てんかん研究
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35 巻, 1 号
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巻頭言
総説
  • 中谷 光良, 井内 盛遠, 大封 昌子, 十川 純平, 村井 智彦, 橋本 聡華, 稲次 基希, 白水 洋史, 金澤 恭子, 渡辺 裕貴, ...
    2017 年 35 巻 1 号 p. 3-13
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/07/04
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    近年デジタル脳波計の進歩により、従来のいわゆるBerger帯域より広域の周波数帯域の脳波の記録が可能となった。1 Hz以下の低周波数帯域の活動、200 Hz以上の高周波数帯域の活動が記録できるようになり、従来の脳波に加え、DC電位(infraslow)、高周波数律動(High frequency oscillations,HFO)といった新たな情報が得られるようになった1。両指標は、ともにてんかん原性の中核領域を示唆することが予想され、焦点のバイオマーカー候補として注目されている。しかし、これら発作時DC電位・HFOは定義、記録・解析方法などがコンセンサスの形成の途上であり、評価の方法も様々であるため、比較検討することが難しいことがある。現在我々は、頭蓋内電極記録を施行されたてんかん患者の発作時脳波を多施設合同で解析しており、その際生じた問題点を議論し、記録・解析の標準化へ向けて共通の試案を作成した。以下、広域周波数帯域解析ソフトを用いた、基本的な記録・解析方法につき概説する。

原著
  • 藤本 礼尚, 岡西 徹, 金井 倉太郎, 山添 知宏, 佐藤 慶史郎, 西村 光代, 金子 隆是, 石岡 智恵, 名倉 桂古, 内田 美加, ...
    2017 年 35 巻 1 号 p. 14-22
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/07/04
    ジャーナル 認証あり

    トランジション問題、複雑な書類、救急対応等によりてんかん地域連携システム構築は難しい。地域連携構築をすべく、てんかん診療情報共有ツール(Epi Passport)を配布し2年の経過を経た。対象は2014年12月から2年間Epi Passportを配布した244名。Epi Passportとは「患者-プライマリーケア医療機関-当院」間(エピネット)で発作の有無、薬物調整の情報を共有するツールである。書類作成、発作時対応などは当院で行う。年齢は労働年齢人口が主であった。一次診療からの紹介が多く二次診療からの紹介は少なかった。トランジションは院内連携を介してエピネットを導入することで解決している。エピネット2年の経過で多くのてんかん患者が一次施設で診療を受けている事がわかった。社会的側面を考慮し一次診療と三次診療の密接かつ現実的な連携が必要である。今後は症候性全般てんかんにも積極的に取り入れ患者・患者家族負担を軽減していく事が次なる課題である。

  • 小一原 玲子, 浜野 晋一郎, 池本 智, 樋渡 えりか, 平田 佑子, 松浦 隆樹, 南谷 幹之
    2017 年 35 巻 1 号 p. 23-30
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/07/04
    ジャーナル 認証あり

    発症時に潜因性ウエスト症候群と診断された症例のうち、知能予後良好例の特徴を調べた。発症時の患者情報、治療反応性、その後の発作、脳波、発達経過を調査し、知能予後良好群、中等度群、不良群に分け、比較検討した。結果は潜因性25例のうち知能予後良好例は10例(40%)であった。初期治療開始までの期間が不良例と比較し有意に短かった。また、予後良好例の全例において、初期有効治療またはACTH後には発作は消失し、発達においては初期治療直後に発達遅滞を認めても、治療6カ月後には正常範囲内であった。これらが知能予後良好となる条件の可能性がある。一方、中等度例のうち、治療介入が遅れたものは初期治療以降に発作や脳波異常をともに認めなくても、知的発達は正常域まで到達しない症例が存在した。神経回路網の形成に非常に重要な乳児期早期にそれが阻害されることが、その後の発達予後に大いに影響すると考えられた。

  • 渡辺 雅子, 森田 好海, 北川 昌美, 有坂 葉, 根米 利果子, 高野 広樹
    2017 年 35 巻 1 号 p. 31-41
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/07/04
    ジャーナル 認証あり

