実験社会心理学研究
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30 巻, 1 号
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  • 矢守 克也, 杉万 俊夫
    1990 年 30 巻 1 号 p. 1-14
    発行日: 1990/07/20
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    本研究は, 横断歩道を横断する人々が形成する群集流の巨視的行動パターンについて検討したものである。まず, 第1研究において, 横断歩道上に観察される巨視的行動パターンを計量する指標を開発した。次いで, 第2研究において, 現実の横断歩道を模した実験的状況を構成し, 巨視的行動パターンの形成過程を検討した。
    群集状況においては, 群集内の個々人は必ずしも群集全体の動向を考慮して行動しているのではなく, 通常, 自らの近傍に関する情報処理と近傍の他者との相互作用を行なうのみである。しかし, 群集全体に視点を移すと, そこには一つの巨視的行動パターンが次第に形成される。すなわち, 群集内の微視的相互作用によって生じた巨視的行動パターンの「核 (core) 」が, 漸次波及して, 群集全体の巨視的行動パターンを形成する, というメカニズムの存在が示唆されるのである。一方, 確立した巨視的行動パターンは, 翻って, 群集内の個人の微視的な情報処理や相互作用を制約するに至る。
    第1研究では, 巨視的行動パターンの主要な特性を, 個人の行動を制約することととらえ, その程度によって, 巨視的行動パターンの形成度を計量しようと試みた。具体的には, 横断歩道において反対方向に進行する2つの群集が形成する巨視的行動パターン (数本の人流の帯が形成され, ほとんどの人がその帯上を歩行するというパターン) を観察した。巨視的行動パターンの指標として, 群集流の「分化の程度 (逆に言えば, 個々人が歩行し得る人流の帯がどの程度限定されているか) 」を表す「エントロピー指標」, および, 「流量の程度」を表す「流量指標」を導入した。その結果, 歩行者がある一定数以上の場合, これらの指標は, 横断歩道上に形成された巨視的行動パターンについての視察結果を適切に反映することが確認された。
    第2研究では, 実験室に, メッシュ状に分割した横断歩道を構成し, 被験者が一斉に進行方向を意思決定し, 一斉に動く, という実験方法を導入することによって, 群集内の個々人の行動を時系列的に追跡し, 群集内の微視的行動・微視的相互作用と巨視的行動パターンとの関係を検討した。その結果, 特定の微視的相互作用の偶然的な生起による巨視的行動パターンの「核」形成という「偶然」の過程と, いったん「核」が生じた後, 個々人がその方向性に追従し, 確立した (ないし, 確立しつつある) 巨視的行動パターンに巻き込まれるという「必然」の過程が並存することが見いだされた。
  • 最終決定と実行度の規定因
    渥美 公秀, 杉万 俊夫
    1990 年 30 巻 1 号 p. 15-23
    発行日: 1990/07/20
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    相異なる意見を有する多数派と少数派によって行なわれる集団意思決定プロセスを計量的に把握し, 最終決定や実行度といかなる関係にあるのかを実験的に検討した。5つの選択肢の中から1つを選択するという課題において, 個別に討議を行ない決定に到達した多数派 (4人集団) と少数派 (2人集団) が, 合同討議を行ない最終決定を行なうという実験状況を構成した。討議中, 発言がなされるたびに, 各成員の各選択肢に対する選好を測定した。1つの発言をはさんでの他の成員の選好変化によって, 発言の影響量を測定した。また, 意思決定後, 約1カ月にわたって, 決定事項の実行度を追跡した。実験の結果 , 第1に, 最終決定として, 個別の討議において多数派が採択した選択肢, 少数派が採択した選択肢のいずれが最終的に採択されるかは, 合同討議の開始時点において, 少数派が採択した選択肢に多数派がある一定水準以上の平均選好を有するか否かによって規定されることが見出された。すなわち, 少数派が採択した選択肢に対する多数派の平均選好が一定水準以上である場合には, 少数派の採択選択肢が採択され, 一定水準未満の場合には, 多数派の採択選択肢が採択される傾向があった。第2に, 最終決定として多数派の選択肢を採択した集団と少数派の選択肢を採択した集団とでは, 成員間影響量, および, 実行度が異なることが見出された。すなわち, 多数派の選択肢を採択した集団では, 討議における成員間影響量が小さく実行度も低かったが, 少数派選択肢を採択した集団では, 討議における成員間影響量が大きく実行度も高かった。さらに, 少数派の選択肢を採択した集団では, 討議において他の成員に影響を及ぼした成員ほど実行度が高いことが見出された。
  • 大坪 靖直, 吉田 寿夫
    1990 年 30 巻 1 号 p. 25-33
    発行日: 1990/07/20
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    This study was designed to examine which of the two cues, visual or auditory, was dominant in impression formation, and how the cue dominance varied according to the cognitive dimensions, sex of the perceivers, and sex of the stimulus persons.
