本研究の目的は, 対人的な親近性認知の斉合性, および認知された親近性の程度が, 2者間会話における言語活動性に及ぼす効果を考察することである.
看護学校女子学生に, 学級内の他成員との日常の接触度評定を求め, その結果に基づき, 2名が相互に高接触者であると認知した相互高接触認知 (MRHC) 群, 低接触認知 (MRLC) 群, 一方 (選択者, C) は相手 (被選択者, C) を高接触者と認知するが, 相手の方はそう認知していない一方的選択 (OC) 群, 各群8組ずつ計24組を構成し, 非対面的な会話実験を行なった. なお, 会話の話題としては, 2人の会話者が一致して高興味 (HS), 低興味 (LS) とあらかじめ評定した話題を用いた. 群内では話題の呈示順序を相殺して, 18分間1セッションを同一日内に, 2セッション実施した. 会話実験前後には, 会話相手に対するパーソナリティ認知評定を求めた.
言語活動性指標としては, 時系列的に0次の4状態 (同時沈黙, 自己の単独発言, 相手の単独発言, 同時発言) を基本とし, 2次状態までを用いた.
対人的親近性の程度は, 会話者共同の言語活動性と正の直線的な対応を示し, MRHC群の言語活動水準が最も高い. また, 時間経過に応じて, OC群の発言活動は低減するが, 他2群は, 各々の水準で安定し, 変化がない. 個体の言語活動水準を比較すると, OC群のCが最大, Cが最小となり, また各群の話者間の水準を比較しても, 他2群に比べてOC群のC>Cは顕著である. 親近性認知が斉合している群では, 活動性は安定しているが, この認知の不一致な群では, 活動性は低下する方向へ変化し, 話者間の落差も大きい. なお, 話題の興味度は, 言語活動水準と高い正の対応関係を示している.
パーソナリティ認知評定については, 全般に会話後の方が友好的な方向へと変化するが, とりわけあらかじめの接触の少なかったMRLC群の変化が大きい.
これらの結果から, 会話の言語活動性の全般的な水準は, 対人的親近性の程度と, またその活動性の安定性は, 認知の斉合性と対応しており, 認知不一致群では, 負の同調傾向-会話の分解過程が認められた. このことから, 自他関係の認知の不一致は, 2者間に介在する事象への認知の不一致よりも, 言語活動性を抑制する効果が大きいと考えられた. また, 親近性が高いと, 話題の興味度の違いに敏感に反応することが知られたので, この親近性は, 2者間の介在事象への弁別的な感受性と対応していると考えられた.
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