教育心理学研究
Online ISSN : 2186-3075
Print ISSN : 0021-5015
ISSN-L : 0021-5015
70 巻, 3 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著
  • ―失敗から引き出された教訓の質を捉える新たな基準の提案―
    柴 里実
    原稿種別: 原著
    2022 年 70 巻 3 号 p. 231-245
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/20
    ジャーナル フリー

     問題解決の失敗後に自分の思考過程を振り返り,次の問題解決に役立つ知識を獲得することは,効果的に学習を進めていくために必要である。一方,先行研究では,振り返りを通して自分の間違いから適切に学ぶことができない学習者の存在も指摘されている。そこで本研究では,問題解決の失敗後の振り返りにおいて,学習者がどのような知識を学んでいるのかという振り返りの質を検討するために,メタ認知的方略「教訓帰納」に焦点を当て,学習者が引き出した教訓の質を評価した。教訓の質を評価するために新たな評価基準を作成し,中学2年生を対象に,文章題を題材とした教訓帰納課題と質問紙調査を実施した。評価された教訓の質得点と数学の学業成績との関連の検討と,数学教師による評価結果との比較検討から,本研究で作成した評価基準が教訓の質を捉えるために有用といえることが示された。また,参加者が引き出した教訓の質の評価から,自分の間違いを的確に分析することや,問題解決の転移に役立つ汎用的な知識を抽出することが困難であるという実態が示された。さらに,教訓の質と学習者特性との関連を検討した結果,意味理解志向や失敗活用志向などの深い認知処理を重視する学習観が,質の高い教訓の引き出しにかかわっている可能性が示唆された。

  • ―ジップ分布を用いた分析―
    豊田 秀樹, 馬 景昊, 大橋 洸太郎
    原稿種別: 原著
    2022 年 70 巻 3 号 p. 246-259
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/20
    ジャーナル フリー

     講義の改善を考える際には,選択式だけでなく自由記述式の授業評価が参考になる。その場合に重要となる観点の1つは,収集した意見の飽和度である。飽和度とは,集めた意見が意見全体の母集団に占める割合のことである。

     本研究では,まず一度に複数の意見を求める自由記述式の授業評価の結果の分布が,一度に1つの回答を求めた場合を想定した素朴な分布の状態に比して歪んでいることをシミュレーションで確認した。そしてジップ分布を用い,意見の非復元抽出を想定した場合の歪みのない真の度数分布,及び意見の飽和度をベイズ推定によって推定する方法を提案した。またジップ分布を用いることによって,全体の意見に占める,上位の出現頻度の意見群の得られ方の集中度合を示す指標,寡占度の推定方法も提案した。さらに,様々なデータの収集人数からの授業評価アンケートを用いた実例を示し,推定精度に関する議論を行った。

     本研究の提案手法によって,授業評価の内容を吟味するだけでなく,その出現頻度の分布の観点から授業評価の結果の考察をする視点を提供できた。これにより,講義の改善を考える際の観点の幅を広げることができた。

  • ―利用価値と興味に着目して―
    三和 秀平, 解良 優基, 松本(朝倉) 理惠, 濵野 裕希
    原稿種別: 原著
    2022 年 70 巻 3 号 p. 260-275
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/20
    ジャーナル フリー

     子どもが教科に対して認知する利用価値や興味の変化および分化を検討するために,学習塾に通う小学校4年生から中学校3年生を対象に調査を行った。その結果,実践的利用価値では,英語のみ中学校1年生で高くなるが,他の教科では学年が上がるにつれて低下する傾向がみられた。制度的利用価値では,英語では学年が上がると増加する傾向が,理科と社会では学年が上がると低下する傾向がみられた。興味では数学と英語を除き学年が上がるにつれて低下する傾向がみられた。このように,利用価値の認知や興味の変化は,教科や価値・興味の側面ごとに異なることが示された。また,教科間の相関関係を見ていくと,数学-理科のような距離の近い科目の興味は学年が上がっても,一定の相関係数を維持していた。一方で,数学-国語のような距離の遠い科目の興味は学年が上がるにつれて相関が弱くなり,中学校3年次には相関がみられなくなっていた。このことより,学年が上がるにつれて距離の遠い科目の興味が分化することが示唆された。一方で,利用価値では相関係数は低下する傾向にはあるものの,一定の値を保っていた。また,英語に関しては他の教科とは異なった傾向を示していた。

  • ―文字獲得以前の線画や絵画に注目して―
    石本 啓一郎
    原稿種別: 原著
    2022 年 70 巻 3 号 p. 276-289
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/20
    ジャーナル フリー

