教育心理学研究
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58 巻, 1 号
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原著
  • —知識を相互構築する相手としての他者の役割に着目して—
    橘 春菜, 藤村 宣之
    2010 年 58 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
     本研究では, 高校生のペアでの問題解決に焦点をあて, 他者と相互に知識を関連づける協同過程を通じて, 概念的理解をともなう知識統合が個人内の変化としてどのように促進されるかを検討した。問題解決方略の質的変化 (複数の知識を個別に説明する方略から複数の知識を関連づけて包括的に説明する方略への変化) が想定される数学的問題を事前課題—介入(協同または単独)—事後課題のデザインで実施した。実験1では (1) 協同条件では単独条件よりも事前から事後にかけての解決方略の質的変化が生じやすいこと, (2) 協同場面での複数の要素を関連づけた説明が事後課題での包括的説明方略の適用と関連が強いことが示された。実験2では, 方略の質的変化をより促進するため, 介入課題において, 実験1の教示(以後, 一括教示)と比べて, 要素の関連づけ過程やその前段階の要素の抽出過程の活性化を目指した段階的教示を行った。その結果, (1) 段階的教示では, 事前から事後にかけての方略変化が一括教示よりも生じやすく, 協同条件でその促進効果が顕著であること, (2) 方略の質的変化が生じる協同過程では, ペアで相互に知識を構築する協同過程がみられることが示された。
  • —親の統制に対する子どもの認知, および関係性攻撃との関連—
    内海 しょか
    2010 年 58 巻 1 号 p. 12-22
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
     本研究では, 青年期の子どもにおけるネットいじめの特徴を調べ, 親の統制に対する子どもの認知とネット行動との関連を示すモデルを検討した。中学生487名を対象にした質問紙調査を行い, パソコンと携帯電話によるネット使用時間, インターネットを通して攻撃を行った経験・受けた経験, 関係性攻撃, 表出性攻撃, 親のネット統制(実践, 把握, 接続自由)認知を測定した。その結果, ネットいじめ非経験者の割合は67%, いじめの経験のみ8%, いじめられの経験のみ7%, 両方経験は18%であった。両方の経験を持つ者は, どちらも経験していない者に比べ関係性攻撃や表出性攻撃が有意に高く, 携帯電話によるインターネット使用時間が有意に長かった。いずれの統制認知もネットいじめ・いじめられ経験を直接予測しなかったが, 実践認知は間接的に, 把握認知と接続自由の認知は直接的に子どものネット使用時間を予測した。ネット使用時間および, 関係性攻撃はネットいじめ・いじめられ経験の両方に直接関連することが明らかとなった。
  • —対人恐怖と社会恐怖の異同を通して—
    清水 健司, 岡村 寿代
    2010 年 58 巻 1 号 p. 23-33
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
     本研究は, 対人恐怖心性-自己愛傾向2次元モデルにおける認知特性の検討を行うことを目的とした。認知特性指標は社会恐怖認知モデル(Clark & Wells, 1995)の偏った信念を参考に選定された。調査対象は大学生595名であり, 対人恐怖心性-自己愛傾向2次元モデル尺度短縮版(TSNS-S)に加えて, 認知特性指標である完全主義尺度・自己肯定感尺度・自己嫌悪感尺度・ネガティブな反すう尺度・不合理な信念尺度・自己関係づけ尺度についての質問紙調査が実施された。その結果, 分析1では各類型の特徴的な認知特性が明らかにされ, 適応・不適応的側面についての言及がなされた。そして, 分析2では2次元モデル全体から見た認知特性の検討を行った。特に森田(1953)が示した対人恐怖に該当すると思われる「誇大-過敏特性両向型」と, DSM診断基準に準じた社会恐怖に該当すると思われる「過敏特性優位型」に焦点を当てながら詳細な比較検討が行われた。
  • 秋光 恵子, 白木 豊美
    2010 年 58 巻 1 号 p. 34-45
