受験は,子ども達やその家族にとって大きなライフイベントである。中学受験を「試練」ととらえ成長を感じる者もいる一方,年齢に見合わない勉強量や親の過干渉により,中学受験を否定的にとらえる者も一定数いる。受験を巡る言説は散見されるが,実証的研究は極めて少なく,中学受験を取り上げた心理学的な研究はほとんどない。本研究は,中学受験を経験した当事者が,社会に出た後に自らの経験をどのように意味づけしているのかに関し,25―39歳の男女536名の回答を分析した。その結果,自己成長や友人関係の向上,高いレベルの教育の獲得という肯定的影響と余暇時間不足や否定的な人格形成,精神的つらさという否定的影響が挙げられた。成績や受験結果が良い者ほど肯定的影響を強く感じており,否定的影響のうち性格への否定的影響やつらさを弱く認知していた。さらに中学受験を肯定的にとらえる者ほど学歴や生活程度が高かった。本研究は主観的なデータだという限界はあるものの,進学選択は重要な問題であり,今後も教育心理学の視点からの貢献が求められよう。
本研究の目的は,心理的問題についての援助要請態度を測定する尺度であるMental Help Seeking Attitudes Scale (MHSAS) および援助要請意図を測定する尺度であるMental Help Seeking Intention Scale (MHSIS) の日本語版を作成することであった。尺度は,異文化適合性ガイドラインに基づいて翻訳され,その後,大学生と成人を対象にオンライン調査が行われた。多母集団確認的因子分析の結果,いずれの尺度も元尺度と同様1因子構造が確認され,大学生と成人間での測定不変性も確認された。また,MHSASとMHSISはいずれも,予測通り既存の援助要請態度・意図を測定する尺度との間に有意な正の,パブリックスティグマ,セルフスティグマを測定する尺度との間に有意な負の関連を示した。また,MHSASはMHSISに正の関連を示し,MHSISは4週間後の専門家への援助要請行動を有意に予測していた。加えて再検査信頼性についても概ね十分な値が示された。以上から,MHSASとMHSISの日本語版は一定の信頼性と妥当性を有すると判断された。
本実践では,高校1年生の数学を対象に,毎回の授業の振り返りから復習へと至る「学習の自己調整」を想定して指導を行った。1学期の指導では,授業の最後に行う振り返りの中で,復習で取り組むべき課題についても記述をさせることで復習を促した。また,復習の質を高めるため,問題解決後に解き方のポイントをメモする「教訓帰納」の重要性も折に触れて伝えるようにした。しかし,振り返りには公式を記憶することや繰り返し解くことを志向した記述が多く見られ,復習で取り組むべき課題として深い理解を志向した記述をしていても実際の復習には反映されていないなどの問題が見られた。そこで2学期の指導では,つまずきのタイプや,それに応じた課題設定例をまとめた表などを盛り込んだ「振り返りシート」を導入し,他の生徒の振り返りの記述や復習の例も示すようにした。その結果,2学期の振り返りでは,解法や公式の根拠を理解することを重視した記述が増加し,振り返りでの記述と実際の復習の間にもつながりが見られるようになるなどの変化が認められた。最後に,授業を中心とした日々の指導に「学習の自己調整」を取り入れていくことの重要性について論じた。
本研究は,複式学級で生起する協働的な自己調整学習を分析することを目的とした。小学3, 4年生の複式学級において単元内自由進度学習を実践し,4回の授業における学習行動の調査と2回の質問紙調査を行った。その結果,児童自らが学びのプロセスを進めることを意図して教師が積極的に間接指導を取り入れた学習環境下では,個別の学習であっても互いに学びを調整し合う協働的自己調整学習が観察された。異学年混合の学習環境における特徴的な自己調整学習行動として,下学年児童が上学年児童を活用する支援要請行動や,自己調整したり支援提供を受けたりする児童の様子を見取り,他者へのサポートを調整する上学年のメタ的共調整行動の生起が確認された。一方で,単元内自由進度学習を行った場合,一人学びと学習外活動の時間に個人間差が生じることが明らかとなった。さらに,自己調整行動をとったにもかかわらず学習が継続しない児童がおり,学習への不安感や動機づけ調整方略との関連が示唆された。