教育心理学研究
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65 巻, 4 号
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原著
  • 小野田 亮介, 鈴木 雅之
    原稿種別: 原著
    2017 年 65 巻 4 号 p. 433-450
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/21
    ジャーナル フリー

     本研究では,アーギュメント構造が意見文評価に与える影響について,影響の論題間差と評価方法による差異に着目して検討した。アーギュメント構造としては,主張への賛成論だけを示す「反論なし文」,賛成論に加えて反論を想定する「反論文」,賛成論と反論想定に加えて再反論を行う「再反論文」の3構造を設定した。また評価方法としては,1つの論題について構造の異なる3つの意見文を相対的に評価する「相対評価法」と,1つの論題について単一の構造の意見文のみを評価する「独立評価法」の2つを設定した。実験1では,大学生41名を対象に相対評価法による説得力評価を求めた。混合効果モデルによる分析を行った結果,論題にかかわらず再反論文は他の構造の文章よりも高く評価され,反論文が他の構造の文章よりも低い評価を受けた。実験2では,大学生123名を対象に独立評価法による説得力評価を求めた。その結果,平均すると,アーギュメント構造による説得力評価の差異はみられなかったが,アーギュメント構造の影響の方向性は論題によって異なっていた。以上より,アーギュメント構造が意見文評価に与える影響は論題や評価方法によって異なることが示唆された。

  • ―自然実験デザインとマルチレベルモデルによる検証―
    伊藤 大幸, 浜田 恵, 村山 恭朗, 髙柳 伸哉, 野村 和代, 明翫 光宜, 辻井 正次
    原稿種別: 原著
    2017 年 65 巻 4 号 p. 451-465
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/21
    ジャーナル フリー

     クラスサイズ(学級の人数)が学業成績および情緒的・行動的問題に及ぼす影響について,要因の交絡とデータの階層性という2つの方法論的問題に対処した上で検証した。第1に,学年ごとの人数によってのみクラスサイズが決定されている学校を調査対象とする自然実験デザインにより,学校の裁量に起因する要因の交絡や逆方向の影響の発生を防いだ。第2に,マルチレベルモデルの一種である交差分類(cross-classified)モデルを用いて,データの特殊な階層性を適切にモデル化した。第3に,学校内中心化によって学校間変動を除外することで,クラスサイズの純粋な学校内効果を検証するとともに,学校規模との交絡を回避した。9回の縦断調査で得られた小学4年生から中学3年生のデータ(11,702名,のべ45,694名,1,308クラス)に基づく分析の結果,クラスサイズの拡大は,(a)学業成績を低下させること,(b)教師からのサポートを減少させること,(c)友人からのサポートや向社会的行動の減少をもたらすこと,(d)抑うつを高めることが示された。こうした影響の広さから,クラスサイズは学級運営上,重大な意味を持つ変数であることが示された。

  • 緒方 康介
    原稿種別: 原著
    2017 年 65 巻 4 号 p. 466-476
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/21
    ジャーナル フリー

     DSM-IV-TRにおいて,境界知能の定義は知能指数が71―84に入ることである。教育臨床では,しばしば支援対象となる生徒の一群であるにもかかわらず,研究の蓄積は極めて乏しい。本研究では,児童相談所でWISC-IVを受検して,境界知能と判定された8歳以上の子ども295名(女児100名)を境界群,切断(選抜)効果を確認するために設けられた8歳以上でIQが86―99の対照群262名(女児108名)が,シミュレーションによりノルムを模して生成された乱数群1,285データと比較分析された。下位検査間の相関行列を確認すると,境界群と対照群にはIQ範囲を制限して構成されていることによる切断(選抜)効果が確認された。しかしながら,理論モデルとされた4つの因子が互いに相関するWISCモデルに対して,多母集団同時分析により3群間での因子不変性を検証したところ,境界群・対照群・乱数群の3群間で測定不変モデルが成立していた。すなわち,相関係数が切断(選抜)効果により著しく低められていたにもかかわらず,WISC-IVモデルに関して,境界知能児は一般児童と等質な知能が測定されているものと考えられた。因子不変性の確認を通して,本研究は知能測定における基本的な知見を導出できたものと結論された。

  • ―制御適合の観点から―
    外山 美樹, 長峯 聖人, 湯 立, 三和 秀平, 黒住 嶺, 相川 充
    原稿種別: 原著
    2017 年 65 巻 4 号 p. 477-488
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/21
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,制御適合の観点から,制御焦点が学業パフォーマンスに及ぼす影響について検討することであった。具体的には,制御焦点(促進焦点と防止焦点)と学習方略(熱望方略と警戒方略)が適合した時に,高い学業パフォーマンスを収めるのかどうかを検討した。分析対象者は大学生100名であった。学習方略は,マクロ理解方略,ミクロ理解方略,拡散学習方略,そして,暗記方略を取りあげ,学業パフォーマンスは,授業の定期試験(空所補充型テスト,記述式テスト)の成績をその指標として用いた。本研究の結果より,促進焦点の傾向が高い人と防止焦点の傾向が高い人のどちらが優れた学業成績を示すのかではなく,高い学業成績につながる目標の追求の仕方が,両者では異なることが明らかとなった。促進焦点の傾向が高い人は,マクロ理解方略を多く使用している場合に,記述式テストにおいて高い学業成績を収めていた。一方,防止焦点の傾向が高い人は,ミクロ理解方略を多く使用している場合に,空所補充型テストにおいて高い学業成績を収めていた。制御適合に関する一連の研究(Higgins, 2008)で示されている通り,促進焦点の傾向が高い人は熱望方略を使用する時に,かたや防止焦点の傾向が高い人は,警戒方略を使用する時に制御適合が生じることによって,それらに合致したパフォーマンスが向上すると考えられた。

