実験社会心理学研究
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35 巻, 2 号
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  • 北山 忍, 唐澤 真弓
    1995 年 35 巻 2 号 p. 133-163
    発行日: 1995/11/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    自己についての文化心理学的視座によれば, (i) 心理的傾向の多くは, 観念, ディスコース, 慣習, 制度といった文化の諸側面によって維持・構成され, さらに (ii) これら文化の諸要素は, 歴史的に形成され, 社会的に共有された自己観 (北米・西欧, 中流階級における相互独立的自己観や, 日本を含むアジア文化における相互協調的自己観) に根ざしている。この理論的枠組みに基づいて, 本論文ではまず, 日本の内外でなされてきている日本的自己についての文献を概観し, 現代日本社会にみられる相互協調の形態の特性を同定した。次いで, 自己実現の文化的多様性とその身体・精神健康問題へのインプリケーションについての日米比較研究の成果を吟味し, 心理的傾向が文化によりどのように形成されるかを具体的に例証した。最後に, 将来への指針を示し, 結論とした。
  • 長崎大水害後の復興事業をめぐる「感度分析」
    永田 素彦, 矢守 克也
    1995 年 35 巻 2 号 p. 164-177
    発行日: 1995/11/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本研究は, 1982年7月の長崎大水害後の災害復興事業をめぐる利害対立の構造を, 「感度分析」を取り入れたコンフリクト解析 (ゲーム理論の一種) に基づいて検討したものである。具体的には, 第1に, 水害によって損壊した重要文化財眼鏡橋の復元, 及び, 同橋が架かる中島川の治水対策事業をめぐる, 行政組織, 市民団体, 一般市民の3者間の利害対立の構造を, 当事者への面接調査と関連の新聞記事に基づいて, コンフリクト解析によりモデル化し, 均衡解を求めた。第2に, 感度分析を適用することにより, 個々のプレイヤーの選好の変動に対して, 得られた均衡解が安定的であるための制約条件を明らかにした。以上の分析に基づいて, 感度分析が, コンフリクト状況のマクロ構造の特徴を, ミクロ (個々のプレイヤーの選好) -マクロ (均衡解) 関係から評価する有効な方法であることを論じた。最後に, 感度分析の実践的な意義-選好の同定作業の困難の低減 (調査者にとっての利点), 利害対立の解消へ向けた具体的な提言の可能性 (コンフリクトの当事者, 仲裁者にとっての利点) -を指摘した。
  • 水鴬 友昭, 林 理
    1995 年 35 巻 2 号 p. 178-184
    発行日: 1995/11/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本論文では原子力発電開発に従事する専門家と一般人の原子力発電やその他の工学的技術や製品に対するリスク認知構造の違いを明らかにすることを目的とし, それを解明した。因子分析の結果, それぞれの構造は「恐ろしさ」と「未知性」の2因子モデルで説明することができることがわかり, 専門家における知識は科学全体として知られていることを「わかっている」こととし, 個人的な知識のみを知識とはせず, 科学的に明らかにされていれば知識とみなす傾向があり, 一般人は個人的に知っていることを「わかっている」こととする傾向があることが判明した。また, 専門家と一般人をボンドし, 原子力発電に関係する項目をそれぞれ比較した結果, 専門家は一般人と較べ比較的に「未知性」, 「恐ろしさ」ともに低く, 知識量の差により, 原子力発電に対する恐ろしさが変化していることが判明した。これにより, 一般人に個人的な正しい知識を与えることにより, リスク構造認知の差を小さくすることが可能であることが判明した。
  • ストレス低減方略への展望
    橋本 剛
    1995 年 35 巻 2 号 p. 185-193
    発行日: 1995/11/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    社会心理学における対人葛藤研究は, 問題解決を目的としたものが主流であり, その際に生じる心理的ストレスとその解決については十分な議論がなされていない。一方, 健康心理学においても対人葛藤はストレッサーとして想定されてはいるが, 多くのストレッサーのうちのひとつとして, その特殊性はあまり考慮されてこなかった。そこで本論文では, この2つの領域における対人葛藤とその対処方略の知見を概略的にレビューし, それらを統合した枠組みで研究を発展させることを提唱した。また, 同じく対人関係において生起しながらも, 精神的健康にポジティブな影響を与える変数であるソーシャルサポートと対人葛藤との関連についても考察した。さらに, ストレッサーとしての対人葛藤研究における今後の具体的な課題として, (1) ストレッサーとしての対人葛藤の影響力, (2) 対人葛藤対処方略のストレス低減可能性, (3) ソーシャルサポートと対人葛藤との関連などを挙げ, それらの課題を検証するための概念的なモデルについて考察し, ネガティブな影響を及ぼす対人関係を, 偶発性を含んだライフイベントと, 比較的安定した対人認知の一側面とに弁別する必要性を提唱した。
