実験社会心理学研究
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35 巻, 1 号
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  • 対人記憶, 印象評定に及ぼす刺激手掛かりの効果
    潮村 公弘
    1995 年 35 巻 1 号 p. 1-13
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, カテゴリー化を引き起こす刺激手掛かりが, 対人記憶と印象評定に及ぼす効果について検証することであった。Taylorら (1978) によって開発されたパラダイムに基づいて2つの実験が行なわれた。実験1では, 被験者にグループ・ディスカッションを提示するさいに, テープレコーダーとスライドを用いて, 被験者に話し手の声と顔写真が示された状況で行なわれた。そこでは, 話し手の性別と, 発言内容の性度とが 独立に操作されていた。実験2では, 話し手の声や顔写真の情報を被験者には与えず, 話し手の性別に関して性別ラベルのみを提示することで, 性別手掛かりが低減させられた。結果は, 対人記憶での効果は2つの実験を通じて変化しなかったことに対して, 印象評定での効果は2つの実験で明瞭に異なり, 実験2では話し手に 対する印象評定は, 発言内容の性度によって規定されていた。結果は, 2つの課題の独立性, 話し手の性別によって引き起こされるaccentuation (強調化) 効果の普遍性, 自動的処理とコントロール処理といった事項と関連づけて考察された。
  • 沼崎 誠
    1995 年 35 巻 1 号 p. 14-22
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    セルフ・ハンディキャッピングが, セルフ・ハンディキャッパーの能力に関連する受け手の知覚と受け手のセルフ・ハンディキャッパーに対する好意とに与える効果を検討するために, 2つの実験室実験を行った。2つの実験とも, 獲得的セルフ・ハンディキャッピングの有無と主張的セルフ・ハンディキャッピングの有無が操作された。獲得的セルフ・ハンディキャッピングはセルフ・ハンディキャッパーの遂行成績を低く知覚させたが, セルフ・ハンディキャッパーの能力やセルフ・ハンディキャッパーに対する好意には影響を与えなかった。遂行成績が低く知覚された結果は, ハンディがあることにより, 受け手が遂行成績が低くなると期待したために生じ, そこから割り引き原理が働いたことにより, 能力知覚には影響しなかったと考えられる。一方, 主張的セルフ・ハンディキャッピングはセルフ・ハンディキャッパーに対する好意を低下させたが, セルフ・ハンディキャッパーの能力に関連する知覚には影響を与えなかった。これらの結果は, 印象操作方略としてのセルフ・ハンディキャッピングが, 受け手に対してはネガティブな効果を持ちやすく, ポジティブな効果が少ないことを示唆するものである。
  • 実験研究
    山岸 俊男, 山岸 みどり, 高橋 伸幸, 林 直保子, 渡部 幹
    1995 年 35 巻 1 号 p. 23-34
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    人間性の善良さに対する信念として定義される, 他者一般に対する信頼である一般的信頼と, コミットメント関係にある特定の相手が, その関係の中で自分に対して不利な行動を取らないだろうという期待として定義される個別的信頼との間で, 理論的区別が行われた。社会的不確実性に直面した場合, 一般的信頼が低い人々は, そこでの不確実性を低減するためにコミットメント関係を形成する傾向が強いだろうという理論に基づき, 売手と買手との関係をシミュレートした実験を行った。実験の結果, 社会的不確実性と被験者の一般的信頼の水準が (a) 特定の売手と買手との間のコミットメント形成および (b) 個別的信頼に対して持つ効果についての, 以下の仮説が支持された。第1に, 社会的不確実性はコミットメント形成を促進した。第2に, コミットメント形成はパートナー間の個別的信頼を促進した。第3に, 上の2つの結果として, 社会的不確実性は集団内での個別的信頼の全体的水準を高める効果を持った。第4に, 人間性の善良さに対する信念として定義される一般的信頼は, コミットメント形成を妨げる効果を持った。ただし, 第2と第4の結果から予測される第5の仮説は支持されなかった。すなわち, 一般的信頼は個別的信頼を押し下げる効果は持たなかった。
