教育心理学研究
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原著
  • ―COSMINに基づく信頼性,妥当性の検討―
    本田 真大, 新川 広樹
    原稿種別: 原著
    2024 年 72 巻 2 号 p. 73-86
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/10/04
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は児童青年の援助要請認知,援助要請スキルを測定する尺度開発に向けて,COSMINチェックリストに基づいて信頼性(内的一貫性,再検査信頼性,測定誤差)と妥当性(構造的妥当性,測定不変性,構成概念妥当性の仮説検証)を検討することであった。小学4年生から高校3年生を対象とした4通りの質問紙調査を実施した。確証的因子分析の結果,援助要請認知尺度,援助要請スキル尺度のいずれも理論通りの因子構造が得られた。学校種と性別ごとの多母集団同時分析では,両尺度の測定不変性が支持された。小学生,中学生,高校生それぞれのデータ分析より,内的一貫性,再検査信頼性は十分な値が得られ,測定の標準誤差および最小可検変化量が示された。構成概念妥当性の仮説検証については,援助要請認知尺度,援助要請スキル尺度の仮説の75%以上が支持された。しかし,アンカーに基づく方法では反応性(応答性)は確認されなかった。本研究では両尺度ともに概ね十分な信頼性と妥当性が確認され,今後の課題として反応性(応答性)を検討することが挙げられた。

  • 工藤 与志文, 佐藤 誠子, 進藤 聡彦
    原稿種別: 原著
    2024 年 72 巻 2 号 p. 87-98
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/10/04
    ジャーナル フリー

     課題解決のために必要な知識を学習済みでありながら,その知識を適用せずに解決に失敗することがある。先行研究では,カテゴリールールの学習において,学習者にとって既知であった事例に対してはルールを適用するが,未知の事例には適用しにくい傾向があることが示されている(知識適用における既知性効果)。本研究の目的は,この既知性効果が他のカテゴリールールでもみられるかどうかを検証し,さらにその生起機序についての仮説を得ることであった。調査では,カテゴリーの既知性に加え,ルールを構成する「共通特性」に関する既有知識の有無がルールの適用に影響する可能性についても検討した。大学生を対象に調査を実施した結果,動物(研究1),種子植物(研究2)に関するルールのいずれにおいても既知性効果が確認された。さらに,研究2のアンケート調査の結果から,既知性効果の生起機序に関して,共通特性に関する既有知識に依存したものと,既有知識とは独立した要因によるものとの2種類が存在する可能性が示唆された。これを踏まえ,既知性効果の解消を目指した教授方略の開発が今後の課題として挙げられた。

  • 児玉 真樹子
    原稿種別: 原著
    2024 年 72 巻 2 号 p. 99-109
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/10/04
    ジャーナル フリー

     本研究では,学生時代に行ったアルバイトにおけるジョブ・クラフティング経験が,卒業間近の大学生のキャリアレジリエンス形成度合の規定因として働く可能性を検証することを目的とする。3月末に卒業予定の大学4年生を対象に2023年2―3月にインターネット調査を実施し,521名分のデータを得た。大学在学中にアルバイトでジョブ・クラフティング(仕事,人間関係,認知的次元)を行った経験と,卒業間際でのキャリアレジリエンス(問題対応力,ソーシャルスキル,新奇・多様性,未来志向,援助志向)の状態を測定した。共分散構造分析の結果,キャリアレジリエンスの問題対応力にはジョブ・クラフティングの仕事次元と認知的次元から,ソーシャルスキルと援助志向には人間関係次元から,新奇・多様性と未来志向には認知的次元から正のパスがみられた。これよりアルバイトでのジョブ・クラフティング経験がキャリアレジリエンスの形成度合の規定因となる可能性が示された。大学生のキャリアレジリエンスの形成度合を高めるためには,様々なスキルを活用し一定の決定権限が持てる仕事内容のアルバイトに従事し,ジョブ・クラフティングを行うことが重要と言えよう。

  • ―有機体価値理論からの心的外傷後成長とレジリエンスの検討―
    長田 真人
    原稿種別: 原著
    2024 年 72 巻 2 号 p. 110-120
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/10/04
    ジャーナル フリー

     いじめ被害は体験直後だけでなく,青年期にまで影響を与えており,その形成過程には精神的健康の回復や心理的変容も見られる。また,危機体験からの回復過程において,レジリエンスは精神的健康を促す一方で,心的外傷後成長などの心理的変容と精神的健康との関連には疑問がある。そこで,本研究では有機体価値理論を参考に意味づけに注目し,いじめ被害の青年期への影響として,心的外傷後成長とレジリエンスの検討を行い,精神的健康に与える影響の形成過程を明らかにする。本研究は,一般大学生男女420名(男245,女173,他2)を対象に質問紙調査を行った。構造方程式モデリングにおける分析から,資質的レジリエンス低群と高群で共に適当なモデルが確認された。その後,モデルの比較を行い,パスの等値制約モデルが採択された。結果から,いじめ被害の青年期への影響として,資質的レジリエンスにかかわらず,同化から獲得的レジリエンスを介して精神的健康を促す過程と,調整から心的外傷後成長を促す過程が示された。本研究から,いじめ被害者への支援に向けて,資質的レジリエンスの高低に考慮した上で,いじめ被害後の意味づけへの支援が有効であると考えられる。

原著[実践研究]
  • 芦谷 道子
    原稿種別: 原著[実践研究]
    2024 年 72 巻 2 号 p. 121-132
    発行日: 2024/06/30
    公開日: 2024/10/04
    ジャーナル フリー

     英国で開発された子どもを対象としたマインドフルネス・プログラム,.b(ドットビー)を日本の高校生22名を対象に実施し,質問紙による主観指標,毛髪による生体指標及び印象評価を通して効果評価を行った。プログラム実施前後で抑うつ,行為の問題が低下し,ウェルビーイングが向上し,2か月後も効果が持続した。またストレスホルモンとされるコルチゾールには変化がなかったが,抗ストレス作用のあるDHEA,レジリエンス指標とされるDHEA/コルチゾールが上昇した。マインドフルネスによってストレス反応そのものが減少するわけではないが,ストレスからの回復を促す中長期的な生体のレジリエンスが向上した可能性があると考えた。さらに,対象の86.4%がプログラムを肯定的に評価し,勉強やパフォーマンス向上,対人関係においてマインドフルネスが役立つと回答し,マインドフルネスを問題解決のスキル,自己理解の手段,将来の資源と捉えた。主観指標と生体指標両面において高い有効性が示唆され,本プログラムが思春期にある日本の子どもたちにインパクトを与え,人生にわたる心の資産となる可能性が示唆された。

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