教育心理学研究
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53 巻, 1 号
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  • 内田 照久
    2005 年 53 巻 1 号 p. 1-13
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    音声中の実音声区間と休止区間の時間配分と, 話者の性格印象, 音声の自然性との関係を検討した。パラグラフ・レベルの音声材料を用いて, 大学生581名を被験者として聴覚実験を行った。実音声時間長は, 性格印象, 自然性に特徴的な影響を与えていた。休止時間長の違いによる影響は比較的小さかった。実音声部の発話速度の変化に伴う性格印象の変化パターンは, Big Fiveの特性ごとに固有の2次回帰式で近似できた。勤勉性は速い発話で評価が高く, 遅くなると急峻に低下した。協調性では逆に, 速い発話で評価が低く, 遅い発話で高かった。外向性と経験への開放性はやや速い発話で評価が高く, より速くても遅くても下降した。情緒不安定性には影響は見られなかった。自然性はオリジナルの時間長で評価が最も高く, より速くても遅くても左右対称の形状で低下した。これらのことから音声の変換に伴う自然性の低下の影響は皆無とは言えないまでも, 性格特性ごとの独自性が確認された。この結果は, 性格印象全体の複雑な変化を捉えるために, 音声の時間構造の変化に応じて性格特性ごとに特性値を近似関数で推定し, その推定値を組合せて全体像を捉えるというモデルを支持するものであった。
  • 及川 昌典
    2005 年 53 巻 1 号 p. 14-25
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    動機づけや目標の非意識的な生起や追求に着目した近年の研究では, 行為者の自覚なしに生じる動機づけが行動や感情に影響を及ぼすことが示されている。これらの研究は環境による自動的過程の影響を強調しているが, 個人内過程の役割を十分に考慮していない。本研究は, 非意識的な達成動機の影響が個人の持つ知能観によって調整されることを検討した。研究1では, プライミングによって達成動機を活性化された参加者は, 統制条件の参加者よりも後続の課題の遂行が高まっていた。また, 課題遂行後の感情は, 参加者が持つ知能観によって異なり, 実体的知能観を持つ者は, 増加的知能観を持つ者と比べて否定感情を強く報告していた。研究2では, 参加者の持つ知能観と一致している目標と一致していない目標の活性化の影響を検討した。参加者が持つ知能観と一致する目標が活性化された場合には, 課題遂行の向上が見られたが, 一致していない場合には, この促進効果が見られなかった。よって, 個人の持つ知能観が, 達成動機と目標の連合を調整すると考えられた。個人の信念が非意識的な動機づけと目標の連合に影響するメカニズムについて論じる。
  • プライミング技法を用いての検討
    島田 英昭
    2005 年 53 巻 1 号 p. 26-36
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    本研究では, プライミング技法を用いて, 暗算における反転問題の表象構造を検討した。産出課題と真偽判定課題による実験の結果, a×bの解決に先立ち, 演算数の位置と順序の一致するa×?のプライムか提示された場合か最も反応時間か短かった。また, 順序のみ一致する?×aと位置のみ一致する?× bのプライムが提示された場合, どちらも一致しないb×?のプライムか提示された場合よりも反応時間か短かった。全体的に, 順序の効果は位置よりも大きかった。これらの結果から, 反転問題の表象は独立であり, その独立性は演算数の位置と順序の双方により区分されており, 特に順序か重要であることか明らかになった。
  • 談話実践としての療育カンファレンスに関する検討
    藤本 愉
    2005 年 53 巻 1 号 p. 37-48
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    本研究では, 療育カンファレンスにおいて, いかに療育スタッフらは〈子どもが抱える問題について語る〉という活動へとアクセスしているのか, 主に正統的周辺参加論 (Lave & Wenger, 1991) における「透明性」概念に基づいて談話分析を行った。その結果, 子どもが抱える問題を特定の「心理学的言語」 (Mehan, 1993) によって記述することは, スタッフ間の概念の共有化を円滑にする反面, 子どもが抱える問題への多元的なアクセスを制限してしまう可能性があることが示唆された。そして, 〈子どもが抱える問題について語る〉という活動へのアクセスにおいて, 問題についての語り方が異なる場合, スタッフ問にコンフリクトが生じていた。また, 療育カンファレンスにおいて, スタッフによる主観的印象と, 心理検査によってもたらされた客観的結果との間のズレという形で, コンフリクトが生じたことが明らかになった。以上の分析から, 談話理論としての正統的周辺参加論の可能性と限界点が示された。
  • 音楽経験と家庭の音楽環境および家族のサポートについて