    Each perceiver was asked to rate the personalities of the same stimulus persons on the individual cue conditions, as well as on a“whole cue condition”involving the simultaneous presentation of both cues. The index for the effectiveness of each cue was the correlation coefficient which indicated profile similarity between the single cue condition ratings and the whole cue condition ratings.
    The main results were as follows.
    (1) Generally, the auditory cue was more dominant than the visual one.
    (2) In the case of male perceivers, contribution of the auditory cue was dominant independently of the cognitive dimensions, while with female perceivers, the cue dominance varied according to the cognitive dimensions.
  • 小口 孝司
    1990 年 30 巻 1 号 p. 35-40
    発行日: 1990/07/20
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    本研究では, 従来の自己開示研究では分析が十分ではない集団状況を取り上げ, その中でも特に今回は聞き手の集団内地位を独立変数とした。一方, 従属変数としては, 自己開示研究と帰属研究の関連を考えて, 自己開示動機の推定を取り上げた。そして集団内地位が, 自己開示動機の規範的動機の推定に及ぼす効果を, 取り入り理論 (Jones & Wortman, 1973) から予測した。仮説は, 「集団内地位が高いメンバーは, 地位が低いメンバーに比べ, 新たに加わるメンバーの自己開示をより規範的動機に基づくものと見なすであろう。」であった。
    被験者は大学生の男女43名であった。被験者を集団にし, 今後この集団での活動を予期させた上で自己紹介をさせた。他のメンバーからの印象評定の結果であると称して, 集団内地位を操作した。その後, 他のメンバーに対する印象評定をさせた。そして今回参加していないが, 次回から参加が予定されている者 (実験協力者) のテープによる自己開示 (刺激) を聞かせた。続けて次回から参加が予定されているメンバーへの印象評定だと称して従属変数を測定した。
    その結果, 集団内地位が規範的な自己開示動機の推定に影響を及ぼすことが示された。すなわち, 集団内地位が低い者よりも, 集団内地位が高い者の方が, 参加が予定されているメンバーの自己開示動機を, より規範的なものと見なしていた。このことから, 自己開示研究において, 今後集団を5象としていくことが必要であることを述べた。
  • 諸井 克英
    1990 年 30 巻 1 号 p. 41-52
    発行日: 1990/07/20
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    This study examined (a) the factor structure of causal attributions for loneliness and (b) the relationship between loneliness and causal attributions. Five scales were administered toundergraduate students (N=575). The scales were two versions of UCLA Loneliness Scale (short-term loneliness and long-term loneliness), two kinds of scales of causal attributions for loneliness (checklist of the causes of loneliness and Russell (1982) 's Causal Dimension Scale), and Self-Esteem Scale. Two versions of UCLA Loneliness Scale were completed by different criteria (“for the past two weeks”versus“for the past one year”).
    The results are as follows.
    1) Loneliness scores were higher in males than in females.
    2) The factor analysis of the checklist of the causes of loneliness producedeight factors in males, while eleven factors in females. The factor analyses of the Causal Dimension Scaleidentified three factors, labeled locus of causality, stability, and controllability.
