発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
28 巻, 4 号
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特集序文
特集
原著(依頼)
  • 竹ノ下 祐二
    2017 年 28 巻 4 号 p. 176-184
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    ヒト以外の霊長類社会は生存のために必要な資源を独力で環境から獲得できる個体の集合である。それに対し,ヒト社会は分業や協業によって共同して環境から資源を獲得し,それを交換と分配のネットワークを通じて成員に配分する実践共同体である。そして,ヒト以外の霊長類社会における成長,成熟とは資源獲得において他者への依存を解消してゆくプロセスであるのに対し,ヒト社会においては逆に他者への依存関係が貧弱な状態から,実践共同体への参加を通じて他者との依存関係をより深めてゆくプロセスである。したがって,ヒト社会における養育とは“能力”ではなく“関係”を肩代わりしてやることである。本シンポジウムで提供された3つの話題における「逆境」,すなわち障がいや早産,過疎といった状況は,何らかの形で社会参加の道が阻まれている状態であると理解できた。そうした「逆境」に対する支援を行う際には,能力獲得の手助けや補填ではなく,いかにして社会参加への道を開くかという観点が重要である。

  • 高塩 純一
    2017 年 28 巻 4 号 p. 185-194
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    運動障害を主症状とする脳性まひのある子どもたちに対するリハビリテーションは,1950年代に台頭してきた神経発達学的アプローチを中心に学習理論等の影響を大きく受けて展開されてきたが,2001年に国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health: ICF)が世界保健機関(WHO)で採択されて以降,世界の小児リハビリテーションの流れは徐々に変化してきている。しかし,わが国では旧態依然とした方法論に基づくリハビリテーションからの脱却に苦悩している現状がある。本稿では,環境(人を含む)支援の視座から日常の臨床を再考するとともに,子どもたちの障害や運動をどのように理解すべきかを述べ,子どもたちが環境世界とよりよく出会うために現代の理学療法が取り組んでいる環境適応,姿勢制御,移動経験への支援の実際を紹介する。とりわけ,重力と折り合いつつ移動経験を積んでいくことの心身への発達的意義を指摘し,幼児期早期からの電動車椅子導入を推進するための制度整備の必要性を議論する。

  • 明和 政子
    2017 年 28 巻 4 号 p. 195-201
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    ヒトでは妊娠後期から生後1年にかけてシナプスが爆発的に形成され,脳の容積や厚みが増す。その後,生後の環境の影響を受けながら必要なシナプス結合は強められ,不要な結合は除去されることで,より機能的な神経回路が形成される(シナプス刈り込み)。こうした脳神経の可塑的変化は,ある一定の時期にのみみられる。早期産児は,脳の発達に顕著な変化が起こるこの時期に,胎内とは異なる環境に晒されて成長する。異質な環境が早期産児の脳神経系発達に与える影響を実証的に明らかにするため,私たちは出生予定日に達した早期産児および満期産新生児を対象とした研究を行ってきた。本稿では,現在までに得た実証データのいくつかを紹介し,周産期の脳神経系の成熟がとくに社会的認知の発達に関連する可能性について議論する。

  • 道信 良子
    2017 年 28 巻 4 号 p. 202-209
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    本稿では,島の子どもの遊びと伝統の祭りを素材に,子どものウェルビーイングについて考えていく。「いのちの景観」という概念を使って,子どものいのちに活力を与えるものは何かということの具体を,土地と文化という2つの局面から明らかにする。本稿で取り上げる事例は,ヘルス・エスノグラフィという方法論を用いて,2011年から2016年までの6年間,北海道の離島において断続的に実施した調査の資料にもとづいている。調査の結果,島の子どもたちは豊かな自然を遊び場にしていることがわかった。島の自然や生物とのふれあいをとおして子どもたちの人間関係が育まれ,自然が緩衝材となって子どもたちを結びつけていた。島の祭りでは,舞を観て,神輿行列に参加し,集落を踊り歩く子どもの行為が,土地に伝統をつないでいた。子どもにとって祭りは,土地を知り,地域を知る,身体の経験としてある。本研究は,子どもが土地や文化とつながり,生活感覚を豊かにすることの大切さを示している。

