本研究は, Janis & Mann (1968) の提唱する意思決定と態度構造変容過程を分析するために, 先の研究で高橋 (1977) が報告した「Emotional Role-Playingにおける共感的把握が態度・行動の変容と持続に及ぼす効果」に基づく一連の研究である。
先の研究では, 態度・行動変容の5連続場面を設定し, 変容プロセスを配慮したが, 本研究では, 5連続場面の各場面で採用される意思決定を効果的にするために, 受け手の態度機能と態度の構成要素を分析し, 更に両者の関係を明らかにすることにより, 態度・行動変容の外部的・内部的要因を同時に考慮しなければ変容の的確な予測は不可能であるとするKatz (1960) の機能理論を実証するために計画された。
第I研究は, 態度機能, 構成要素を因子分析によって抽出し, 両者の相関関係を明らかにすることであった。
第II研究では, 第Iの研究で抽出された3機能を集団決定, コンスィダレーション, 科学的情報提示の3操作で変容させ, これら諸機能が態度の構成要素にどのように影響を及ぼすかを知ることにより態度構造 (機能と構成要素) の内的変容過程を分析したものである。
被験者は, 第I研究では, 福岡市内男女大学生喫煙者137名, 平均喫煙年数3.2年, 1日喫煙本数20本, 第II研究では, 福岡市内男女大学生喫煙者103名, 1日平均喫煙本数13本, 平均喫煙年数4年であった。
主な結果は次の通りであった。
(1) 態度形成の源泉である態度の3機能と態度の5構成要素が抽出された。
3機能は, 第I因子-対人場面における緊張緩和の機能, 第II因子-自己顕示機能, 第III因子-社会的規範への同調機能であった。
態度の6構成要素は, 第I因子-行為傾向, 第II因子-感覚的評価, 第III因子-気分的感情, 第IV因子-感覚的感情, 第V因子-対人関係評価, 第VI因子-健康評価であった。
(2) 態度機能と構成要素との間には, 部分的にしか相関を見い出すことができなかった。
(3) 態度機能を変容させるための操作が考慮された。対人場面における緊張緩和の機能には, 集団決定法, 自己顕示機能には, コンスィダレーション (解釈的コミュニケーション) 社会的規範への同調行動の機能には, 科学的情報提示であった。
各操作は, 緊張緩和の機能の操作を除いて, 十分ではなかったが, 構成要素に有意に影響を及ぼした。
以上, 態度機能の変容が構成要素を変容させる上に密接にかかわっていることが示唆されるとともに, 変容の効果的方法として態度形成のメカニズムを考慮すると同時に, 変容への抵抗を柔ららげることの必要性が再確認された。
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