集団給食施設での調理従事者の作業は, 家庭での調理とは異なり多人数分を調理するため, 長時間の立位作業, 同じ動作の繰り返し, および大きく重い調理器具の運搬・清掃などに特徴がある. 本研究では, 大きな鍋を含む重い調理器具の運搬の効率と姿勢との関係を明らかにするため, 男女大学生13名を対象に, 鍋を用いた運搬動作を人間工学的に解析した. (1) 鍋が重いほど作業時間がかかり, 特に大鍋運搬時には高いところへの上げ下ろしに時間を要した. また, 床から床へといった低いところでの横方向への運搬に時間がかかった. (2) 運搬作業中の脊柱直立筋, 足の大腿直筋, 前脛骨筋といった下半身の筋肉の筋電図振幅は, 鍋の重さに関係がないのに対して, 腕の浅指屈筋, 橈側手根屈筋, 上腕二頭筋, 三角筋, 背の僧帽筋といった上半身の筋肉の筋電図振幅は, 鍋が重いほど大きくなった. (3) 垂直方向の移動動作より水平方向への移動動作のほうが筋の負担が少なかった. (4) 負担の少ない水平移動の動作において, 上腕や肩の筋は移動する高さと関係がないのに対して, 指や手首を動かす筋は低いところでの移動ほど負担が少ないことが示唆された. (5) 鍋を持ち上げるときの指に加わる圧は, 大鍋ではどの指に加わる圧も小鍋の場合より大きく, 小指を含めてどの指にも大きな圧が加わっていた. ただし, 人差し指に加わる圧が少し大きかった. これらの結果から, 重い調理器具を運搬するとき, 運搬方向や位置により身体各部位への負担が異なることが示唆された.
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