原著(公募)
  • 中道 圭人
    2017 年 28 巻 4 号 p. 210-220
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    本研究は,ふたり親家庭・母子家庭による幼児の社会的行動の違いについて検討した。ふたり親家庭の3–6歳児174名(男87,女87:M=62.04か月),母子家庭の3–6歳児201名(男107,女94:M=62.91か月)が公立の子ども園から参加し,仲間との関わりの中での社会的行動を担当保育者によって評定された。社会的行動の評定は,攻撃行動,向社会行動,被排斥,非社交行動,過活動,不安-怖がりを含んでいた。その結果,以下のことが示された:a)外在的な問題行動(攻撃行動,過活動),内在的な問題行動としての不安-怖がり,仲間関係の良好さに関わる被排斥では,ふたり親家庭・母子家庭による違いはなかった;b)母子家庭の幼児は,ふたり親家庭の幼児に比べて,仲間との関わりの中での向社会行動が少なく,非社交行動が多かったが,これらの違いはきょうだいの有無や評定者の保育経験年数に影響されていた;c)ふたり親・母子家庭のいずれにおいても,幼児の向社会行動は外在的/内在的な問題行動と負に関連し,外在的/内在的な問題行動は被排斥の多さをもたらした。これらの結果は,欧米と比べて日本では,母子家庭であることが幼児の外在的な問題行動や被排斥に及ぼす影響が小さいという可能性を示唆している。

  • 久保 瑶子
    2017 年 28 巻 4 号 p. 221-232
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    医療の進歩に伴い,先天性心疾患(以下,CHD)のある多くの患者が成人期を迎えることが可能になった。そのため,現在では青年CHD患者の「自立」の発達やその支援に関心が集まっている。本研究では,患者の「心理的自立」の発達的特徴を明らかにするために,中学生から社会人(29歳まで)のCHD患者92名と健常者273名に質問紙調査を行い,比較した。その結果,青年前期では両群で自立意識に有意な差はなく,女性よりも男性の自立意識が高いという共通の性差が見られた。一方,青年後期では,健常男性は男性患者よりも自立意識が高く,また男性の方が自立意識が高いという性差は,統制群では見られたが患者群では見られなかった。また,疾患の重さは自立意識に影響していなかったが,疾患をどのように捉えているのかが自立意識に影響していた。医療者や親,心理士等は,患者にとっては疾患を持っている状態が「普通」であることを念頭に置き,一人一人の発達のプロセスを尊重した自立支援を行っていくことが大切である。

原著
  • 堀井 順平
    2017 年 28 巻 4 号 p. 233-243
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,大学受験のとらえ方と大学受験に対するコーピングの組み合わせによる,特性的自己効力感やキャリア選択自己効力感の高さの違いについて検討した。まず,クラスター分析により,大学受験のとらえ方と大学受験に対するコーピングの組み合わせを抽出した。その結果,“肯定・積極群”,“半肯定・消極傾向群”,“否定・消極群”,“大学受験無関心群”の4群が抽出された。さらに,以上の4群を独立変数,特性的自己効力感およびキャリア選択自己効力感の下位尺度を従属変数として1要因分散分析を行ったところ,特性的自己効力感,目標選択および意思決定の主体性度において有意差が認められた。多重比較の結果,特性的自己効力感においては,“肯定・積極群”が“否定・消極群”や“大学受験無関心群”より有意に得点が高かった。また,目標選択においては,“肯定・積極群”が“否定・消極群”より有意に得点が高かった。さらに,意思決定の主体性度においては,“肯定・積極群”が“否定・消極群”より有意に得点が高く,“大学受験無関心群”が他の3群より有意に得点が低かった。以上の結果より,大学受験のとらえ方と大学受験に対するコーピングの組み合わせにより,特性的自己効力感とキャリア選択自己効力感の一部の高さが異なることが明らかとなった。そして,大学生を対象としたキャリア支援で,大学受験を視野に入れることの重要性が示唆された。

展望
  • 外山 紀子
    2017 年 28 巻 4 号 p. 244-263
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    ここ10年ほどの間に,幼児の選択的信頼(あるいは選択的な社会的学習)について多くの研究が行われるようになった。選択的信頼とは情報源としての信頼性という点から他者を区別し,特定の他者から学ぼうとする傾向をいう。これらの研究は,伝統的な子ども観,すなわち子どもは他者を信じやすく(あるいは騙されやすく),たとえ自分の考えとは異なるものでも他者の言うことを信じる傾向があるという見方に異議を唱えるものである。本稿では幼児期の選択的信頼に関する研究を,他者の認識論的属性(情報の正確さや確信度,専門性など)と非認識論的属性(年齢,馴染み,話しことばの特徴,身体的魅力や社会的地位など)という点から分けて,整理を行った。これまでの研究は幼児(とりわけ3歳児)の能力をどう評価するかについて,一種の緊張状態の中にあり,幼児が他者の情報を鵜呑みにせず合理的な手がかりに基づいて情報源を選択する能力があることをアピールする研究もあれば,逆に,他者の情報に懐疑的な目を向けることがいかに困難であるかを強調した研究もある。本論文では現在までの研究の概観をふまえた上で,このまだ若い研究分野が実践的,学術的にどのような意義をもつのか,そして今後の課題について論じた。

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