発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
30 巻, 1 号
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原著
  • 武田 俊信, 小正 浩徳, 郷式 徹
    2019 年 30 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

    オーガナイゼーションは物(整理整頓)と時間(時間管理)という2つの要素に大別される。大学時代は大いなる可能性を秘めた時期である一方,高校時代からの様々な変化により脆弱性をかかえた時期でもある。特にADHD傾向をもつ大学生にとってはオーガナイゼーションの困難さが躓きの石となる可能性が高い。本研究では日本の現状に鑑みて,講義内で施行可能な10から15分間,8回シリーズからなるオーガナイゼーション・スキル向上プログラムを作成し導入教育科目において新入生に対して実施し,クロスオーバー・デザインで効果を検証した。参加した大学生77名(男性26名)中,前期および後期介入クラスはそれぞれ33,44名で,うちADHD傾向高群は19名であった。結果,自己記入式オーガナイゼーション尺度の総得点および3つの下位尺度のうち整理整頓困難および時間管理困難で全般に一部留保つきではあるが有意な改善がみられた。またADHD傾向を有していると短時間のプログラムへの反応性が乏しいという仮説は否定された。有意な改善がみられなかった領域があり,またプログラムの効果の質的な分析ができていない,成績やウェルビーイングへの影響が不詳である,など今後の課題は山積しているが,今後も本邦の現状に合わせて大学生のオーガナイゼーション・スキルを支援するプログラムの開発・改良が模索されるべきである。

  • 佐々木 美恵
    2019 年 30 巻 1 号 p. 11-22
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

    東日本大震災および福島第一原子力発電所事故は,幼い子どもを預かり,育ちを支える保育現場に多大なる影響を及ぼした。本研究の目的は,地震災害,放射線災害下の保育実践上の負荷に対するレジリエンス要因として保育者効力感に着目し,精神的健康との関連について明らかにすることである。調査は,発災後1年の時点において,福島県A市下の私立幼稚園全20園の幼稚園教諭を対象として自記式質問紙調査を実施し,76名から回答を得た。その内,回答不備があった者を除く73名を分析対象者とした。調査内容には,保育者効力感,地震・放射線災害保育負荷,精神的健康が含まれた。分析の結果,管理職は保育経験が短い群に比べて,放射線問題をめぐる同僚との認識相違による負荷をより強く感じていたことが示された。保育経験が長い群,短い群の2群による多母集団同時分析では,保育経験に関わらず,保育者効力感が地震災害,放射線災害下での保育負荷を抑制することを介して,あるいは直接的に抑うつの抑制要因となることが示された。本研究の結果から,今後の災害発生への備え,あるいは災害時の保育者支援として,管理職を支援する園を超えたピアサポート・ネットワーク,および各園での研修,初任期保育者の研修等で活用できる災害時保育を含めた研修プログラム開発の有用性が考えられた。

  • 中島 美鈴, 稲田 尚子, 谷川 芳江, 山下 雅子, 前田 エミ, 高口 恵美, 矢野 宏之, 猪狩 圭介, 久我 弘典, 織部 直弥, ...
    2019 年 30 巻 1 号 p. 23-33
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,成人注意欠如・多動症(attention-deficit/hyperactivity disorder ; ADHD)患者に対する時間管理スキル習得のための集団認知行動療法の予備的効果検討を行うことである。対象は,20歳以上65歳未満のADHD患者8名(平均年齢:39.80歳,女性:男性=7:1)であった。介入プログラムは,ADHD患者の時間管理で困難を抱える6つの生活場面から構成されており,1回90分間計8回行った。参加者とその家族に対して,プログラム開始前(T1),終了後(T2),終了2ヶ月後(T3)の3時点で,質問紙への回答を求めた。本人評価では,CAARSの不注意/記憶症状,衝動性/情緒不安定,DSM-IV不注意症状,DSM-IV総合ADHD症状において,T1からT2時点およびT3時点で有意な改善が見られ,T3時点には臨床域以下に達していた。家族評価では,不注意/記憶症状においてのみ,T1-T3間で有意な差が見られた。介入プログラムの自覚的・他覚的な効果が示され,治療効果を認識する時期および症状について本人と家族間に差異のあることが示唆された。

  • 白井 利明
    2019 年 30 巻 1 号 p. 34-43
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

    脊髄損傷による中途肢体障害で7年間が過ぎ,自力で移動可能な一青年(男性,24歳)のライフ・ストーリー(急性期とリハビリテーション期の語り)が前方視的再構成法を使って分析された。その結果,第1に,青年は受障後の悩み苦しんだ経験を「よくあること」と社会的に標準化していた。第2に,病院の生活で疲れて何も考えていなかったのに,それを結末から振り返って「悩まなくてよかった」と意味づけた上で,「悩まない性格」という自己の変わらない特性に帰属し,一般化していた。第3に,悩み苦しんだ救急病院の時期を過去形で括り,リハビリテーション病院での機能回復の時期を今に至る現在形で括るというように時間の分節化を行っていた。これにより自分が同じであることと変化することの総合による自己連続性の構築がもたらされ,過去の否定的経験を無理に肯定化せずに保存することが可能になることが見出された。時間の分節化が将来において自分の障害の意味を何度も問い直し,より深い意味づけへの到達をもたらすと解釈された。本研究は青年の一事例を分析したものであるため,知見の一般化にはさらなる検討が求められる。

  • 岩田 美保
    2019 年 30 巻 1 号 p. 44-56
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

    本研究は幼児期の親密な仲間関係における「おもしろい」・「楽しい」に関わる感情言及の機能について,その関係構築に果たす役割に着目し,発達的検討を行った。2コホートの3~5歳クラス期の3年間の仲間間の遊びのやりとりから,同言及の機能と原因を調べ,そのうち4,5歳クラス期は各コホートの特定の仲良しグループに焦点をあて,同言及の機能及びそれが関係構築に果たす役割について質的な観点もふまえ検討した。その結果,同言及の機能はコホート間に共通し,1期(3歳12~3月)では興味や関心の共有を目の前の仲間に求める機能,2期(4歳4~7月)ではそれを第三者に求める機能,3期(4歳10~3月)には自他のそれらの一致度をメタ的に捉える機能,4期(5歳4~6月)では過去の感情経験の共有に関わる機能,5期(5歳11~3月)ではそうした過去の感情経験の共有及び未来や期待の実現化に関わる機能がみられた。それらの言及機能は彼らの関係構築において,興味や関心を共有しうる関係の確認(1期)や拡張(2期),自他の関係調整(3期),経験の再構築(4期),時間的拡張性をもった関係構築(5期)等,時期を通じて有意義な役割を果たしていることが窺われた。他方で,同言及の機能には関係性に応じた固有性もみられた。総じて,これらの結果は幼児期の親密な仲間間の同感情言及の対人機能の発達プロセスを示唆するものとして重要といえる。

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