教育心理学研究
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68 巻, 4 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著
  • 金子 楓, 濱口 佳和
    原稿種別: 原著
    2020 年 68 巻 4 号 p. 339-350
    発行日: 2020/12/30
    公開日: 2021/01/16
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,“Parental Gatekeeping Scale” (Puhlman & Pasley, 2017) の日本語版を作成し,因子構造,信頼性,妥当性を検討することであった。調査対象者は,茨城県内の幼稚園,保育所,こども園へ通う子どもをもつ母親685名で,313名の母親から回答を回収した。探索的因子分析の結果,母親のゲートキーピング尺度日本語版は,コントロール,抑制,促進の3因子18項目から構成された。また,母親のゲートキーピング尺度の各下位尺度のα係数の値は,.74―.86であり,一定の内的一貫性が示された。妥当性については,「夫婦関係満足度」,「育児への関心」,「子どもとの遊びや世話」,「子どもからの働きかけ・態度」の変数を用いて検討を行った。その結果,「促進」は全ての尺度と正の関連,「抑制」は全ての尺度と負の関連,「コントロール」は「子どもとの遊びや世話」および「子どもからの働きかけ・態度」と正の関連を示した。この結果は概ね予測と一致しており,母親のゲートキーピング尺度日本語版の妥当性が確認された。

  • ―対人関係における拒絶感受性と孤独感の調整効果に着目して―
    安達 未来
    原稿種別: 原著
    2020 年 68 巻 4 号 p. 351-359
    発行日: 2020/12/30
    公開日: 2021/01/16
    ジャーナル フリー

     これまでの研究で,他者を軽視する傾向が強いほど援助要請を回避しやすいことが示されているが,教師への学業的援助要請については十分な検討はなされていない。本研究では,仮想的有能感の高い生徒の特徴が教師への学業的援助要請にどのような影響を与えているのかを,拒絶感受性と孤独感の調整効果をふまえ,明らかにした。高校生173名を対象に,調査を実施した。仮想的有能感を他者軽視傾向で測定し,さらに自律的援助要請,依存的援助要請の2因子から構成される学業的援助要請を測定した。加えて,対人感受性尺度,対人疎外感尺度を用いてそれぞれ拒絶感受性と孤独感を測定した。その結果,仮想的有能感は,拒絶感受性が低い場合において,自律的援助要請に正の影響を与えていることがわかった。これは,仮想的有能感の高い生徒の拒絶に対する敏感さが自律的援助要請を回避させることを示唆する。また,仮想的有能感は,孤独感の高い場合において,自律的援助要請に正の影響を与えていた。孤独を感じることが対人的なコミュニケーションの一つとして,教師への自律的援助要請に結び付いた可能性がある。

  • ―一貫校と非一貫校を比較して―
    侯 玥江, 太田 正義, 加藤 弘通
    原稿種別: 原著
    2020 年 68 巻 4 号 p. 360-372
    発行日: 2020/12/30
    公開日: 2021/01/16
    ジャーナル フリー

     小学校から中学校への移行における学校適応の困難を見据え,学校間接続を円滑化するため近年小中一貫教育が実施されてきた。しかし学校環境の変化の程度と学校適応感の変化について,十分に検討されていない。また学校適応感と大人との関係性との縦断的な影響プロセスが未検討であるという問題点が挙げられる。本研究では,小中一貫校の121名の児童生徒と非一貫校の小中学校173名の児童生徒を対象に,小学校6年生後期から1年間3時点にわたる縦断調査を行った。分析の結果,(1)一貫校は非一貫校よりも移行における環境の変化が小さいにもかかわらず,二校間の学校享受感の変化軌跡には違いは認められなかった。(2)学校享受感の変化軌跡は,平均的に見ると軽微に低下するが,個人差が認められる。学校享受感の変化量は0に集中し,ごく少数の子どもが明確な向上と低下を示した。(3)移行後の中1前期の教師との関係から中1後期の学校享受感への縦断的影響が見られたが,逆方向の学校享受感から教師との関係への影響がどの時期にも認められた。親との関係から学校享受感への縦断的な影響は認められなかった。

