抗てんかん薬治療 (カルバマゼピンを含む) にもかかわらず, 1年以上にわたって, 月1回以上の複雑部分発作をもつ側頭葉てんかん55例に対してフェニトイン (PHT) 単剤治療が行われ, その有用性が検討された。そのPHT定投与量の上限は, 原則として複雑部分発作が抑制されるか, あるいは副作用の発現するまでとしたが, しかし血中濃度が30μg/m
lに達しても発作の抑制されないときはそれ以上の増量を断念し, 無効とした。PHT単剤有効例は18例 (33%) あり, そのうち14例は複雑部分発作が2ヵ月以上にわたって抑制され, その抑制時点での平均血中濃度は20.8 (7.2~28.6) μg/m
lであった。無効例は37例 (67%) あって, そのうち23例は副作用発現のためであり, その平均血中濃度は36.8 (22.4~60.3) μg/m
lであった。またPHT単剤時に精神症状の発現をみたものが2例あり, そのいずれも発作が抑制されて精神症状の出現をみた。無効例に対してその後, 多剤併用が試みられたが, 1例のみ有効で他は無効であった。このことから現在のところ, PHT単剤高用量治療が失敗した例について, それに代わる抗てんかん薬治療をみつけるのは困難であるといえる。しかしPHT単剤治療下で2次性全般化発作 (大発作) をみた4例では他剤の追加で大発作は抑制された。以上から大発作の合併をみない難治定側頭葉てんかんに対してはPHT単剤定高用量療法は有用であるとみなされた。また最近の側頭葉てんかんに対する外科治療の進歩からみて, その適応としての薬物抵抗性を測る一つの指標に, PHT単剤高用量療法での結果は参考になりえるとみなされる。
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