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
     本研究では, 学校内のチーム援助における養護教諭のコーディネーション活動と, それが養護教諭の職務満足感に及ぼす影響について検討した。研究1では養護教諭の職務満足感を包括的に測定する尺度の作成を試みた結果, 「心の支援活動の実践」「養護教諭としての存在感の実感」「保健の授業・指導の実践」「子どもとの信頼関係の構築」「養護教諭としての専門性の発揮」「教職員との信頼関係の構築」「保護者との信頼関係の構築」という7つの下位次元から構成される尺度が作成された。研究2では養護教諭のコーディネーション活動を, チーム援助に関わる他の校内分掌担当者と比較した結果, 「子どもの心身の状態把握」では援助チームの中で中心的な役割を担っており, それ以外のコーディネーション活動の程度は, 生徒指導を除く他の分掌担当者と同程度であることが示された。さらに, 養護教諭が援助チームの中でコーディネーターとして活発に活動することは, 養護教諭の職務満足感全般に対して正の影響を及ぼしていることが明らかとなった。これらの結果に基づき, 養護教諭のコーディネーターとしての積極的な関与を促進する方策が考察された。
  • —主要な要因間の関連から見た援助要請意図の規定因—
    永井 智
    2010 年 58 巻 1 号 p. 46-56
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は, 援助要請に関連する主要な要因である, ソーシャルネットワーク, パーソナリティ, 問題の深刻さ, デモグラフィック要因と大学生における援助要請意図との関連を検討することである。大学生596名に対し, 家族サポート, 友人サポート, 自尊感情, 自尊感情の脆弱性, 悩み, 抑うつ, デモグラフィック要因および家族, 友人, 専門家それぞれに対する援助要請意図について尋ねる質問紙を実施した。共分散構造分析の結果、家族と友人への援助要請意図に対しては悩み, 抑うつ, ソーシャルサポートが影響していたが, 専門家への援助要請意図に対しては悩み, 自尊感情, 友人サポートが影響していた。
  • 谷島 弘仁
    2010 年 58 巻 1 号 p. 57-68
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
     教師が教育相談を行う際に, コンサルタントに対してどのような援助特性を求めているのかについて, 小学校・中学校・高等学校の教師228名に対して新たに作成した尺度を実施し, 教師の認知面から検討した。探索的因子分析の結果, 4因子が見出されたが, 検証的因子分析の結果, 3因子モデルが採用された。教師がコンサルタントに対して求める援助特性と教師の被援助志向性との関連について検討したところ, 有意な正の相関が認められた。教師のバーンアウトとの関連においては, 一部の因子にのみ有意な正の相関が認められた。自己効力感との関連においては, 有意な相関は認められなかった。本研究の限界と今後の課題が示された。
原著[実践研究]
  • —教育的デザインと実践の保持のデザインとのダイナミクス—
    森下 覚, 尾出 由佳, 岡崎 ちひろ, 有元 典文
    2010 年 58 巻 1 号 p. 69-79
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
     本研究は, 状況的学習論を理論的背景に据え, 教育実習の学習環境に注目し, その学習環境の中で実習生がどのような学習をしているかについて明らかにすることを目的とした。その結果, 調査対象である実習生の学習は, 「教育的デザイン」と「実践の保持のデザイン」が共存する学習環境の上に構成されていた。前者は教員養成の為の学習の場を構成しようとする大学の教育的な取り組みであり, 後者は実習生が参加した形で自らの教育実践を成立させるための現場の教師の取り組みであった。その中で, 当初, 実習生は授業を観察するばかりで教育実践に参加することが出来ずにいたが, 現場の教師の導きにより, 徐々に教育実践に関わる仕事が分業され, 教室の中で教育実践者として授業に参加出来るようになっていった。この教育実習における実習生の学習の過程は, 教師の文化的実践への正統的周辺参加の過程として記述することが出来た。
  • —「教訓帰納」の自発的な利用を促す事例研究から—
    植阪 友理
