発達心理学研究
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29 巻, 4 号
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特集序文
特集
原著(依頼)
第1部
  • 林 美里
    2018 年 29 巻 4 号 p. 156-163
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

    ヒトの子どもの認知発達を研究する際に,進化的に近縁なヒト以外の霊長類と比べるという比較認知発達の知見が有益な示唆を与えてくれる。日本の霊長類学では,初期から研究成果を国際的に発信することが重要視されており,筆者は主にチンパンジーを対象として,物の操作という非言語的な指標を用いた一連の比較認知発達研究の成果について,国際的に発信してきた。道具使用の基盤となる定位操作に着目して,チンパンジーとヒトの子どもを直接比較した結果,両種で類似した認知発達過程が見られる課題があることがわかった。しかし,社会的な文脈が含まれる課題ではヒトの子どもの優位性が示され,課題の特性によって異なる結果が得られた。認知発達にかんする基礎的なデータが比較的少ないチンパンジー以外の大型類人猿にも対象を拡大し,物の操作以外にも研究内容の幅を広げている。また,認知発達の基盤となる母子関係などについても研究を展開している。究極の異文化としてのチンパンジーという対象を,フィールド調査も含めた手法から研究する中で感じた,比較認知発達の成果を国際的に発信するために必要なことや今後の課題などについて考察した。

  • 鹿子木 康弘, 奥村 優子
    2018 年 29 巻 4 号 p. 164-171
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

    研究を国際的に発信する意義を考えたとき,それは個人によって異なり,さまざまな動機や理由が存在するかもしれない。ある研究者にとっては,日本の子どもの独自性を主張する機会であったり,他の研究者にとっては,文化比較研究の発表の機会であったりするのかもしれない。しかし,筆者らは,日本という独自性を意識するというより,欧米の研究者と同様に,そして彼らと肩を並べるつもりで,普遍的な発達の現象を見つけ出したいという単純な動機によって,自身の研究を国際誌に発表してきた。本論文では,まず筆者らが国際誌に投稿してきた乳児研究を概観する。具体的には,発達早期の社会的認知発達,特に他者の行為理解のメカニズム,道徳・向社会性の発達,社会的学習といったテーマに関する実証実験を紹介する。そして,それらの研究を国際誌に発表する中で感じた,筆者なりの国際競争の中で研究を行う意義やその課題について考察し,日本の発達心理学の行く末を考えてみたい。

  • 溝川 藍
    2018 年 29 巻 4 号 p. 172-180
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

    本稿では,心的状態の理解と対人コミュニケーションの発達に関する筆者の研究を総括した上で,日本から世界に発達心理学を発信することの意義について考察した。はじめに,「見かけの感情と本当の感情の理解」をテーマに,見かけの泣きの理解の発達過程,並びに見かけの泣きの理解と心の理論の関連について検討した研究を概観した。次に,「他者評価に対する反応」をテーマに,幼児期における他者からの批判的評価に対する反応と心の理論の関連,並びに日本とイタリアの子どもの反応の差異について検討した研究を概観した。これらの研究知見の振り返りと再考察を通じて,子どもの心的状態の理解と対人コミュニケーションの発達を捉える際に,彼らがおかれている社会的文脈に目を向けることの重要性と,欧米のパラダイムの中では捉えきれない日本の子どもの発達の姿が示された。以上を踏まえて,日本独自の着眼点で子どもの発達を明らかにし,その知見を世界に発信することの意義を論じた。

  • 藤井 貴之, 高岸 治人
    2018 年 29 巻 4 号 p. 181-188
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

    近年,日本国内における発達研究の国際化が進んでおり,国際誌に日本発の英語論文が掲載されることも多くなってきた。しかし,学術論文を国際誌へ投稿することは,現在の心理学業界において最も優先される選択肢であるとは必ずしもいえないのが現状である。そのような中で,著者らは従来の発達心理学の枠を越えた,学際的なアプローチによってその成果を国際的な場で発表し続けてきた。本稿では,著者らがこれまで行ってきた,子どもを対象にした利他行動における他者の監視の効果に関する発達研究をまず紹介するとともに,日本発の発達研究をするにあたり,著者らが何故このテーマを選んだかについて述べる。最後に研究を国際的に発信する意義と今後の日本における発達心理学の展望について著者らの考えを記す。

第2部
  • 伊藤 哲司
    2018 年 29 巻 4 号 p. 189-198
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

    本論の目的は,世界に向けた研究対話をいかにひらいていくかについて考察することである。そのためにまず,「適応」という概念の越境について取りあげた。適応を「学問分野・ジャンル」,「国・地域」,そして「時代・時間」の3つの軸に沿って越境させてみたときに,どのような適応の像が浮かんでくるのかについての検討を行った。そこでは発達心理学などのなかで使われている概念を,多面的に検討しなおすフレームワークが示される。そのような概念的・理論的な検討を通して,適応のあらたな捉えなおしを試みた。その結果,適応には主体問題があり,自明の概念ではまったくないこと,人間自身が変わることなのか,外的な事柄(物理的・社会的環境)が変わることなのかという両方を適応は含意しうること,ある国・地域である時代・時間に暮らしているだけでは見えてこない適応のかたちがあることが明らかになった。最後に,このような試みが世界に向けた研究対話を内包していることを指摘し,発達心理学などの研究成果をいかに世界に向けて対話的にひらいていくことができるかについて考察した。

  • 則松 宏子
    2018 年 29 巻 4 号 p. 199-207
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

