教育心理学研究
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69 巻, 3 号
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原著
  • ―制御焦点を調整変数として―
    清水 登大, 長峯 聖人, 外山 美樹
    原稿種別: 原著
    2021 年 69 巻 3 号 p. 229-240
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

     自己制御とは,目標達成に向けて自らの思考,感情,行動を調整しようとするプロセス全般のことを指す。自己制御を向上させるための方略としてself-distancingがあり,非1人称セルフトークを行うことで促進することができる。本研究の目的は,self-distancingによる自己制御パフォーマンス向上への影響において,制御焦点が調整変数になり得るのかどうかを検討することであった。分析対象者は大学生72名であった。実験参加者は促進焦点または防止焦点を活性化され,1人称または非1人称セルフトークを行いながら自己制御課題(ハンドグリップをできるだけ長い時間握り続ける課題)に取り組んだ。実験の結果,促進焦点条件でのみ,1人称セルフトークと非1人称セルフトークの効果に差がみられた。この結果から,self-distancingの効果において,制御焦点の違いが調整変数として働く可能性が示された。

  • ―説明的文章の読解を対象に―
    舛田 弘子, 工藤 与志文
    原稿種別: 原著
    2021 年 69 巻 3 号 p. 241-253
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

     工藤・舛田(2013),舛田・工藤(2013)は,説明文の不適切な読解が生じる原因の一つとして,文章内容から触発された想念が読解表象に入り込む現象,すなわち「想念の侵入」を指摘した。この現象は舛田(2018)による質的研究において確認されている。本研究では「想念の侵入」と不適切な読解表象との関係について量的な分析を行った。研究1では大学生96名を対象に,説明文の読解,文章中の「重要と思う部分」と「気になる部分」の抽出,文章の主旨の記述を行わせた。その結果,適切な主旨を記述した者は,重要と思う部分に依拠して記述する傾向があったが,不適切な主旨を記述した者では気になる部分への依拠が多く,「侵入」も多く観察された。このことから,文章中のエピソードの印象深さがその要因として指摘された。さらに,文章の冒頭と結びの部分に関連する「侵入」が多かったことから,文章構成の影響も考えられた。そこで,研究2では大学生94名を対象に,研究1の文章の結末部分を入れ替えた文章を用いて調査を実施した。その結果,入れ替えられた結末部分の内容に関する「侵入」の増減が確認された。以上の結果は,トップダウン処理による読解ストラテジーの誤用という観点から考察された。

  • ―Cattell-Horn-Carroll 理論によるサブタイプの検討―
    岡田 智, 飯利 知恵子, 安住 ゆう子, 大谷 和大
    原稿種別: 原著
    2021 年 69 巻 3 号 p. 254-267
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

     本研究ではASDのある子ども116名のWISC-IVのデータを収集し,従来のWISC-IVの4因子モデルとCHC理論に準拠した5因子モデルを想定した確認的因子分析を行い,その適合度及び下位検査構成を検証した。どのモデルも高い適合度を示したが,「結晶性能力」「視覚空間」「流動性推理」「短期記憶」「処理速度」で構成されるCHCモデルが最も当てはまりがよかった。下位検査構成では「行列推理」が「視覚空間」に負荷する結果となり,海外における因子分析の結果とは異なるものであったが,日本における先行研究と一致した。また,5つのCHCモデルによる合成得点を用いて,クラスター分析を行い5つのクラスターを抽出した。言語能力-視覚空間能力の優位性と処理速度の低さに特徴がある自閉性障害及びアスペルガー障害で従来から報告されてきたプロフィールが確認されたものの,「短期記憶」や「処理速度」に強みがあるクラスターも同定された。また,「視覚空間」と「流動性推理」の得点に乖離があるクラスターもあり,WISCモデルよりもCHCモデルでASDのある子どもの個人内差をより詳細に把握できることを示した。

  • 浅山 慧, 越良 子
    原稿種別: 原著
    2021 年 69 巻 3 号 p. 268-280
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,高校生において,可能自己の活性化が学習意図を強めるための条件について検討することであった。本研究では,学習意図に対して可能自己活性化が正の影響を及ぼすための条件として,(a)学校での学習を可能自己の実現や回避のための方略として強く認識している(方略認知),(b)想起した可能自己が具体的である,(c)想起した可能自己の実現や回避を高く価値づけている(価値づけ),という3つの仮説を検証した。高校生633名を対象に行った質問紙実験の結果,想起した可能自己と学習との関連をあまり認知しておらず,可能自己が具体的であり,可能自己の実現をあまり高く価値づけていない場合において,ポジティブな可能自己の活性化が学習意図に正の効果をもたらしていた。仮説(b)は条件付きで支持され,具体的な可能自己の活性化が学習意図を強めることが示唆された。仮説(a),(c)は支持されなかったが,「方略認知」が低い場合においても状況によっては可能自己の活性化が効果的である可能性や,「価値づけ」が低い場合にはアクセシビリティが高くないため,可能自己を活性化させる操作や介入が効果的である可能性が示唆された。

