人々が, なぜ日常的にマス・メディアに接触するのかという“動機”については, 未だ確固たる定説と呼びうるものはない。従来, これに関して, さまざまな社会学的あるいは社会心理学的な説明がなされてはきたが, そこで想定される動機は, 二次的派生的なものであるか, そうでないとしてもごく限られた状況でしか妥当でないようなものであった。
しかるに, Berelson (1949) の研究や池内 (1965, 1974) の説から, マス・メディア接触行動の基礎には, もっと無意識的で, 一般的な動機づけの要因があることが示唆される。他方, 最近の社会心理学の分野では, Sales (1971) などによって, 人間の社会的行動を動機づけているものとしての一次的生理的な「刺激欲求 (need for stimulation) 」について, 研究がなされてきた。
以上のことから, 一次的かつ無意識的な動機である「刺激欲求」が, それ自体社会的な行動であるところのマス・メディア接触行動を基礎づけているという理論仮説が立てられた。そこから, Salesと同様にして, 運動感覚残効メジャー (the kinesthetic aftereffects measure) を, 被験者の刺激欲求のレベルの測定に利用し, そのレベルの高さと被験者の示すさまざまなマス・メディアへの接触の量 (頻度) との関係を調べると, そこには正の相関があるだろうという作業仮説が導かれる。本研究の主目的は, この作業仮説を検証することである。
本研究の被験者には, 小学校3年~5年の男女48名を用いた。結果は, マンガ本を除く, テレビ, ラジオ, および本 (童話・物語など) の3つのマス・メディアについては, 被験者の接触量 (頻度) と刺激欲求のレベルの高さとの間に, 全被験者を通じて正の相関があり, しかも, テレビと本については, 相関の大きさは, 統計的に有意であった。これは, おおむね仮説を支持する方向にある結果である。
ところで, 刺激欲求レベルと, マス・メディア接触以外の他の日常的な諸活動との関連を調べてみると, 刺激欲求レベルが平均以上の被験者群は, 平均未満の被験者群よりも, 諸活動の頻度が高く (いくつかの活動については, 2群の頻度の差は統計的に有意だった), この欲求が, さまざまな社会的行動の基礎になっている可能性が確認された。また, テレビ視聴に関する被験者自身の意識的な態度は, 刺激欲求のレベルと全く関係がなく, この欲求が無意識的なものである可能性も支持された。
マンガについては作業仮説が成り立たなかった理由に関して, 考えられることは, マンガが, この年令の子どもにとって, すでに刺激欲求を満たすのに十分な複雑さをもつ刺激ではなく, そのため, 刺激欲求の強い子どもは, マンガにそんなに接触しようとはしない, ということなどであった。全部で3つの可能な理由を提出したが, いずれも, さまざまな含みをもっているが, ここでは十分妥当な説明力はないように思われる。
作業仮説は, 理想的には, マス・メディア接触行動の“総量”について述べられるべきであったが, 実際に“総量”を査定することは困難であろうと思われ, 本研究では, 素朴な仮定を前提として, 第1次近似的な上述の作業仮説を検証しようとしたわけである。将来においては, 多様な変動要因を考慮した, より高次な仮説について研究がなされるべきであろう。
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