本研究では,周辺視野を活用した目視検査において検査環境の違いによる照明の明るさの相違が欠点検出に及ぼす影響について検討するため,照明の照度と欠点の配置,および欠点の特徴(輝度コントラストと大きさ)を変動要因とする実験を考案し,これらが周辺視野での欠点検出に及ぼす影響について実験的に評価した.その結果,欠点検出率は照明の照度が0 lx程度だと低くなり,1500~6000 lx間であれば同程度に高くなることが明らかになった.さらに,この傾向は欠点の配置や先行研究で提案されている欠点自体の視認性を評価する指標である欠点の面光度によっても異なることがわかった.以上のことから,実際の目視検査工程で精度の高い目視検査を実現するためには,検査で活用する視野(一度の注視で検査する範囲)と欠点の面光度に合わせて照明の照度が低くならないように適切にコントロールすることの必要性が示された.
床暖房起動時における床温や室温の変化が生理的および心理的反応に及ぼす影響を検討するため,実験住宅にて実験を行った.実験は冬服(0.9clo)を着用した健康な若年女性8人を対象に,立ち上がり加温速度の異なる4条件で,床暖房起動時と安定時における皮膚温,深部体温,温冷感,快適感などをそれぞれ210分間測定した(30分の休憩を含む).その結果,起動時に急激に床温が上昇した場合,環境温の変化に対し平均皮膚温の変化が追いつかず,一方で深部体温が低下した.さらに床温が40℃という高温にもかかわらず温冷感は「暖かい」程度にとどまるため,暖かいほど快適と感じる傾向が認められた.また温冷感は,足底部皮膚温や平均皮膚温のみならず深部体温の低下に関係していた.床暖房起動時は自身の温冷感や快適感に基づき温度設定を行うと,必要以上に環境温を上昇させてしまう可能性が示唆された.
本研究は,女性を対象として靴のソールの摩耗による靴底の形状変形が歩行中の下肢安定性に与える影響を明らかにすることを目的とした.若年女性49名が使用した靴の摩耗計測結果をもとに,踵の外側が顕著に摩耗した靴の特徴を反映させた3条件の靴を作製して,摩耗形状に適合する9名に着用させて歩行中の床反力を計測した.その結果,摩耗の厚さが7.4 mm程度で前額面からみて靴底が8.0°程度外側に反り上がった靴では,踵接地から荷重応答期にかけて足圧中心の内外方向の動揺が大きくなることが示された.一方,摩耗の厚さが1.0~4.0 mm程度で外側への傾斜が1.0 ~4.3°程度の靴では,摩耗していない靴に比べて動揺が軽減されることが示された.以上のことから,ソールの踵部分は,外側に向かい反り上がった形状にすることで下肢安定性に貢献するが,摩耗によって反り上りが顕著になれば,不安定性を助長することが示唆された.