本研究の目的は, 恋愛状況下の異性二者間における相互的な認知の成立機制を探究することであった。測定手法は, 好意的同性二者間でのパーソナリティ認知における相互認知を検討した今川・岩渕 (1981) の手法に依拠した。
被験者は以下の6つの認知過程ごとに, 自己概念を操作的, 客観的に捉えるために開発された47項目から成るSelf-Differential Scale (大学生用) (長島・藤原・原野・斎藤・堀 (1967)) に対して評定を行なった。1) 現実自己像, 2) 他者像, 3) 相手の自己像についての推測, 4) 相手の他者像についての推測, 5) 理想自己像, 6) 理想異性像の6つの認知過程 (認知像) である。なお, 6) の過程は本研究において, 異性間の問題を対象にした場合の独自性を捕捉することを目的に, 新たに取り入れた過程であった。
本研究でのデータには, 相互的な認知を取り扱うための適切な方法としてペア・データが用いられた。それゆえ自己評定の前述の6過程, 他者評定の6過程 (すなわち1) 他者の現実自己像, 2) 他者の他者像, 3) 他者の, 相手の自己像についての推測, 4) 他者の, 相手の他者像についての推測, 5) 他者の理想自己像, 6) 他者の理想の異性像) の12過程の各々2つを組み合わせた認知過程対の類似性が検討された。
まず認知過程対の類似度の検討より, 理想自己像 (5, 5) と理想異性像 (6, 6) の類似, 現実自己像1 (1) と相手の他者像についての推測4 (4) の類似, および他者像2 (2) と相手の自己像についての推測3 (3) の類似, 以上の3つの認知過程対の類似が, 相互的認知の成立に重要な役割を果たしていることがわかった。
さらに上記の分析では検討できなかった, 理想自己像と理想異性像の両者が相互的認知に対して, いかなる規定関係にあるのかについて偏相関係数を用いて検討した。まず, 各々で統制した場合の偏相関係数を算出した。その結果, 理想自己像は自己に関する認知に影響を与える一方, 他者に対する認知には効果を有していないこと。それに対し, 理想異性像は他者に対する認知に影響を与える一方, 自己に対する認知には効果を有していないことが見い出された。さらに, 理想自己像同士の類似の影響を検討するために, 両者の理想自己像を同時に統制した場合の偏相関係数を算出した。その結果, 両者の斉合的な認知の成立, および他者についての認知と自分の理想異性像の類似は, 理想自己像同士の類似とは独立に存在していることが示された。
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