  • 三和 秀平, 外山 美樹, 長峯 聖人, 湯 立, 相川 充
    原稿種別: 原著
    2017 年 65 巻 4 号 p. 489-500
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/21
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,上方比較と制御焦点が動機づけおよびパフォーマンスに与える影響について同化,対比といった比較の過程に着目して検討すること,またそのプロセスにおける社会的比較感情の関連を検討することであった。実験参加者は大学生85名であり,比較相手の類似度を操作することで同化と対比の条件に振り分けられた。そして,比較相手の得点として,実験参加者よりも優れた成績を提示することで上方比較を行わせ,その後の動機づけやパフォーマンス,社会的比較感情について制御焦点との関連を検討した。その結果,促進焦点の優位な個人は同化が生じた場合に,防止焦点が優位な個人よりも動機づけやパフォーマンスが高いことなどが示された。これは,同化が生じた際の比較相手がポジティブ役割モデルとして機能したためであると考えられる。一方,防止焦点の優位な個人は対比が生じた場合に,同化が生じたときよりもパフォーマンスが高いことが示された。これは,対比が生じた際に比較相手との差を過大視し自己の点数の低さに着目したことで,失敗を回避するように努めたためであると考えられる。しかし,このプロセスにおいて社会的比較感情の関連はみられなかった。

  • 水野 君平, 太田 正義
    原稿種別: 原著
    2017 年 65 巻 4 号 p. 501-511
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/21
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,スクールカーストと学校適応の関連メカニズムについて,社会的支配志向性(SDO)に着目し,検討することであった。具体的には,自己報告によって生徒が所属する友だちグループ間の地位と,グループ内における生徒自身の地位を測定し,前者の「友だちグループ間の地位格差」を「スクールカースト」と定義した。そして,SDOによるグループ間の地位から学校適応感への間接効果を検討した。中学生1,179名を対象に質問紙調査をおこなった結果,グループ内の地位の効果が統制されても,グループ間の地位はSDOのうちの集団支配志向性を媒介し学校適応感に対して正の間接効果を持った。つまり,中学生において,SDOを介した「スクールカースト」と学校適応の関連メカニズムが示された。考察では,集団間の地位格差を支持する価値観を通して,高地位グループに所属する生徒ほど学校適応が向上する可能性が議論された。

原著[実践研究]
  • ―算数の「教えて考えさせる授業」を軸に―
    深谷 達史, 植阪 友理, 太田 裕子, 小泉 一弘, 市川 伸一
    原稿種別: 原著[実践研究]
    2017 年 65 巻 4 号 p. 512-525
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/21
    ジャーナル フリー

     近年の教育界では,基礎的な知識・技能の習得と活用に加え,自立的に学習を進める力として学習方略の習得が求められている。「教えて考えさせる授業」は,この両者の育成を目指したもので,(a)教師が意味理解を重視して基本事項を説明する,(b)ペア説明などで学んだことを生徒が確認する,(c)発展的事項を協同で解決する,(d)授業で学んだことをふり返るという4段階からなる。本研究では,研究授業や講演を含む,教えて考えさせる授業を中心とした算数の授業改善に取り組んだ公立小学校において,導入間もない1年目と導入から時間が経った2年目の比較を通じて,児童の学力と教師の指導がどう変わったかを検証した。全国学力・学習状況調査の結果,2年目の方が,算数A問題とB問題の成績が高く,算数Aの標準偏差が低かった。また,問題解決時の図表活用方略の使用を調べたところ,2年目の方が,図を使わずに不正解のケースが少ない一方,図を使って正解に至るケースが多かった。さらに,教師が指導案を作成する課題において,的確な働きかけを表す指導案得点が2年目の方が高い傾向が見られた。考察では,これらの成果を生んだ理由などを考察した。

  • 丹治 敬之, 横田 朋子
    原稿種別: 原著[実践研究]
    2017 年 65 巻 4 号 p. 526-541
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/21
    ジャーナル フリー

     作文を書くことに困難を示す発達障害の子どもは少なからず存在する。近年,作文の自己調整方略学習(SRSD)モデルを用いた教授法が注目されている。本研究は,特別支援学級に在籍する小学3,4年生の自閉症スペクトラム障害(ASD)児童6名を対象に,SRSDモデルを用いた小集団介入の効果を検証した。1群事前事後テストデザインを用いて,物語作文の要素数,物語作文内容の質的評価の変化を介入前後で比較した。その結果,物語作文の要素数では5名,物語作文内容の質的評価では4名において,高い介入効果量が確認された。介入効果の背景には,作文のプランニング方略やセルフモニタリング方略の学習があり,方略使用の有効性の認知も影響することが示唆された。また,従来のSRSDモデルにはない接続詞の学習,対象児の好みを反映させた教材,方略模倣のためのビデオ教材,シールによる自己評価,仲間同士の学び合いも,介入効果を支えていたと考えられた。一方で,わずかな介入効果に留まった児童もおり,個に応じた教材や学習環境の工夫は更なる改善が必要であった。本研究の結果から,対象児の作文方略知識の学習状況や,障害特性に合わせた作文のSRSDモデルの展開について考察した。

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