側頭葉てんかんの術後に前兆が再発した症例の臨床特性, 術前に施行した前兆時の頭蓋内脳波, および発作の術後経過を検討した。対象は長時間頭蓋内脳波記録を経て側頭葉の切除手術をうけ, 術後2年以上の経過を観察した56例である。前兆と複雑部分発作が共に完全に消失した31例に比べ, 前兆のみが再発した14例は, 幼児期の脳損傷の既往を有し, 罹病期間が長く, 術前に前兆の頻度が多く, 前兆時の頭蓋内脳波では海馬・扁桃核に起始した発作発射が側頭葉内側・底部の後方へ波及しやすい傾向を示した。前兆の再発より遅れて複雑部分発作が再発した6例でも類似の傾向を認めた。残りの5例では複雑部分発作の再発が前兆の再発とほぼ同時期か, または前兆の再発より先行していた。前兆が先行して再発した症例では, 前兆の再発時期は術後半年以内であり, 全例が内側構造にてんかん原性帯域を有し, 切除標本の組織所見では内側側頭葉硬化の症例が多かった。これらの症例の前兆は経年的に減弱ないし消失した。これに反して, 外側皮質にてんかん原性帯域が存在する症例では, 前兆と複雑部分発作が消失するか, あるいは共に再発するかのいずれかであった。
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