ヒトが周辺視野内の指標をみる際の眼球―頭部協調運動の諸特性のうち, 実験Iでは成長途上にある中学生と成人との頭部運動量が比較され, 実験IIでは頭部運動に対する補償的眼球運動生起の時間的特性が検討された. その際, 眼球運動はEOG, 頭部運動はポテンシオメータで測定された.
実験Iの結果, 周辺視野内の同一位置視標に対し, 中学生の方が成人より頭部を視標に向けて大きく回転させてみることが示され, 同じヒトでも年齢により頭部運動量が異なることが明らかにされた. 成人でのきわめて小さな頭部運動量と, 中学生や既存研究のサルでの大きな頭部運動量とが比較され, この両者の量的差異から両者の協調運動パターンに質的な差異の存在の有無の検討の必要性が指摘された.
実験IIでは, 補償的眼球運動は頭部運動開始後, 一定潜時で生起せず, 視線移動角度が大きくなるにつれてその潜時は増大し, 視線が視標をとらえたと思われる時点で生じることが示された. この結果は, 眼球―頭部協調運動の制御が機械的な反射機序で行われるのではなく, 刺激布置に巧妙に適合した複雑で高次な機序で行われていることを示唆するものであるが, 補償的眼球運動は covert には一定潜時で生じているが, 初めの眼球移動角度が大きいほど, それに打ち消されて, overt には長い潜時で生じるものであると考えることによって反射制御での説明が可能である.
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