本研究では,問題事象に内在する関数関係とその成立根拠についての探究(第1時)と,類似事象の探究およびクラスで共有された想起事象間の共通点に関する協同探究(第2時)により構成される2時間の授業が,児童の関数に関する概念的理解の深化に及ぼす効果について検討することを目的とした。小学校4年生3学級を対象に,和が一定であるという問題事象を共通の題材としつつ,課題内容の異なる授業課題を用いた3種類の授業が実施された(類似事象想起・同時探究群,単一事象提示・同時探究群,単一事象提示・継次探究群)。授業前後に実施した調査課題の分析から,類似事象想起・同時探究群では他の2群よりも概念的理解の深化が促進され,その効果は授業課題とは異なる関数関係が成り立つ一次関数課題において特に顕著にみられることが明らかになった。また,類似事象想起・同時探究群の授業で使用したワークシートへの記述の分析から,全体量不変という数学的構造を捉えた深い数学的な思考や,数的関係と意味が関連づけられた日常的な思考の枠組みが構成されることで,関数に関する概念的理解の深化が促進される可能性が示唆された。
小学生が身につける書き言葉の特徴として,様々なジャンルにはそれにふさわしいレジスターが存在することを確認することが本研究の目的であった。小学校2・4・6年生計500名が,物語作文と意見作文のいずれかの課題に取り組んだ。それぞれの作文は,文字・語彙レベル,文レベル,談話レベルという3つのレベルで分析された。文字・語彙レベルでは,文字数,使用された学年別配当漢字の数,語の種類等が,文レベルでは,授受などの基本的な構文の他,ヴォイス,ムードの各構文の出現数と,副詞節等の複文の出現数が数えられた。談話レベルでは,学習指導要領や国語教科書の指導書を参考にルーブリックが作成され,評定された。また,併せて表記,語彙・文法,正書法のエラーも数えられた。分析の結果,文字・語彙のレベルと文のレベルのそれぞれで,作文の種類によって出現数の多い要素に違いが見られ,学年の上昇とともに,子ども達は作文のジャンルに応じて異なる表現方法(レジスター)を選択するようになると考えられた。重回帰分析の結果,談話レベルの評定値の分散の40―50%が,要素となる文字・語彙,構文,エラーの数で説明された。
本研究は,日本語版心理的虐待調査票(Japanese Version of the Emotional Abuse Questionnaire: EAQ-J)を作成し,その信頼性と妥当性を検討することを目的とした。家族問題を抱える学生(N=314)のデータを分析した。確認的因子分析の結果,心理的虐待に関連する6因子,すなわち,暴言,心理的拒絶,過剰統制,不十分な統制,過剰期待,脅しが示され,これは原版と同様の因子構造であった。また,EAQ-J合計と下位尺度の内的一貫性が示された。そして,EAQ-J合計および下位尺度と,Childhood Trauma Questionnaire日本語版および青年期養育尺度との有意な相関が示された。以上から,EAQ-Jは,幼少期から経験した心理的虐待を測定しており,内的一貫性の観点から信頼性と親子関係の文脈から併存的妥当性および構成概念妥当性が示された。
児童期における分数の理解は将来の学業や仕事の成果の予測要因となることが知られているが,分数の概念的な理解は児童にとって大きな困難を示す。これまでの研究では児童の分数理解を助けるために,生活の中で半分や2倍等の乗法関係に着目する関係探索の活動の効果が検討されてきた。しかし,このような効果が就学前の幼児への活動にもみられるのかについては検討されていない。特に幼児は分数の知識の基盤となる比例推論を行うことが知られており,関係探索の活動がこの比例推論に効果を持つかを検討することは有効であると考えられる。そこで本研究では,幼児が遊びを通して半分や2倍の概念に触れる関係探索の活動を3つ作成し,これらの活動が比例推論にどのような効果を持つかを検討した。5, 6歳の幼児が事前・事後課題として比例推論課題を実施し,介入群は関係探索の活動,統制群は乗法関係の習得が期待されない活動を実施した。その結果,活動終了から約1週間後の事後課題において,介入群の比例推論の成績が有意に向上した。この結果は幼児の関係探索の活動は,比例推論の達成に有効であることを示した。効果が見られた要因として,乗法関係に関する知識・語彙・日常における注意傾向の向上や,Playful Learning理論に基づいた活動設計,量的関係への自発的注意の高まり等が議論された。