体外循環中のハードシェル静脈リザーバーへの薬液投与において、投与流量や投与経路については明確な決まりがなく、使用するハードシェル静脈リザーバーの薬液拡散の特性を知ることは重要である。しかし、その評価方法が確立されていないことから、各種ハードシェル静脈リザーバーの添付文書には薬液拡散の性能表示の記載がなく、薬液の投与は操作者の判断に委ねられている。
そこで、本実験ではハードシェル静脈リザーバーから流出する薬液濃度変化に関して解析モデルを立て、液面レベルを変化させた基礎実験を行い、ハードシェル静脈リザーバーの薬液拡散における性能評価方法について検討した。基礎実験結果からは、実験に使用した4種類のハードシェル静脈リザーバーの間で薬液拡散能には大きな差はないと考えられた。また、液面レベルが500mL以下の場合には解析モデルをもとに時定数を利用することで評価が可能であると考えられたが、液面レベルが1000mL以上の場合には立ち上がり時間をもとに評価することが妥当であると考えられた。今後は本実験手法をもとに、回路内流量、薬液投与箇所、薬液注入流量の変更を行い、ハードシェル静脈リザーバーの薬液拡散性能の評価方法について検討していきたい。
人工心肺(cardiopulmonary bypass:CPB)の合併症として、急性腎障害(acute kidney injury:AKI)があげられ、AKIを発症させる要因は術前・術中・術後問わず多岐にわたる。なかでも、小児・先天性領域のCPBに対する報告は少ない。そこで、我々は先天性心疾患手術後にAKIを発症し得るCPBに関連した危険因子の解析・検討を行った。
対象は当院で施行した先天性心疾患手術のうち体重20kg以下のCPB使用症例217例とし、non AKI群:150例(69%)とAKI群:67例(31%)に分類し、危険因子を解析した。
BSA(OR 0.461, 95%C.I. 0.317-0.732;p=0.008)、CPB時間(OR 1.546, 95%C.I. 1.108-3.527;p=0.021)、最大PF-Hb値(OR 2.142, 95%C.I. 1.276-3.998;p=0.011)、最低DO2値(OR 0.659, 95%C.I. 0.518-0.802;p=0.032)が独立した危険因子として検出された。
小児・先天性領域のCPBは、生後数日から数か月で心臓血管外科手術に臨むことが多く、体格が小さいにもかかわらず、長い時間CPBの影響を受けるため、血球が損傷しやすくPF-Hbが上昇しやすい特徴があることから、危険因子として検出されたと考えられる。様々な対策を講じているものの、AKIは依然発症している現状があるため、小児・先天性領域の特徴を把握し、さらなる対策を講じる必要がある。