発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
27 巻, 3 号
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原著
  • 石井 僚
    2016 年 27 巻 3 号 p. 189-200
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/09/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,青年の持つ時間的展望とアイデンティティ形成の関連について,アイデンティティ形成のプロセスおよびプロダクトの両側面に着目して検討した。大学生および専門学生108名を対象に,質問紙調査を行った。プロダクトの指標であるアイデンティティの感覚の高さによって研究参加者を3群に分け,時間的展望の様相および時間的展望とアイデンティティ形成プロセスとの関連を検討したところ,群間で差がみられた。時間的展望の様相の差異からは,アイデンティティの確立には未来への意識や態度が関連しているという先行知見と同様の結果に加え,本研究では,これまで検討が不十分であった過去や現在に対する意識や態度についても関連が示された。各形成プロセスと時間的展望との関連の差異からは,アイデンティティの感覚をどの程度持っているかに応じて,コミットメントやその再考など,青年が行うそれぞれの形成プロセスの意味や働き,またそれらを行う契機が異なることが示唆された。

  • 奥村 優子, 池田 彩夏, 小林 哲生, 松田 昌史, 板倉 昭二
    2016 年 27 巻 3 号 p. 201-211
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/09/20
    ジャーナル フリー

    評判は,人間社会における利他行動の促進や社会秩序の維持に重要な役割を果たしている。評判を戦略的に獲得するために成人は“評判操作”,つまり,他者に見られていることに敏感となり,他者の自分に対する印象や査定を操作する行動をとることが示されている。一方で,就学前の子どもにおいて,幼児が場面に応じてどのように評判操作をするのかは不明な点が多い。そこで本研究では,幼児の評判操作に関して2つの検証を行った。1点目は,5歳児が他者に観察されている場合に良い評判を得るように,また悪い評判を付与されないように評判操作をするかどうかであった。2点目は,5歳児が目のイラストのような他者を想起させる些細な刺激によって評判操作をするかどうかであった。研究1では,幼児が自分のシールを第三者に提供することで良い評判を得ようとするかを検討した結果,観察者,目の刺激,観察者なしの3条件で分配行動に有意な違いはみられなかった。研究2では,幼児が第三者のシールを取る行動を控えることにより悪い評判を持たれないようにするかを検討した結果,観察者条件では観察者なし条件に比べて奪取行動が減少した。一方,目の刺激条件と観察者なし条件とでは,行動に違いはみられなかった。これらの結果から,5歳児は悪い評判を持たれることに対して敏感であり,実在の他者から見られている際に戦略的に評判操作を行うことが示された。

  • 北田 沙也加
    2016 年 27 巻 3 号 p. 212-220
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/09/20
    ジャーナル フリー

    年少児(4歳児)・年長児(6歳児)に物の永続性課題(あり得る現象とあり得ない現象)を見せ,不思議に思ったかの評定と驚きの表情を基に,各現象を不思議に思うかどうかを調べた。その際,あり得ない現象の前に「魔法の国」の話をする魔法群を設定し,統制群と比較した。あり得る現象に対する評定や表情変化に有意な年齢差は見られなかったが,あり得ない現象に対しては評定に有意な年齢差が見られ,年少児より年長児の方があり得ない現象を見てより不思議だと思っていた。魔法群と統制群に有意な差は見られず,物理概念に及ぼす魔法の影響は見られなかった。また,物理概念と空想/現実を区別する能力との相関を調べたところ,空想的な絵の判断とあり得ない現象の評定に関連が見られたが,年齢を統制すると関連は見られなかった。つまり,現実世界と空想の世界の認識がまだ曖昧である年少児は,魔法の概念にかかわらずあり得ない現象もあり得ると思う傾向が強いが,年長児になると魔法の概念にかかわらず,あり得ない現象を現実世界のこととして認識し,不思議に思うようになることが示唆された。