    佐藤 典子
    2005 年 53 巻 1 号 p. 49-61
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    本研究では, 佐藤 (2001) において因子分析を行うことで見出された音大進学理由因子のうち, 大学における適応感を高める可能性が示された3因子を取り上げ, これらの形成に影響を与える要因について検討することを目的とした。音楽大学の学生を対象に行った調査から, 2年生の女子学生529名のデータを用い, 共分散構造モデルを作成した。「能力活用」「将来展望」「音楽的同一性」という進学理由因子に影響を与える可能性のある要因として, 大学入学以前の音楽経験, 進学に対する家族のサポート, 家庭の音楽環境を取り上げた。進学理由因子への直接的な影響を最も明確に示したのは, 家族のサポートであった。音楽経験の要因から進学理由因子への影響力は小さく, 学生の専攻によつてその影響力に違いも見られた。音楽環境から進学理由因子への影響力は, 家族のサポートを通しての間接的なものであることが示唆された。
  • 崎濱 秀行
    2005 年 53 巻 1 号 p. 62-73
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    本研究では, 大学生・大学院生を対象として, 文章を書く際に産出字数を短く制限することにより, 書き手の文章は必要な情報がコンパクトにまとまったエッセンスの詰まったものになるのかどうかを検討した。45人の大学生・大学院生が, モーリタニア国の資料を基に, この国を知らない仲間に向けて国を紹介する文章を産出した (字数は200字, 400字, 字数無制限のいずれか。被験者間計画)。その結果, 200字群における重要な情報 (核情報) の使用個数が400字群および字数無制限群に比べて少なくなったが, 使用情報総数に占める核情報の使用割合は200字群の方が字数無制限群よりも高くなつた。また, 一情報あたりの使用字数は, 字数制限を行った方が字数無制限群よりも少なくなった。さらに, 文章に書く内容の構成について考える度合いは群によって異ならなかったが, 200字群において, 下書きをして情報量の調整をしていた人数が有意に多かった。これらの結果から, 字数を短く制限することにより, 産出された文章は, 必要な情報がコンパクトにまとまった, エッセンスの詰まったものになることが示された。
  • 伊藤 正哉, 小玉 正博
    2005 年 53 巻 1 号 p. 74-85
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    本研究では, 自分自身に感じる本当らしさの感覚である本来感を実証的に取り上げ, 自尊感情と共に本来感がwell-beingに与える影響を検討した。自由記述調査から尺度項目が作成され, 大学生男女335名を対象とした因子分析により7項目からなる本来感尺度が構成され, その信頼性と一部の妥当性が確認された。そして, 重回帰モデルの共分散構造分析により, 本来感と自尊感情の両方が主観的幸福感と心理的well-beingというwell-beingの高次因子に対し, それぞれ同程度の促進的な影響を与えていることが示された。また, well-beingの下位因子に与える影響を検討したところ, 抑うつと人生における目的には本来感と自尊感情の両方が, 不安・人格的成長・積極的な他者関係に対しては本来感のみが, 人生に対する満足には自尊感情のみがそのwell-beingを促進させる方向で有意な影響を与えていた。さらに, 自律性に対しては本来感が正の影響を与え, 自尊感情は負の影響を与えていた。以上の結果から, 本来感と自尊感情のそれぞれが有する適応的性質が考察された。
  • 小学校2年生の算数と国語の一斉授業における教室談話の分析
    岸野 麻衣, 無藤 隆
    2005 年 53 巻 1 号 p. 86-97
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    本研究では, 授業進行から外れた子どもの発話に対する教師の対応の意味を検討した。5月から12月に渡る, 小学校2年生の算数と国語の一斉授業44時限分の発話記録に対し, カテゴリーの数量的分析と発話事例の質的分析を行った。カテゴリー分析によると, 連想的発話は多くの子に見られ, 無関連発話や拒否は特定の子に多く見られるという学級の特徴が表れており, 教師は発話の種類に応じて対応を使い分けていた。特に割り込みという形式面で外れた発話には明確な注意を行い, 内容面で外れた発話のうち, 連想的発話には無視, 無関連発話や拒否には受け入れがなされていた。事例分析によると, これらの使い分けは, 授業の構造化, 子どもの文脈の許容と活用, 学級内の人間関係調整を巡って, それぞれが必要なレベルに応じて移行しながら行われていた。低学年の学級の場合, 授業進行から外れた発話は, 学習指導にもマネージメントにも関わっており, 教師は両者を明確に区別せず, 揺れ動きながら意思決定することが示唆された。
  • 向井 隆久, 丸野 俊一
    2005 年 53 巻 1 号 p. 98-109