  • 林 春男
    1995 年 35 巻 2 号 p. 194-206
    発行日: 1995/11/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    平成7年1月17日未明に起きた阪神大震災は, 災害が単に自然科学的な現象ではなく, すぐれて社会科学的な現象であることを痛感させた。危機管理の観点から我が国の防災を見ると, 今回の震災は, これまでの防災が「被害の予防」を過度に偏重し, 危機管理のもう一つの目的である「被害の極限化」に関して不十分であったことを教えてくれた。地震そのものは防げないが, それによる災害を軽減することは可能である。そのためには社会の側に被害を極小化し, 早期の復旧を可能に出来るだけの備えを必要とする。そのために対策は緊急対策, 応急対策, 復旧・復興対策に分けられ, これら3種類の対策がどれも災害発生直後から独立のグループによって遂行される必要がある。以上の災害対応に関する整理枠組みに則り, 今回の震災事例を通して, 今後社会科学的な検討を行うべき代表的な課題を位置づけることが本稿の目的である。緊急対策では救命救助, 応急対策ではライフラインの復旧と避難所の運営, 復旧・復興対策では心の傷のケアと復興のモデルについて, 今回の震災後の対応を事例として, 検討した。
  • 杉万 俊夫, 渥美 公秀, 永田 素彦, 渡邊 としえ
    1995 年 35 巻 2 号 p. 207-217
    発行日: 1995/11/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    阪神大震災 (1995年1月17日) で発生した避難所の組織化プロセスを, 3つの避難所において救援ボランティアに携わりながら行なった参加観察を通して検討した。避難所では, 避難者, 施設スタッフ (通常, 避難所を職場とする人), 救援ボランティアという3つの集合体による創発的な組織化が進行した。参加観察を行なった3つの避難所についてみると, 第1の避難所では, 避難者が早期から強力な自治組織を形成し, 避難者集合体主導の組織化が進行した; 第2の避難所では, 従前からの活発なコミュニティ活動を基盤として, 避難者・施設スタッフ集合体主導の組織化が進行した; 第3の避難所では, 通算7代にわたる学生ボランティアのバトンタッチによる救援ボランティア集合体主導の組織化が進行した (ただし, 一部のボランティアによって避難者, 施設スタッフとの意思疎通も図られた)。結論として, 避難所は, 単なる食料や寝場所を確保する場ではなく, 避難者が新たなる集合性の再構築に向かって第一歩を踏み出せるための安全基地としての場とならねばならないこと, そのためには, 避難者集合体のニーズが反映される組織化プロセスを実現する必要があることを指摘した。
  • 西宮ボランティアネットワークと阪神大震災地元NGO救援連絡会議の事例
    渥美 公秀, 杉万 俊夫, 森 永壽, 八ツ塚 一郎
    1995 年 35 巻 2 号 p. 218-231
    発行日: 1995/11/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本研究は, 1995年1月17日午前5時46分に発生した阪神大震災の被災地・被災者を救援するために組織された2つのボランティア組織-西宮ボランティアネットワークと阪神大震災地元NGO救援連絡会議-について参与観察法を用いて検討したものである。まず, 各組織の成立過程, および, 活動内容の概略を紹介した。次に, ボランティアに関する一般的な考察を行った上で, 両組織を災害救援における広域トライアングルモデルを用いて比較考察した。両組織には, 地元行政との関係, および, 将来への展望において明確な違いが見られた。
  • 城 仁士, 小花和 尚子
    1995 年 35 巻 2 号 p. 232-242
    発行日: 1995/11/30
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本研究では, 阪神大震災による精神身体的影響について調査を行った。調査1では, 地震発生当日から約1ヵ月間に, 10代から80代までの748名の被災者に発現した精神身体的ストレス症状の実態を調査し, 避難状況別, 性別, 世代別に分析した。また, 調査2では, 地震発生当日から約3ヵ月間に, 3歳から5歳までの子ども1005名とその母親に発現したストレス症状を調査し, 両者のストレス症状の関連を検討した。調査1より, 避難所生活者は避難所以外での生活者よりも高いストレスを自覚していること, 性別・世代毎に比較すると60代の女性が最も高いストレスを自覚していることが明らかになった。また, 調査2より, 子どもと母親は物理的ダメージが大きい場合に強いストレス症状を示すこと, 母親にとっては避難状況や家屋に受けた物理的ダメージ以上に, 子どもの示すストレス症状の特徴が, ストレッサーとして強い影響力を持っていることが示唆された。
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