本研究は, 縫製作業における我国の文化財的技能である運針を科学的に分析し, そのメカニズムについて示唆を得ることにより, 一般教育および専門教育におけるその合理的指導法への応用展開を目的としている. 運針の運動方式や習熟過程に関する報告は数多くみられる. 本報では, 動作解析コンピュータシステムを用いることにより, 熟練者, 未熟練者, 各3名の運針動作の表目裏目形成時の動作を開眼時・閉眼時別に検討した. その結果, 前腕のスティックピクチャー, 左右第二指先端点の軌跡, 水平・垂直方向の変位, 速度などにより, 熟練者と未熟練者の動作の違いが明確になった. 熟練者のスティックピクチャーと軌跡は未熟練者よりスムーズであった. スティックピクチャーは, 熟練者では閉眼時は開眼時と同様であったが, 未熟練者では閉眼時は開眼時より大であった. また, 熟練者の右手指先の垂直方向の変位は未熟練者より大であった. これは, 手関節の動きによるものと考えられる.
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