    2010 年 58 巻 1 号 p. 80-94
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
     自己学習力の育成には, 学習方略の指導が有効である。中でも, 複数の教科で利用できる教科横断的な方略は, 指導した教科以外でも活用できるため有用である。指導された学習方略を他の教科や内容の学習に生かすことは「方略の転移」と呼べる。しかし, 方略の転移については, 従来, ほとんど検討されてきていない。そこで本研究では, 方略の転移が生じた認知カウンセリングの事例を分析し, 方略の転移が生じるプロセスを考察する。クライエントは中学2年生の女子である。非認知主義的学習観が不適切な学習方法を引き起こし, 学習成果が長期間にわたって得られないことから, 学習意欲が低くなっていた。このクライエントに対して教訓帰納と呼ばれる学習方略を, 数学を題材として指導し, さらに, 本人の学習観を意識化させる働きかけを行った。学習方法の改善によって学習成果が実感できるようになると, 非認知主義的学習観から認知主義的学習観へと変容が見られ, その後, 数学の異なる単元や理科へ方略が転移したことが確認された。学習方略を規定する学習観が変容したことによって, 教科間で方略が転移したと考えられた。また, 学習者同士の教え合いが多いというクライエントの学習環境の特徴も影響したと考えられた。
  • —小学生を対象とした科学技術問題に関するカリキュラムの開発と改善を通して—
    坂本 美紀, 山口 悦司, 稲垣 成哲, 大島 純, 大島 律子, 村山 功, 中山 迅, 竹中 真希子, 山本 智一, 藤本 雅司, 橘 ...
    2010 年 58 巻 1 号 p. 95-107
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
     多様なステイクホルダーによる社会的合意の形成が求められる公共的な課題では, エビデンスを用いて自分の意見を補強するというよりは, 多くの立場の合意を目指し, 賛成や反対の条件, 代替策といった, 新しいアイディアを提起するようなアーギュメントが必要になる。本研究はこれを, 知識構築型アーギュメントと呼び, 小学生を対象とした科学技術問題に関するカリキュラムの中で, その育成を目指した。さらに, 開発したカリキュラムを, 知識構築に関するデザイン原則の一つである認識主体性の観点から改善し, 児童の知識構築型アーギュメントにもたらす影響を検討した。学習の進行に伴うアーギュメントの変化をカリキュラム間で比較した結果, 改善版のカリキュラムにおいては, ベースラインのカリキュラムの場合より, 賛否両論を考慮した提案型の意見が増加し, 児童の知識構築型アーギュメントをさらに向上させられたことが明らかになった。さらに, 授業デザインの変更に伴う授業展開や学習活動の差異を検討し, 知識構築型アーギュメントの向上に寄与した支援について明らかにした。
展望
  • 淡野 将太
    2010 年 58 巻 1 号 p. 108-120
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
     本稿は, 置き換えられた攻撃研究の概要とTDA(triggered displaced aggression)研究の動向をレヴューし, 置き換えられた攻撃研究の変遷を辿った。攻撃の置き換えの現象成立に関する一貫しない実験研究は, Marcus-Newhall, Pedersen, Carlson, & Miller(2000)のメタ分析によって集約され, 無視されてきた調整変数も見直された。現在では攻撃行動の一形態としての置き換えられた攻撃を研究する流れと, TDAとしての置き換えられた攻撃を研究するふたつの流れが存在する。そして, TDA研究は現在, TDA理論を軸に攻撃の置き換えの誘発メカニズムについて精緻化を行いながら, 置き換えられた攻撃に従事しやすい個人差を測定する尺度の開発や, 攻撃の置き換えを誘発しない緩衝効果の検討を行うなど, 研究を発展させている。本稿は, 置き換えられた攻撃の発達心理学的研究, 社会的行動特徴としての置き換えられた攻撃研究, TDA研究の知見を応用した介入研究, TDA理論のさらなる精緻化および直接的攻撃, 置き換えられた攻撃およびTDAの複合的検討の可能性を示した。
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