[目的]人工心肺(cardio pulmonary bypass:CPB)を使用した心臓手術術後合併症のひとつに急性腎障害(acute kidney injury:AKI)があり、その発生率は15~30%程度と高く、また予後は悪いと報告されている。クロール(chloride:Cl)は電解質の一種である。Clそのものは、腎血管収縮を引き起こして、糸球体濾過量低下を招くことが動物実験では示されている。しかしながら、CPB管理中のCl投与量と術後AKI発症への関与を示す報告は見当たらない。そこで今回、CPB充填液およびCPB中に使用した各種輸液製剤や血液製剤からのCl総投与量をCPB管理中Cl総投与量と定めて、CPB管理中Cl総投与量と術後AKI発症との関連性の解明を目的として、後方視的に研究した。
[方法]2016年1月1日から2018年12月31日の3年間にCPBを使用し、大動脈遮断による心停止を伴った手術時年齢満18歳以上の開心術301症例を対象とし、CPB管理中Cl総投与量と術後AKI発症との関連性を多変量ロジスティック回帰分析により、統計解析した。交絡因子は、年齢、性別、術前体重、推算糸球体濾過量、CPB管理中灌流圧、CPB管理中酸素供給量指数最低値、CPB時間を過去の文献報告より事前に選択した。
[結果]CPB管理中Cl総投与量のカットオフ値を求めると18.0gという値を得た。このCPB管理中Cl総投与量のカットオフ値18.0gを用いた多変量ロジスティック回帰分析結果は、CPB管理中Cl総投与量≦18.0gのカテゴリと比較した場合、>18.0gのカテゴリが、術後AKI発症のリスク因子として統計学的に有意な結果(オッズ比:2.376、P値:0.037)を示した。
[結論]CPB充填液およびCPB中に使用した各種輸液製剤や血液製剤によるCl総投与量は、18.0g以下で管理された症例に比べて、>18.0gで管理された症例で、術後AKI発症率は高かった。
近年、開心術で冷温水槽に起因する感染が問題となっている。原因は冷温水槽に発生するレジオネラ菌や非結核性抗酸菌の空気伝播と報告されている。オゾン水は塩素より強い殺菌力を持ち安全性が確認されている。これを循環水に用いることで安全に感染を防止できるのではないかと考え検討した。非結核性抗酸菌の汚染が確認された冷温水槽より汚染水を採液し、3.5mg/Lのオゾン水で2倍、10倍、100倍希釈した液を培養し殺菌効果を確認した。人工肺材料への影響を確認するため、各素材の熱交換器を有した人工肺に10L/minで6時間灌流を3回行った後、リークテストを行った。また、熱交換器部分を電子顕微鏡にて観察した。2倍希釈のオゾン水は菌が検出されたが、10倍希釈と100倍希釈では検出されなかった。全ての人工肺でリークはなく、表面に変化は見られなかった。オゾン水は非結核性抗酸菌の殺菌に有効で人工肺への影響もなかったが、高い酸化力によるゴムや金属等に対する材料劣化が懸念され、今回検討していない人工肺や冷温水槽に対する影響は不明である。材料劣化対策を講じた人工肺や冷温水槽を使用すれば臨床で使用できる可能性が示唆された。
大腿静脈(femoral venous:FV)カニューレ先端部の挿入性能を通過性試験により定量化し比較検討を行った。通過性試験はFVカニューレ先端部から100mmでカットし基部側から一定の力を加え、先端部がシースのバルブ(内圧50kPa)を通過する際にかかる力(gf)を計測した。結果は平均485.3gfから1432.6gfの加重がかかり、FVカニューレの硬度やカニューレ最先端部の段差が影響した。最も挿入性能が優れていたカニューレは硬度評価試験において硬度が最も高く、更にカニューレ最先端部を分析した結果、段差がより少ない設計となっていた。臨床でのカニューレ選択は、挿入性能の高さだけで選択されるわけではないが、本研究の結果が一つの判断材料となることを期待する。