  • 髙坂 康雅
    2016 年 27 巻 3 号 p. 221-231
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/09/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,大学生活の重点によって大学生を分類し,自立欲求や全能感,後れをとることへの不安,モラトリアムの状態,学習動機づけの比較を行うことで,現代青年のモラトリアムの多様性を明らかにすることである。大学生624名を対象に質問紙調査を実施し,大学生活の重点7標準得点をもとにクラスター分析を行ったところ,4クラスターが抽出された。クラスター1は自己探求や勉強に重点をおき,自己決定性の高い学習動機づけをもっていた。クラスター2はいずれの活動にも重点をおいておらず,大学での活動に積極的に取り組めていない青年であると判断された。クラスター3はすべての活動に重点をおき,自立欲求や後れをとることへの不安をもち,内発的動機づけだけでなく,外発的動機づけももっていた。クラスター4は他者交流や部活動,サークル活動に重点をおき,全能感が強いが,学業とは異なる領域での活動を通して職業決定を模索していた。これらの結果から,クラスター1はEriksonが提唱した古典的モラトリアムに相当し,クラスター4は小此木が提唱した新しいタイプのモラトリアム心理によるモラトリアムであり,クラスター3は近年指摘されている新しいタイプのモラトリアム(リスク回避型モラトリアム)であると考えられた。

  • 丹下 智香子, 西田 裕紀子, 富田 真紀子, 大塚 礼, 安藤 富士子, 下方 浩史
    2016 年 27 巻 3 号 p. 232-242
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/09/20
    ジャーナル フリー

    成人中・後期における死に対する態度の加齢変化について,縦断的データを用いて検討することを目的とした。分析対象者は「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第1次・第3次・第5次・第7次調査(約4年間隔)に参加し,死に対する態度尺度に回答した3789名(40~91歳)であった。死に対する態度尺度は「死に対する恐怖」,「死後の生活の存在への信念(民俗宗教的な死後存在の信念)」,「生を全うさせる意志(自殺の否定,最後まで生きる意志)」,「人生に対して死が持つ意味(生との関連で死を意味づけ)」,「身体と精神の死(QOLから死を位置づけ)」の5下位尺度から成る。線形混合モデルによる解析を行った結果,「死に対する恐怖」は成人後期半ばまでは加齢に伴い低下し,それ以降は経年変化を示さないこと,「死後の生活の存在への信念」は加齢に伴い低下すること,「生を全うさせる意志」と「人生に対して死が持つ意味」は高齢であるほど高得点だが経年変化は示されないこと,「身体と精神の死」は高齢であるほど高得点だが,成人中期初頭でのみ上昇することが示唆された。また,各下位尺度の測定時期間相関値には,部分的に年代による差異があり,成人中・後期にかけて死に対する態度の各側面において,異なる加齢変化が生ずる可能性が示唆された。

展望
  • 加藤 美朗, 嶋﨑 まゆみ, 松見 淳子
    2016 年 27 巻 3 号 p. 243-256
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/09/20
    ジャーナル フリー

    スミス・マゲニス症候群(Smith-Magenis syndrome;SMS)は,知的障害を併せて発症する遺伝性疾患で,17番染色体p11.2領域における中間部欠失あるいはRAI1遺伝子の突然変異が病因であり,発生率は約15,000人に1人とされる。多岐にわたる臨床的特徴,睡眠障害,行動問題の発現が特徴とされ,とりわけ発達に伴って発現頻度が上昇する行動問題は保護者や支援者にとって対応の最も困難な課題である。しかし,わが国の特別支援教育および障害者福祉の分野では,その特徴についてほとんど知られてはいない。そこで,本研究では,SMSの行動特性を中心に,行動問題の発現と関連する環境要因,および臨床的特徴,認知機能について概観した。結果は,反抗や攻撃行動,自傷行動,器物破損等が顕著にみられ,これらの発現は周囲の気を引くため,注目引き機能との関連が最も高いことが示唆された。さらに,行動問題が発現する背景として,睡眠障害や末梢神経障害,感覚処理障害,認知特性といったSMSに特有の生物学的要因が関係している。今後は,これら特性の理解と適切なアセスメントに基づく発達支援の構築が求められる。

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