  • ―モデルが正しく特定された場合と誤特定された場合の比較―
    小野島 昂洋, 椎名 乾平
    原稿種別: 原著
    2021 年 69 巻 3 号 p. 281-296
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー
    電子付録

     信頼性係数の利用に関する近年の議論の中で,モデルに基づく信頼性の報告が推奨されるようになってきている。その中でリッカート尺度のような順序カテゴリデータに対応した信頼性係数として非線形SEM係数がGreen & Yang (2009) によって提案されているが,その性能評価を行った研究の数は限られている。この係数を応用研究で用いるためには,モデルが誤特定された場合にどのような挙動が見られるかを明らかにすることが重要である。そこで本研究は,モデルが誤特定された条件下で非線形SEM係数が信頼性を正しく推定することができるかを評価するためにモンテカルロシミュレーションを行った。その結果,非線形SEM係数はモデルが正しく特定されている条件下では信頼性を極めて正確に推定できるものの,モデルが誤特定されたときには深刻なバイアスが生じる場合があることが明らかになった。バイアスの程度はモデルの誤特定の程度を反映し,より深刻な誤特定であるほど大きなバイアスが生じた。シミュレーションの結果に基づき,応用研究で非線形SEM係数を利用する際の留意点を議論した。

  • ―小学校第4, 5学年の社会科を対象として―
    山森 光陽, 徳岡 大, 萩原 康仁, 大内 善広, 中本 敬子, 磯田 貴道
    原稿種別: 原著
    2021 年 69 巻 3 号 p. 297-316
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

     クラスサイズ及び目標の提示と達成状況のフィードバックの頻度による,小学校第4, 5学年の2年間にわたる社会科の学力の変化の違いを検討した。第4, 5, 6学年開始前後の標準学力検査の結果を児童個別に結合したパネルデータに,第4, 5学年時のクラスサイズ,目標の提示と達成状況のフィードバックの頻度を連結したパネルデータのうち,第4, 5学年間で学年学級数の変動が起こらなかった50校,1,672名の児童を分析対象とした。第4学年,第5学年の各1年間,第4, 5学年の2年間の,過去と後続の学力の違いに対するクラスサイズ,目標の提示と達成状況のフィードバックの頻度,及びこれらの交互作用の影響を,児童,クラス,学校の3レベルを仮定したマルチレベルモデルによる分析を行った。その結果,第4, 5学年の2年間で見ると,在籍したクラスのサイズが小さく,かつ目標の提示と達成状況のフィードバックの頻度が高い学級担任による指導を受け続けた場合,過去の学力が相対的に低い児童については,これ以外の場合の児童と比べて後続の学力が高いことが示唆された。

原著[実践研究]
  • 岩本 佳世, 園山 繁樹
    原稿種別: 原著[実践研究]
    2021 年 69 巻 3 号 p. 317-328
    発行日: 2021/09/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

     本研究では,小学校の通常学級2学級を対象に,トゥートリング(援助報告行動)を促進するための相互依存型集団随伴性に基づく支援の効果を,学級間多層ベースラインデザインを用いて検証することを目的とした。対象者は,小学校5年の2学級の児童であり,各学級の児童数は29名であった。トゥートリング手続きは,学習内容に関する声かけを付箋紙に書いて担任に報告することであった。相互依存型集団随伴性に基づく支援は,グループ全員がこの付箋紙を提出した場合は,担任はグループ全員にシールを渡す,という手続きであった。また,低成績児童の漢字テスト成績への効果を付加的に検討した。その結果,2学級ともに他児からの援助を報告した児童の割合が増加し,相互依存型集団随伴性に基づく支援の導入によってトゥートリングが促進された。また,低成績児童の漢字テストの得点が改善することが示唆された。今後は,相互依存型集団随伴性に基づく支援によって生起する低成績児童と同じグループのメンバー間での援助行動の変容に関するさらなる検討が必要である。

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