  • 女子大学生に対する2つの実験
    坂元 章
    1995 年 35 巻 1 号 p. 35-48
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 被験者が, 1人の刺激人物 (多くの特徴を持つ) が, ある血液型ステレオタイプにあてはまるかどうかを判断するときに, そのステレオタイプに一致する特徴を選択的に使用するであろう, という仮説を検討することであった。実験1では, 86名の女子大学生の被験者を2つの群 (A型群とB型群) に無作為に分けた。実験者は, まず, A型群の被験者に, 刺激人物がA型のステレオタイプにあてはまっているかどうかを判断させ, B型群の被験者には, B型のステレオタイプがあてはまっているかどうかを判断させた。そして, 両群の被験者に, その判断の中で, 刺激人物のどの特徴に着目したか (着目得点), また, 刺激人物に対してどのような印象を形成したか (印象得点) を答えさせた。結果は, 着目得点に関しては仮説を支持しなかったが, 印象得点に関しては仮説を支持するものであった。実験2では, 146名の女子の大学生の被験者を4つの群 (A型群, B型群, O型群, AB型群) に分けて, 同様の実験を行った。結果は, 着目得点と印象得点のどちらに関しても仮説を支持するものであった。
  • 栗林 克匡, 相川 充
    1995 年 35 巻 1 号 p. 49-56
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本研究では, 特性シャイネスが対人認知に及ぼす効果を検討した。被験者は, 特性シャイネス尺度の得点に基づいて選出され, 高シャイネス群は27名, 低シャイネス群は24名の計51名であった。被験者は未知の異性 (サクラ) との1対1の会話を行い, その後で相手の印象評定と「自分に対する相手の認知」の推測を行った。また各被験者は, 会話の相手であるサクラと, 第3者である評定者によって印象を評定された。その結果, シャイな被験者ほど, 社交性や積極性などを含む力本性の次元について相手の人物をネガティブに認知していた。また, シャイな被験者は全ての認知次元において相手からそれほどポジティブに認知されているとは思っていなかった。そして, 個人的親しみやすさおよび社会的望ましさの認知次元において, 被験者の推測と評定者の評定との問にはズレがあることが分かった。つまり, シャイな人は第3者の評定よりもネガティブに自分を捉えていた。これらのことから, シャイな人の行う対人認知にはネガティブな方向へのバイアスが存在している可能性が示唆された。
  • 大河内 茂美, 杉万 俊夫
    1995 年 35 巻 1 号 p. 57-69
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    リーダーシップP-M論におけるP-M類型の効果性に関して, 従来の実験的研究や調査研究で見出されてきた主要な効果性順位のパターンを表現する数理モデルを提起した。具体的には, P行動 (あるいは, M行動) 単独の効果性をロジスティック方程式で表現し, P・M行動の効果性を, (1) P行動単独, および, M行動単独の効果性の和とするモデル, (2) 両者の積とするモデル, (3) P行動に関する効果性関数の導関数とP行動量の積, および, M行動に関する効果性関数の導関数とM行動量の積の和とするモデル, の3つを検討した。いずれのモデルにおいても, 短期的 (P・M行動の総量が小さい場合) にはP型優位の効果性順位が得られ, 長期的 (P・M行動の総量が大きい場合) にはPM型優位の効果性順位が得られるという従来の実証的研究の結果を表現できることを確認した。また, 成員の高い達成動機や成員間の緊密な協働が要請される効果性変数を対象とするときには, (1) よりも (2) , (2) よりも (3) の方が, モデルとして適切であることを指摘した。
  • ネットワーク理論からのアプローチ
    厳島 行雄, 和田 万紀, 末永 俊郎
    1995 年 35 巻 1 号 p. 70-79