    本稿は、てんかん治療が患者及び患者家族にもたらす社会的便益の検討を目的とした。現状の治療を継続する場合と、望ましい状態を実現するための新しい治療に対する自発的支払意思額(willingness to pay:WTP)及びWTPに関連する要因を分析した。抗てんかん薬を服用中の患者及び患者家族を対象としたインターネット調査を実施し932人の有効回答を得た。結果、受容度50%のWTPは、現在の治療を継続する場合は現在の自己負担額に加えて1,448円/月、望ましい状態を実現するための治療には現在の自己負担額に加えて3,791円/月支払っても良いという結果が得られ、両者の差は2,343円/月であった。WTPには「家族が回答者」「患者が就業」「世帯の年収」「一番重い発作の頻度」が影響していた。本研究では、発作のみならず、生活環境によっても患者及び患者家族の社会的便益が大きく影響を受けることが確認された。

  • 渡辺 雅子, 森田 好海, 北川 昌美, 有坂 葉, 根米 利果子, 高野 広樹
    2017 年 35 巻 1 号 p. 42-54
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/07/04
    ジャーナル 認証あり

    本稿は、てんかん患者とその家族の治療に対する認識の異同について比較考察することを目的とした。てんかん治療がもたらす社会的便益は自発的支払意思額(willingness to pay:WTP)を指標に検討した。インターネット調査の結果、有効回答者は932人で、患者回答が382人、家族回答が548人であった。現在の治療継続へのWTPの中央値は患者回答(1,000円/月)に比べて家族回答(2,000円/月)が有意に高かった(P<0.01)。また、望ましい状況が実現できる新しい治療のために現在の自己負担額に対して追加で支払える金額は、患者回答(2,000円/月)より家族回答(5,000円/月)が有意に高かった(P<0.01)。本研究では患者と家族では少なからず認識の相違が見られたものの、共通して患者がより望ましい状態になることを願い、また社会の理解やサポートの向上を必要としていることが確認された。

  • 渡辺 雅子, 森田 好海, 北川 昌美, 有坂 葉, 根米 利果子, 高野 広樹
    2017 年 35 巻 1 号 p. 55-65
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/07/04
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    本稿は、てんかん患者の臨床的背景の違いに着目し、薬物治療がもたらす社会的便益や現在の治療満足度について比較検討することを目的とした。社会的便益は自発的支払意思額(willingness to pay:WTP)を指標に検討した。抗てんかん薬を服用中の患者及び患者家族を対象としたインターネット調査を実施し932人の有効回答を得た。望ましい状況が実現できる新しい治療のために現在の自己負担額に対して追加で支払える金額について患者背景別にみると、「発作の頻度が1日に数回」の群の26,214円/月が最も高く、ついで「発作の頻度が1週間に数回」の群の23,438円/月、「抑うつ」を合併する群の22,553円/月、「てんかん発作初発年齢が20歳~40歳未満」の群の19,645円/月であった。現在の薬物治療への満足度は、発作頻度が多い又は合併症を有している患者において全体的に低い傾向がみられた。

症例報告
  • 上田 理誉, 中川 栄二, 須貝 研司, 竹下 絵里, 本橋 裕子, 石山 昭彦, 齋藤 貴志, 小牧 宏文, 佐々木 征行
    2017 年 35 巻 1 号 p. 66-73
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/07/04
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    Myoclonic encephalopathy in non―progressive disorders(MEND)はミオクロニー発作重積の反復を特徴とし、乳幼児期に発症し重度精神運動発達遅滞を来たす予後不良な疾患である。症例1は31歳男性で、1歳時に強直発作、8歳時にミオクロニー発作重積発作と退行を認めた。症例2は39歳男性で、1歳時に意識減損発作、6歳時にミオクロニー発作を認めた。症例1、2ともに発作時脳波で全般性α律動を認めた。症例3は5歳男児で、4歳時に強直発作で発症し精神運動発達の退行を認めた。5歳時にミオクロニー発作重積発作を認め、発作時脳波で全般性高振幅棘徐波律動を認めた。髄液NMDA型グルタミン酸受容体抗体陽性所見を認めステロイドパルス療法により発作重積の改善を認めた。MENDの臨床的特徴は、乳幼児期発症、ミオクロニー発作重積、発作時の意識減損、全身性強直間代発作の合併等で、3例はこれらの臨床的特徴を満たした。我々は共通する臨床的特徴を持つ3例がMENDであること、免疫賦活作用が病態に関わる可能性があることを報告した。

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