保育・幼児教育では子どもの安全への関心が高まっているが,重大事故が共通して起きやすい場面や環境を除いては各園における実態に応じて多様な制限やきまりが設定されている。他方で制限やきまりについては道徳性・規範意識の文脈で子ども自身による気づきが重視され,その伝達には保育者自身の葛藤も伴う。本研究では7園の保育者32名を対象に,遊びにおける安全のための制限やきまりを手がかりとした半構造化面接を実施した。データはM-GTAを用いて分析し,Bronfenbrennerの生態学的アプローチによる先行研究(van Rooijen & Newstead, 2016)の枠組みを参考に概念図を検討した。その結果,保育者の判断に関連する5つの層として(1)子ども,(2)子ども間,(3)子どもと保育者/保育者自身,(4)他の保育者や園全体,(5)保護者や園外社会が相互に関連し変容するプロセスが示された。その中で保育者自身の持つ経験・知識・見通しとともに,保育者間での対応の相違や理由について,共有する機会や関係性が重要であることも示唆された。保育者間での共有に本研究の概念モデルを活用しつつ,より多角的な検討が求められる。
本研究では「どのような学習行動が達成されたら理解したと考えるか」についての信念を「理解観」,学習を終えた後に行う主観的な理解度の評価を「理解度自己評価」とし,中学生の理解観と理解度自己評価の正確さの関連を検討した。研究1では,理解観尺度の質問項目を作成し,中学生700名を対象に調査を実施した。因子分析の結果,想定どおり「深い理解観」と「浅い理解観」の2因子を得た。次に理解観の個人差を検討するために130名の生徒を対象にクラスタ分析を行った。その結果,「深い理解観重視・浅い理解観非重視」(n=43),「深い理解観重視・浅い理解観重視」(n=46),「深い理解観非重視・浅い理解観非重視」(n=41)の3つのクラスタに分かれた。研究2では社会科の自己学習場面を想定した学習課題調査を行い,理解度自己評価と確認テストの回答を求めた。これらの評定値と得点を用いて算出した絶対的正確さの指標について,3つのクラスタ間の相違を分散分析により検討した。その結果,深い理解が問われる場合,クラスタ1「深い理解観重視・浅い理解観非重視」の生徒たちは,クラスタ3「深い理解観非重視・浅い理解観非重視」の生徒たちよりも理解度自己評価が正確であることが示された。
高校生では恋人間暴力であるデートDVのリスクが高まるため,予防プログラムを実施する必要がある。学校で予防プログラムを実施する場合,少人数を対象に暴力全般を扱う内容で複数回実施することが効果的だと考えられる。そこで本研究では,高等学校の授業に組み込む形式の暴力防止プログラムを2年次3回,3年次2回の計5回実施し,その効果を検証した。プログラムの目的は,暴力を認識できるようになること,他者の視点で考えられるようになること,アサーションスキルを身につけることであった。プログラムではグループワーク,ディスカッション,ロールプレイなどを行った。2年次プログラム群37名,2年次から引き続き参加した3年次プログラム群28名に対し,各学年で事前アンケート,事後アンケートを実施し,5回目のプログラム終了から2ヵ月後にフォローアップアンケートを実施した。各学年で対照群との比較も行ったところ,2年次のプログラム受講直後から暴力を認識できるようになっており,その効果はフォローアップ時まで持続していた。他者視点の取得にも長期的効果がある可能性が示唆された。アサーションスキルの向上は困難であることが示された。