    本稿では日本の発達心理学研究を世界へ発信する意義について考え,そのための具体案を提示する。具体的には,これまでの「発達心理学研究」誌を中心に日本の発達心理学者による研究の特徴とその独自性について整理する。まず第一に,方法論的な面での日本の発達心理学研究の独自の強い点を概観する。量的・質的両アプローチの発展や,縦断研究の割合,さらに個人差をどう扱うかに関する議論などが挙げられる。第二に,研究テーマの独自性についていくつかの例を取り上げ紹介する。発達研究で取り上げられる日本という土壌での活動や行動指標のユニークさを挙げる。第三に,比較文化心理学的視点から日本の発達研究の独自性と有益性を整理し,時代・歴史的変遷も含め議論する。これらの背後には,日本の発達研究者の認識論がかかわっていることが示唆される。最後に,日本の発達研究の世界への発信を容易にするための具体的提案をまとめる。

  • 髙平 小百合
    2018 年 29 巻 4 号 p. 208-218
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

    日本の発達研究の国際化と国際貢献については,以前からの課題であった。本研究では,2017年度発達心理学会で開催された3つのシンポジウム「海外情報発信の飛躍」;「日本発信の可能性」;「発達心理学を世界に発信する―若手研究者の挑戦」の内容を踏まえ,発達研究の海外発信について,以下の3つの観点から考察する。

    第一の観点では,海外発信と「発達研究の文化依存性」について,発達研究の欧米(特に英語圏)からのパラダイムの輸入,研究と学位システムの制度化,国際比較研究の意義(意味ある国際比較とは)から考察する。第二の観点では,発達研究の「日本発海外発信の現状と学問的動向」について,近年の多様な分野の研究者による質の高い発達研究の事例を基に研究の学際化・細分化・国際化を考える。第三の観点は,今後の「さらなる躍進」のために,発達心理学会と学会誌「発達心理学研究」の役割と可能性を検討し,国際化への研究者支援として何が可能かを考えてみたい。最後に,海外発信を目指す研究者が見落としがちな研究の根底にあるべきものについて触れたい。

原著
  • 岐部 智恵子
    2018 年 29 巻 4 号 p. 219-227
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

    本研究は父親の抑うつの家族内伝達メカニズムを見出した先行研究(岐部,2016b)を発展させ,要因間の因果を仮定し父親の抑うつの影響性を推定することを目的とした。首都圏の幼稚園(12園)に通う年少児(3歳)を対象とした第1回調査の後,子どもが年長児(5歳)になった時点で第2回調査を実施し,両調査に参加し父親と母親の両方から回答を得られた135家庭のデータを分析した。交差遅延効果モデルによる因果の検討の結果,父親の抑うつの高さが2年後の父親評価による父子関係,及び夫評価による夫婦関係にネガティブな影響を及ぼしていることが明らかになった。これらはいずれも父親評定による変数であったことから,抑うつ症状による心理的機能状態への影響が父親自身の家族関係の認識に反映されたものであることが示された。個人の心理臨床的問題としての父親の抑うつを家族システムの中で捉え,家族関係への影響も視野に包括的に検討していく意義が確認された。

  • 角南 なおみ
    2018 年 29 巻 4 号 p. 228-242
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

    通常学級における発達障害児に関する研究は多数行われているが,ADHDを対象に教育実践の内実を教師の語りから明らかにした研究は今のところ見当たらない。そこで,本研究はADHD傾向がみられる子どもに対象を絞り,通常学級での関わりにおいて生じる教師の困難感のプロセスとその特徴を明らかにすることを目的とする。通常学級担任16名を対象に半構造化面接を行い,得られた29事例のデータをグラウンデッド・セオリー・アプローチにより分析した結果,8カテゴリーグループと仮説モデルを生成した。【通常の対応における困難場面】の後【個別対応】を行うがうまくいかない場合【教師の悩み】が生じ,その後,子どもの行動や認知に関する【特性理解】と良さや内面に焦点を当てた【子ども理解】による[子どもの多面的理解]が行われていた。それを契機に,状態を分析し教師自身の関わりを模索する中で子どもの認知の再構成が生じる【対応の再検討】と,その過程で【個別対応】とともに【学級での関与】がなされていた。考察では,教師の関わりについて,直接的関わりとしての【個別対応】,環境への配慮としての【学級での関与】,新たな関わりの契機としての[子どもの多面的理解]の3観点から教育的示唆を提示した。最後に,教師に生じる悩みの意義を検討した。今後の課題として,サンプリングの水準,モデルの精緻化,通常学級以外での連携構造の検討等の問題が挙げられた。

  • 村上 祐介, 澤江 幸則
    2018 年 29 巻 4 号 p. 243-252
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/12/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,ダイナミック・システムズ・アプローチにおける多重時間スケールの議論のもと,1名の自閉症スペクトラム障害(ASD)児の跳躍動作を縦断的に分析し,様々な課題や環境の中でどのように動作の変動が生じているのかを明らかにすることを目的とした。1年1ヵ月の期間で合計129回の跳躍動作を確認することができ,それらの動作は大小の変動を繰り返していることが示された。動作の変動は,安定した状態と不安定な状態を行き来する様子を表しており,特に不安定な状態は,安定した新たな状態への探索的プロセスとして運動発達上重要な局面であると捉えられる。そして,それらの動作の変動が生じる背景には,課題に対する適応の仕方が鍵を握る要因であり,とりわけASDの認知特性から,課題に対する注意の向け方が関係していると示唆された。最後に,動作の変動の様相をアトラクター・ランドスケープとして図示し,多様な発達の軌跡を描く子どもを対象とした運動発達研究の今後の方向性について検討した。

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