  • 澁谷 拓巳
    原稿種別: 原著
    2020 年 68 巻 4 号 p. 373-387
    発行日: 2020/12/30
    公開日: 2021/01/16
    ジャーナル フリー
    電子付録

     項目反応モデルの多くはカテゴリカルな観測変数を対象とするものだが,中には反応時間や回答への確信度といった連続量の観測変数を対象としたモデルも提案されている。本研究では連続した観測変数をベータ分布でモデリングしたNoel & Dauvier (2007) のモデルを拡張し,新たな項目反応モデルを提案する。本研究では,先行研究では示されていなかった,EM法による周辺最尤推定法による項目パラメタ推定方法の定式化と,推定の標準誤差の解析的な導出をおこない,パラメタの等化可能性について議論する。シミュレーションにより,提案手法の真値とのRMSEは0.1程度で推定されることと,EM法による推定が項目数が少ない条件下であっても安定していることが分かった。本来は連続変数として想定されてはいないものの観測カテゴリ数の多い実データに提案手法を適用したところ,比較的小さな標準誤差の推定値が得られることと,能力推定値は段階反応モデルで推定した結果と高く相関していることを示した。

原著[実践研究]
  • 飯島 有哉, 山田 達人, 桂川 泰典
    原稿種別: 原著[実践研究]
    2020 年 68 巻 4 号 p. 388-400
    発行日: 2020/12/30
    公開日: 2021/01/16
    ジャーナル フリー

     本研究は,教師の生徒に対する賞賛行動が,生徒の学校生活享受感情および教師自身のワーク・エンゲイジメント(WE)に与える効果とそのプロセスについて検討することを目的とした。公立中学校教師4名に4週間の賞賛行動の自己記録を依頼し,介入に伴う生徒267名および教師自身の変化を測定した。生徒に対する質問紙調査および教師に対する生徒の学校生活の様子に関するインタビュー調査の分析結果から,教師の賞賛行動に伴うほめられ経験の増加がみられた学級において生徒の学校生活享受感情の向上が認められた。教師自身においては,単一事例実験法による検討およびインタビューデータの分析結果から,賞賛行動の増加に伴うWEの向上が認められ,その変化プロセスとして,賞賛行動の実行に伴う【効果の体験】が直接的に【WEの向上】に結びつくものと,【生徒認知の変化】を介するものの2種類のプロセスが見出された。本研究の結果から,教師の賞賛行動が生徒および教師双方の学校適応の促進に寄与することが示され,その効果プロセスにおける相互作用性および,教師の主観的な賞賛行動と生徒のほめられ経験の一致の重要性が考察された。

展望
  • ―5つの仮説とそれらの批判的検討―
    小林 敬一
    原稿種別: 展望
    2020 年 68 巻 4 号 p. 401-414
    発行日: 2020/12/30
    公開日: 2021/01/16
    ジャーナル フリー

     近年,教授による学習が効果的な理由を説明する様々な考えが提案されてきた。本論文では,その学習効果の背後にどのような心的過程が仮定されているかという観点から,それらの説明を次の5つの仮説に整理した。(a)知識構成仮説:教授・教授準備が知識構築や生成的処理を促進することで学習効果を生み出す。(b)動機づけ仮説:教師役を務めることが学習内容の知識構成的な処理を動機づける。(c)説明生成仮説:説明産出の行為やその準備が知識構成を促す。(d)メタ認知仮説:教授的説明の産出や生徒役との相互作用がメタ認知的モニタリングを介して知識構成を促進する。(e)検索練習仮説:説明産出に伴う検索練習が学習効果を生み出す。さらに,先行研究の知見を批判的に検討した結果,知識構成仮説とメタ認知仮説を肯定する証拠は多少揃っているが,残り3つの仮説については証拠がほとんどないか知見が分かれていることが示唆された。最後に,教授による学習研究の課題と展望を述べた。

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