発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
32 巻, 3 号
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原著
  • 神崎 真実, 鈴木 華子
    2021 年 32 巻 3 号 p. 113-123
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,複線径路等至性モデリング(TEM)を用いて,不登校経験者が高校を経由して進路選択に至るプロセスを明らかにすることである。中学校までに不登校を経験した高校3年生4名に,インタビューを行った。TEMによる分析の結果,協力者は,(1)統制できない状況に直面した結果として不登校になったこと,(2)統制感を得る契機となったのは,小説やオンラインゲーム,エッセイ等との出会いであったこと,(3)その後は高校へ入学し,自然と友人ができる経験をして,(4)学内の関係性を頼りに,これまでの学校生活や自己を変える挑戦をしたこと,そして(5)挑戦する中で進路選択の時期が訪れ,やりたいこと,進みたい場所,なりたい自分についての展望をもって進路を選択したことが分かった。結果をふまえ,統制感を得る契機としてのシンボリックリソース(小説やオンラインゲーム等)の可能性,進路選択における自己基準志向体験(これまでの学校生活や自己を変える挑戦)の重要性について論じた。

  • 新井 素子
    2021 年 32 巻 3 号 p. 124-133
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    自傷行為に対する援助のためには,行為の過程やそれに関わる要因について知ることが有用である。本研究では,自傷行為の体験者である青年期の大学生・大学院生の語りを分析して行為の過程やそれに関わる要因を知ることとした。22名の協力者に対して自傷行為の体験を半構造化インタビューにより調査し,得られたデータを修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチにより分析した。その結果,行為の開始からその帰結に至るまでの自傷行為の過程は,皮膚に現れた違和感を取り除く「除去型」と自分の身体を侵襲的に毀損する「侵襲型」の二系列に整理することができると考えられた。二つの過程には主に次の点で違いがあった。侵襲型の行為とは異なり,除去型ではエスカレーションが認められにくかった。除去型では侵襲型の行為に比べ,その行為に対して親子間の葛藤が結び付けられる傾向が見られた。除去型よりも侵襲型の方が代替手段による制御がしやすかった。もっとも,除去型から侵襲型に移行する場合もあるが,二つの過程は相対的には独立しているため,どちらかの系列の自傷行為を止めても他系列の行為は止めない可能性に留意すべきことが示唆された。除去型と侵襲型とでは,身体疎隔化の生じ方に違いがあると推察された。以上から,自傷行為への援助に当たっては,行為の過程やこれに関連する要因に応じた支援をすることが役に立つと考えられた。

  • 楠見 友輔, 髙津 梓, 佐藤 義竹
    2021 年 32 巻 3 号 p. 134-147
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,社会文化的アプローチの観点から知的障害生徒の授業参加の特徴を捉え直すことにある。筆者らは,自立活動の授業において軽度知的障害のある生徒に司会の役割を付与し,電子黒板を用いて支援を行った。5回の授業における2名の対象生徒と他者との相互行為をビデオカメラで記録し,対象生徒の教室談話における参加の仕方についての変化,生徒自身の行為の自覚,他者による行為の意味づけに注目して教室談話分析を行った。分析の結果,対象生徒が教室談話を主導するようになる過程で,環境に含まれる要素や他者との関係の変化が生じていたこと,対象生徒の司会者としての自覚が生じていたこと,対象生徒が聞き手の生徒から司会者としての承認を受けていたことが明らかにされた。これらの結果から,知的障害生徒の参加を個人的な指標に注目して評価するのではなく,授業参加をダイナミックな過程として捉えることで,知的障害生徒の多様な発達の筋道を肯定的に捉えることが可能となることが示唆された。

  • 井口 亜希子, 田原 敬, 原島 恒夫
    2021 年 32 巻 3 号 p. 148-159
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    聴覚障害幼児は,音声言語と手指言語の2つの言語環境下にて養育されることが多く,指文字を補助的に使用することにより,音声言語の語彙獲得等を促す効果が期待されている。指文字とは,各文字に対応した手形であり,この手形を連続して表出することで単語を空間上に綴る。本研究では,特別支援学校(聴覚障害)幼稚部に在籍する聴覚障害幼児の指文字の1字読み習得過程について,平仮名1字読みとの比較,また音韻意識の発達との関連性を検討するため,年少・年中・年長児に対して横断的比較および,同一年度内3期にわたる調査から縦断的比較を行った。その結果,聴覚障害幼児の指文字の清音の1字読みは,平仮名と同様に年少時期の後半に読字数が増加し,年中時期におおむね完成することが示された。ただし,年少児群では平仮名が読めるようになる前に指文字の読みが始まる幼児が多く,指文字は発声に併せて口元近くで手形を表出するため,手形―文字音の対応関係の学習が平仮名に比べて容易である可能性が考えられた。また,指文字の読みは,音韻意識課題が可能になる前に始まる幼児が多かったことが,平仮名の読みとは異なる特徴であった。したがって,聴覚障害幼児の中には指文字を通して,文字音の学習が進み,その中で音韻意識の発達が促され,短い音節の単語の分解課題が可能になる時期において,指文字・平仮名ともに1字読みの習得が促進される事例が多く存在すると考えられた。

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