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    自己生成効果とは, 被験者によって生成された項目が実験者から与えられた項目よりも再生において優れているという現象をいう (Greenwald & Banaji, 1989)。この現象を説明するために厳島・和田・末永 (1992) は記憶のネットワーク理論0による説明を試みた。この理論によれば, 自己生成条件では生成した概念ノードを形成することが可能で, それを既存のノードと強く結合できると仮定される。さらにこのネットワークの活性化は十分に拡散されるような水準にまで高められていると仮定される。しかしながら実験者から項目を与えられる条件ではこの情報ノードを産出できない可能性があり, また活性化の水準も低いとされる。
    以上の仮説を検討するために, 実験1では生成および非生成条件で文章作成課題における目的語に修飾語を付与させ, さらに実験2では主語および目的語にも修飾語を付与させて, それらの文章に使用された単語の自由再生・手がかり再生を行なった。結果は, 両実験における生成条件で, 新しく付与された修飾語の再生が非生成条件よりも多く再生されるというものであった。この結果は, 生成条件における文章作成が当該ノードの形成を促進し, その後の検索における活性化の水準を高めたためと解釈された。考察では, 自己と記憶の関係についても討論が行われた。
  • 認知的不協和がもつ活性化機能の再検討
    吉田 俊和
    1995 年 35 巻 1 号 p. 80-86
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本研究は, 従来, 認知的不協和がもつ一般的活性化機能を実証したとする研究が, 実際には, 妨害子として機能する観察者のインパクトの大小を検討しているだけではないかという疑問点の解明を目的とした。そのため, 2 (不協和-協和) ×2 (観察者有り-観察者無し) の実験デザインを用い, 注意のコンフリクト仮説および不協和がもつ動因としての活性化機能を主張する研究, それぞれの立場からの予測を比較検討した。不協和操作は, 高self-esteemの被験者に, 自分の長所または短所を記述させることによって行なった。
    不協和喚起の妥当性は, 記述後の感情測定項目で確認された。不協和操作と無関連を装って実施された符号置き換え検査の正答数の測度では, 不協和が単純課題で促進的, 複雑課題で抑制的に作用しており, 認知的不協和がもつ一般的活性化機能を主張する立場からの予測を支持する結果が得られた。しかし, 誤答数の測度では, 不協和要因よりも観察者要因の主効果が強く現われ, 注意のコンフリクト仮説からの予測を否定できるものではなかった。結論としては, 両者の予測を対立的に考えるよりも, 観察者要因も不協和要因も同時に機能していると考えた方が無理なく説明できることが考察された。
  • 女子大学生に対する実験と調査
    坂元 章, 三浦 志野, 坂元 桂, 森 津太子
    1995 年 35 巻 1 号 p. 87-101
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 通俗的心理テストの結果のフィードバックが, 人々の, 自己イメージ, 更には, 行動に影響するかどうか, また, その影響の強さが, 学術的な心理テストのそれと異なるかどうかを検討することであった。筆者たちは, 1つの実験を行い, 64名の女子の被験者を2つの群に分け, 1つの群には通俗的心理テストに回答させ, もう1つの群には学術的心理テストに回答させた。そして, それぞれの群の半分には, 外向性の偽のフィードバックを与え, もう半分には, 内向性の偽のフィードバックを与えた。実験の結果は, 外向性のフィードバックを受けた被験者が, 内向性のフィードバックを受けた被験者に比べて, 自分は外向的であると考え, 初対面の人物 (サクラ) に対して外向的に行動するようになることを示した。そして, この行動に対する影響の程度は, 通俗的心理テストと学術的な心理テストの間で同じであった。これは, 通俗的心理テストの結果のフィードバックが, 学術的心理テストのそれと同じ程度に, 人々の行動に影響し, 自己成就現象を引き起こしうることを示唆している。実験の結果は, また, 通俗的心理テストと学術的心理テストは, 行動への影響では違いがないが, 心理的安寧への影響では違いがあることを示した。通俗的心理テストのほうが, 学術的心理テストよりも, 心理的安寧を与えていた。また, 筆者たちは, 補足的調査を行って, それぞれのフィードバック文の特徴を調べた。
  • 喚起小条件における脅威のU字型効果