    3) According to the results of multiple regression analyses and discriminantanalyses, loneliness for males were precipitated by internal and stable attributions, while forfemales, only stable attributions were predictive of loneliness. Furthermore, the relationship attributions which cannot be classified by Weiner (1986) 's model, were associated with loneliness.
  • 甲原 定房
    1990 年 30 巻 1 号 p. 53-61
    発行日: 1990/07/20
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 個人の逸脱行動が個人の所属する集団の利益につながる状況における逸脱行動の発生を検証することにあった。実験には5人1組のクラッチフィールド型の同調実験装置を用い, 自分以外の4人が明かに誤った解答と思われる反応をしていると表示した。実験1では, 個人の逸脱行動による利益が実験に参加している5人集団に与えられる「集団報酬条件」と報酬が正解した個人にのみ与えられる「個人報酬条件」 が設定されたが, 両者の間に逸脱行動回数の有意な差異は見い出せなかった。実験2では実験1の集団報酬条件に代わり, 「クラス報酬条件」 が設定された。この条件は個人の逸脱行動による利益が個人 (本研究での学生) の所属する, より上位の集団であるクラスに与えられる条件であった。結果はこのクラス報酬条件の方が個人報酬条件よりも逸脱行動の回数が有意に多いというものであった。これらの結果から, 集団の利益のための逸脱行動は, 逸脱行動がもたらす利益が直接, 逸脱行動の対象となる集団に与えられる場合には発生せず, この集団を内包するより上位の集団に与えられる場合に発生することが示された。以上のことから, 集団のための逸脱行動には, 個人と否定的関係にない集団の利益を想定する必要があると思われる。また, 本研究では, 逸脱・同調行動を認知的な不協和をもたらすものと位置づけ, 逸脱・同調行動の発生, 行動後の変化について, 今後, 統合的に論じる可能性について示唆した。
  • 田中 堅一郎
    1990 年 30 巻 1 号 p. 63-69
    発行日: 1990/07/20
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    本研究は, 報酬分配行動を規定すると考えられる要因について, これらを多次元的な見地から検討することを目的とした。
    まず予備調査において, 被験者は所与の分配行動場面でどのような場合にそこでの当事者達が衡平 (あるいは平等) 分配を行うことに同意できるかについて, 自由記述で回答した。本調査においては, 予備調査で得られた回答を60項目にスクリーニングして, 被験者に予備調査で用いた分配行動場面を呈示し, これらの項目の各々についてどれを満たせば衡平 (あるいは平等) 分配を行うことに同意できるかを, “ハイ”, “イイエ”で回答させた。本調査の回答はまず林の数量化理論第III類によって分析され, さらにこれらの項目間の構造を見るためにクラスター分析を用いて解析を行ない, 衡平分配条件と平等分配条件の各々についていくつかのサブグループを識別した。数量化理論第II類による分析の結果, 衡平ならびに平等分配に大きく寄与した項目 (衡平分配条件: 7項目, 平等分配条件: 9項目) を抽出した。
    以上の分析結果から, 従来より行われた研究では触れられなかった作業の特性が報酬分配行動を規定する要因として重要であることが見出された。
  • ブレークポイント仮説とスクリプト仮説
    坂元 章
    1990 年 30 巻 1 号 p. 71-80
    発行日: 1990/07/20
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    The purpose of present study is to reject' breakpoint hypothesis' and to prove' script hypothesis', insisting that persons encoded the pointers, which called scripts representing action-units, and their order when observing ongoing behavior. 58 female undergraduates pressed buttons everytime they judged an action-unit ended while observing an ongoing behavior, which consisted of four large actions including some small subactions. The experimenter instructed a large action-units group (LG) to press buttons to make action-units as large as possible, and a small action-units group (SG) to do as small as possible. Then, subjects judged which of two subactions belonging to the same large action came first. The pairs included' memory pair' whose correct order persons couldn' t judge without having encoded subactions and' script pair' whose order persons could judge by referring to a script of large action. The results were as follows. LG' s responses were as correct as SG' s responses. SG' s responses to memory pairs were faster. LG' s responses to script pairs were faster. They were thought to support'script hypothesis'.
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