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は児童から大学生までを対象とし, 心的特性 (性格的特性・知的特性), 身体的特徴が遺伝的要因や環境要因によってどのように規定されているかという認識が発達に伴ってどのように変化するのかを明らかにすることであった。課題は生みの親と育ての親が異なる赤ちゃんの物語からなる乳児取り替え課題を用いて, 被験者が特性の起源に関してどのような素朴因果モデルをもっているのか, 特性を規定する要因の影響力の強さをどのように認識しているのかについて調べた。主な結果は以下のようであった。(1) 低学年児の認識は不安定であるが, 心的特性では子どもは特性の起源を1つの要因 (遺伝もしくは環境要因) で説明するような傾向 (1要因モデル) が強く, 5・6年生頃からの両方の要因で説明する傾向 (2要因モデル) が強くなる。また3年生頃を移行期として遺伝的要因よりも環境要因を重視するようになる。(2) 身体的特徴では遺伝的要因による1要因モデルのまま発達的変化はほとんどない。(3) 1要因モデルを選択した子どもも特性を規定する要因を全か無的に採用するのではなく, 特性に対する相対的に重み付けられた規定力 (影響力) を認識している。
  • 児童養護施設における調査の検討
    坪井 裕子
    2005 年 53 巻 1 号 p. 110-121
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は児童養護施設に入所している虐待を受けた子どもたちの行動と情緒の特徴を明らかにすることであった。児童養護施設に入所中の子ども142人 (男子: 4~11歳40人, 12~18歳45人, 女子: 4~11歳 25人, 12~18歳32人) を対象に, Child Behavior Checklist (CBCL) の記入を職員に依頼した。その結果, 女子は男子に比べて内向尺度得点が高く, 特に高年齢群女子は身体的訴えと社会性の問題の得点が高かった。被虐待体験群 (n=91) と被虐待体験のない群 (n=51) に分けて比較したところ, 社会性の問題, 思考の問題, 注意の問題, 非行的行動, 攻撃的行動の各尺度と外向尺度, 総得点で, 被虐待体験群の得点が有意に高かった。被虐待体験群は, 社会性の問題, 注意の問題, 攻撃的行動, 外向尺度, 総得点で臨床域に入る子どもの割合が多かった。虐待を受けた子どもの行動や情緒の問題が明らかになり, 心理的ケアの必要性が示唆された。
  • 気圧の力学的性質に関する概念受容学習過程
    藤田 敦
    2005 年 53 巻 1 号 p. 122-132
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    概念受容学習事態において, 複数の具体的事例を提示して概念の説明を行うと, 学習した概念の般化が促進されるという知見がある。この促進効果を, 科学的な概念領域において検証し, 説明することが本研究の目的である。まず, 66名の大学生を被験者として, 具体的な実験事例を提示しながら気圧の力学的な性質について説明する実験授業を行った。その後, 被験者が, 提示された実験事例とどの程度類似する般化問題であれば, 学習した概念を適用可能であるかを調べた。その結果, 提示する事例数が少ない場合には, 表面的な特徴が提示事例と類似する問題に対しては学習した知識を適用できること, 提示事例数が増えることで, 表面的には異なるが構造的には類似しているというタイプの問題に対しても, 知識の適用範囲が拡がることが確認された。この結果に基づき, 概念受容学習事態において複数事例を提示する効果は, 学習者が, 提示される事例間の共通点を手がかりとして, 学習した概念の適用範囲を判断するための基準を再構成していくことによって生じるのではないかという考察を行った。
  • 保育者と心理の専門家の協働による互恵的研修
    藤崎 春代, 木原 久美子
    2005 年 53 巻 1 号 p. 133-145
    発行日: 2005/03/31
    公開日: 2013/02/19
    ジャーナル フリー
    本論文は, 統合保育への支援の一貫として企画・運営した研修実践を, 協働による互恵性をキーワードとして分析した。研修実践は実践報告と実践交流から成り立つが, 報告準備段階から保育者と相談員 (心理の専門家) の協働作業が始まり, 一連の協働を通して, 次のようなふりかえりと互恵的な学びが行われることが分かった。第1は, 準備段階で, 相談員が保育者の保育意図や悩みに注目してその明確化を求めることにより, 保育者は保育意図や転換点をふりかえった。そのふりかえりを複数の立場の保育者間で行うことにより, 保育者は自分の立場に特化した専門性を意識化した。相談員も巡回相談活動が保育にどのように活かされたかを学んだ。第2は, 実践報告をテキストとした実践交流により, 異なる園の保育者同士の間でふりかえりの重要性への気づきがなされ, ふりかえりのモデル伝達がなされた。この保育者のふりかえり作業に立ち会うことにより, 心理の専門家をはじめ他専門家も保育者との連携を模索することを促された。最後に, 心理の専門家の研修への貢献を, 相談員としての側面と心理学研究者としての側面との2側面から考察した。
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