    今城 周造
    1995 年 35 巻 1 号 p. 102-110
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 説得の圧力の増大が, 説得効果の減少を常にもたらすかどうかを検討することであった。実験計画は, 2 (リアクタンス喚起の必要条件: 喚起小・喚起大) ×3 (自由への脅威: 脅威小・脅威中・脅威大) の2要因配置であった。被験者は, 被告が有罪であることを示唆する起訴状の要約を読む。次に弁護側の主張の要約を読むが, 喚起大条件では, 被告が無罪である可能性も同程度あることが示唆された。最後に被験者は, 被告有罪の立場を主張する法律専攻学生の意見を読んだ。この意見文には3種類あり, それぞれ押しつけがましい表現を0, 3または6個含む (自由への脅威の操作)。予測は以下の通りであった。(a) 喚起小条件では, 脅威が小から中へ増大すると説得効果が減少するが, さらに脅威が増大してもそれ以上の説得効果の減少は見られないであろう。(b) 喚起大条件では, 脅威が増大するほど, 説得効果は減少するであろう。(c) 脅威大条件の説得効果は, 喚起小条件と比べて, 喚起大条件において小さいであろう。説得後意見の結果については, 必要条件×脅威の交互作用が有意であり, 予測は支持された。リアクタンス喚起には, その必要条件が満たされる程度による上限があること, 自由への脅威が大きいほど説得への抵抗も大きいという単純な関係ではないことが示唆された。
  • 田中 豊
    1995 年 35 巻 1 号 p. 111-117
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 種々の科学技術及びその産物の社会的受容に共通して重要な要因を, 重回帰分析を用いて探索すること, および種々の科学技術及びその産物を, クラスター分析を用いて特徴の類似した事項同士に分類することであった。調査協力者は埼玉県内の私立大学学部生であり, 男子70名, 女子25名の合計95名が調査に参加した。質問紙の内容は, 14種類の科学技術及びその産物のそれぞれについて, その「必要性」「安心感」「地球環境に対する有益性」「マスコミ報道の好意度」「事業主体に対する信頼性」「社会的受容に対する態度」を尋ねるものであった。そして分析の結果, 「必要性」「地球環境に対する有益性」「事業主体に対する信頼性」の3つの要因を説明変数として, 重回帰式を構成するのが有用であることを見いだした。またクラスター分析により, 各事項を, ポジティブな評価を受けている群か, ネガティブな評価を受けている群かに分類できることが示され, ポジティアな事項の中でも特に「太陽光発電所」が好ましいものとして受け止められ, また逆にネガティブな事項の中でも, 特に「核兵器」が好ましくないものとして受け止められていることが明らかにされた。
  • 主観確率からみた意思決定
    田中 豊
    1995 年 35 巻 1 号 p. 118-122
    発行日: 1995/07/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 天気予報の降水確率 (%) に基づくカサの携帯などのような, 数量表現 (%) を用いた予測に基づく意思決定という現象を, 客観確率との関係のみからではなく, その主観確率という視点からとらえ直すことであった。被験者は東京都内および埼玉県内の私立大学学部生であり, 男子135名, 女子95名の合計230名が実験に参加した。主観確率の測定は, 田中 (豊) (1993) の用いた方法を, 一部修正した手法で行い, 客観確率は%表示による天気予報の降水確率や, 予備校の模擬試験による合格予想により与えられた。その結果, 今回用いた2つの題材においては, 意思決定をした提示 (客観) 確率を比較すると, 明らかに代表値や度数分布が異なるように見えたが, 主観確率の点から見るとそれらはあまり変わらないことが見い出された。これらのことより, 意思決定という現象を, 客観確率から見た場合と, 主観確率から見た場合とでは差異があり, その両方の視点が必要であることが示された。さらに, 数量表現 (%) による予測と意思決定という問題においては, 予測を行った情報源の信頼度や, リスクの重大性などが深く関係していることが示唆された。
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