     本研究は,幼児のインスクリプション(線画,絵画,文字を含む,かかれた線の総称)が記憶補助となる条件を特定することを目的とした。分析1では,3―7歳児のインスクリプションが記憶補助として役に立つのかという既存の調査(メモかき課題)と対応させて,それが他者にも理解できるのかという調査(メモ評価課題)を実施し,両者の関係を検討した。その結果,他者に理解可能な形式(文字と,明確に図像的象徴性のある絵画)が記憶補助として役に立っていた。そのため,幼児のインスクリプションが記憶補助となる第一の条件は,他者に理解可能な形式であることだと考えられた。ただし,他者に理解されない形式でも記憶補助として役に立っていたものが見られた。分析2では,幼児が記憶補助としてインスクリプションを産出する時の発話を分析した。その結果,他者に理解されない形式を記憶補助として役立てていた子どもは,その意味について多く発話しながらインスクリプションを産出していた。そのため,第二の条件は,自発的な発話を伴いながらインスクリプションの意味を形成することだと考えられた。

  • 則武 良英, 湯澤 正通
    原稿種別: 原著
    2022 年 70 巻 3 号 p. 290-302
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/20
    ジャーナル フリー

     高テスト不安者は,試験中に心配思考が生起して成績低下が生じる。テスト不安が最も高まるのは中学2年生ごろの生徒であるが,中学生のテスト不安を緩和するための介入方法はない。本研究の目的は,短期構造化筆記を作成し,中学生のテスト不安と数学期末試験成績に及ぼす影響を調べることであった。研究1では,短期構造化筆記を作成し,予備調査として35名の中学生の日常不安を対象にした介入実験を行なった。その結果,中学生に対する高い適用可能性が示された。そこで研究2では,141名の中学生を対象に,実際の期末試験に対するテスト不安を対象に介入実験を行なった。その結果,本介入により中学生の多様な感情制御が促進され,テスト不安が緩和されたことが示された。さらに,数学期末試験成績に対する効果を調べた結果,高テスト不安中学生において不安減少量が大きい者ほど成績が高かったことが示された。本研究の結果をまとめると,本介入により中学生の感情制御が促進され,テスト不安が緩和されることで,数学期末試験成績の低下が緩和されたことが示された。今後は,介入によって生起する感情制御プロセスの更なる解明が望まれる。

  • 石津 憲一郎, 下田 芳幸, 大月 友
    原稿種別: 原著
    2022 年 70 巻 3 号 p. 303-312
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/20
    ジャーナル フリー

     本研究は,中学3年生の受験期におけるストレス反応と対処方略との関係性を,短期縦断的に研究することを目的とした。268名の高校受験生を調査協力者として,中学3年生の1月中旬,2月中旬,3月上旬の3時点において,ストレス反応とストレッサーへの対処方略を測定した。多変量潜在成長モデルによる検討を行った結果,(a)ストレス反応の初期値の切片は,問題解決的対処の傾きに負の影響を与えること,(b)他者依存的情動中心対処の切片はストレス反応の傾きに負の影響を与えること,(c)ストレス反応と回避的対処の切片同士は負の関連を示すものの,継時的な関連性は認められないことが示された。以上の結果を踏まえ,高校受験期にある中学生におけるストレスに対し,どのように対処方略を活用していくことができるかについて,考察を行った。

展望
  • 新井 雅
    原稿種別: 展望
    2022 年 70 巻 3 号 p. 313-327
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,スクールカウンセラー(SC)活用調査研究委託事業が開始された1995年から近年までの日本のSC研究の動向を検討することを目的とした。全国の公立中学校へのSC配置が正式に進められた2001年を1つの基準として,表題・副題にSC等の記載がある1995―2019年のSC研究論文数(学術誌・紀要)の推移を把握すると共に,学術誌の研究内容について計量テキスト分析を行った。その結果,学術誌・紀要全体では,2000年以前より2001年以降の論文数が増加していた一方,2001年以降の推移に着目すると,SC配置が年々増加しているにもかかわらず,学術誌・紀要の増加傾向はみられなかった。学術誌の内容分析では,2000年以前は,学校現場でのSCの役割・機能を模索し評価する研究が行われ,2001年以降は,主に不登校支援や相談室の特徴・機能を探る研究等が行われた時期を経た後,近年,教師等との効果的な連携・協働を進めるための研究が盛んに行われている傾向が示された。1995年以降,研究論文の量的な蓄積と共に,学校教育が抱える多様な諸問題・ニーズに呼応するかたちで,扱われる研究内容も変化している。これらの動向を踏まえて,今後のSC研究の発展的課題について考察した。

feedback
Top