼性について,内的整合性と再検査信頼性(3ヶ月)を確認した。最後に,KSSの妥当性については,以下の2つの方法で検討を行った。1つ目は,KSSは,アタッチメントの安定性と理論的な関連性・無関連性が想定される自己知覚尺度(i.e., 全体的自己価値感,友人関係評価,運動能力評価)と,どのような関連性を持つのか,であった。2つ目は,KSSは,8ヶ月後の共感性,友人関係良好度,孤独感,問題攻撃性を予測し得るかどうか,であった。これらの結果は,我々の仮説を支持していた。以上のことから,本研究で作成した日本語版KSSは,信頼性と妥当性という点において,十分な心理測定的属性を備えた尺度であるということが示唆された。
  • 永野 結香, 栗山 容子
    2016 年 27 巻 1 号 p. 83-93
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/20
    ジャーナル フリー
    本研究では歯科治療下における就学前児の不快情動行動,言語的情動調整方略,治療への適合行動の3つの側面から,その発達的特徴を検討することを目的とした。対象児は年少児(3:1~3:9)7名と年長児(5:0~6:5)8名で,う蝕治療の初診時に行動評定とチェックリスト,ICレコーダーの録音記録による参加観察を行った。不快情動行動は治療開始期と終了期の評定値の差から不快情動継続群と沈静群を判定した。また言語的情動調整方略を子どもの発話カテゴリの基礎分析から定義して,情動中心(EC)方略と問題中心(PC)方略を判定した。その結果,年少児群では不快情動が継続したが,年長児群は非表出か沈静化していた。また年少児群はすべてEC方略であり,年長児群ではPC方略であったことから,不快情動の沈静化にPC方略の効果が窺われた。また情動調整行動としての治療への適合行動を,治療者の指示に従う受動的行動と自ら行う主体的行動から検討した結果,受動的,主体的いずれの適合行動数も年長児群のほうが多いが,年長児群であっても主体的行動数が受動的行動数を上回ることはなかった。このことから非日常的な治療場面の自己調整行動は日常的な場面よりも困難である傾向が窺われた。これらの結果は発達的特徴を考慮した患者対応の理論的,実証的根拠になると考えられる。
展望
  • 堀口 康太, 大川 一郎
    2016 年 27 巻 1 号 p. 94-106
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/20
    ジャーナル フリー
    地域包括ケアの時代においては,身体機能の違いにかかわらず自律性を発揮することがwell-beingにとって重要になり,身体機能の異なる高齢者の自律性を統合的に検討する視点が必要になってくると考えられる。本論文では,身体機能の異なる高齢者の自律性を統合的に捉える視点を提案することを目的として,老年期を対象とした自律性研究における現状と課題が整理された。要支援・要介護高齢者を対象とした研究においては,高齢者ケアに即した関係性的側面,価値観や生活史との合致を考慮した自律性を実証的に検討することが課題であり,目標志向行動の中で自律性を評価する必要性があると整理された。自立高齢者を対象とした研究においては,他者・社会志向的側面など高齢者の置かれた社会的背景や発達課題を考慮した研究を蓄積していくことが主な課題として抽出された。これらの研究における課題を克服する統合的視点として,活動への自律的動機づけに着目する視点が提案され,その利点,意義および問題点が整理された。
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