仮想現実感技術における視覚情報の提示装置としてヘッドマウントディスプレイ (HMD) が注目されている. HMDの基本原理は両眼前方に個別のディスプレイを用意し, それに視差のある映像を映してステレオ感のある像を提示するものである. 臨場感の高い映像提示機能をもつHMDを得るには, 人の視野全体に, 十分な解像度の映像を提示するディスプレイ系を構築することが望まれる. 現状のHMDの多くはNTSC方式のディスプレイを用いているが, 走査線数が525本のNTSCディスプレイでは, 人の視野を覆うに十分な大きさのものを用いると走査線間隔が広がり, 明瞭な映像提示が困難になる. そこで, 解像度を損なわない程度の大きさのディスプレイを導入する結果, 人の視野を覆うに十分な大きさの映像が提示できず, 臨場感の点で問題を残しているのが実情である. この問題を解決するひとつの方法として, 視線追従型HMD (EMT-HMD) を導入することが検討されている. 一般に人の眼は, 注視点近傍において対象を高い分解能で観測することができる. EMT-HMDは注視点周囲の限られた領域のみに高解像の映像を提示し, その周囲には低解像だが視野の広い像を提示することによって, NTSC方式の走査線数のディスプレイを用いて, 等価的に広視野・高解像の映像を提示するシステムである. 本論文では, こうしたEMT-HMDのための画像提示系を設計するのに有用な人の中心視特性を実験的に検討している. 実験においては, 視野の特性を調べるための標準パターンとして白黒の縞模様パターンを用いた. この縞模様に空間平均処理を施して, 注視点近傍に高い分解能, 周囲に低い分解能をもつ種々の縞模様の画像を作成し, それを被験者に提示して中心・周囲の境界が区別できなくなる注視点近傍の領域の大きさを判定させた. この結果より, 各種の異なる中心・周囲の分解能の組み合わせと, 境界が検知できなくなる注視点近傍領域の大きさとの関係を明らかにした. またこの関係をもとに, NTSC方式のディスプレイを用いてEMT-HMDを構成する際における, 注視点近傍の高解像映像ディスプレイ領域の設計法を示した.
抄録全体を表示