実験社会心理学研究
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38 巻, 2 号
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  • 教師への距離の調整としての学生の着席位置
    北川 歳昭
    1998 年 38 巻 2 号 p. 125-135
    発行日: 1998/12/20
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, 教室における学生の着席位置が個人空間 (personal space) の概念によって説明できるかどうかを検討することである。2つのクラス計151名の女子短大生の受講時の着席位置が, 1学期の間, 10回にわたって追跡記録された。その着席位置に従って, 学生たちは, 4つのゾーン群 (前方, 中央, 後方, 左右両端) に分けられた。学期の最終講義の時に, 学生たちは, 対人距離テストを受け, その中で, 親近性の異なる3人物と面談するときの最適距離をそれぞれ示すように求められた。結果によると, 着席ゾーンが前方であるほど, そして, 対象人物の親近性が高いほど, 対人距離スコアが低かった。これは, 教室の前後軸に沿った学生の着席位置が教師との距離の調整の反映であることを示唆している。
  • 自己開示記述法とフィードバック法
    坂元 桂, 坂元 章
    1998 年 38 巻 2 号 p. 136-150
    発行日: 1998/12/20
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    抑鬱とムードが社会的比較に及ぼす効果を見出し, その後の研究に大きな影響を与えたものとしてGibbons (1986) がある。本研究は, 大学生に対して2つの実験を行い, 彼の見出した効果などを再検討したものである。実験1では, 彼とほぼ同様のムード導入の手続き (自己開示記述法) を用いて, 彼の結果が再現されるかどうかを検討した。その結果, ムードの効果は有意でなかったが, 抑鬱者が非抑鬱者よりも下方比較を行うことが示され, 彼の結果が部分的に追証された。実験2では, 彼とは異なる手続き (偽りのフィードバック法) を用いて, 実験1と同様の効果を検討した。その結果, 抑鬱の効果は有意でないこと, また, ネガティブムード群の被験者がポジティブムード群の被験者よりも上方比較を行うことが示された。これは, 彼の結果と全く異なるものである。また, 2つの実験を通じて, 抑鬱者において, 場合により, 下方比較とポジティブな自己認知の間に相関があることが見出された。以上の結果に基づいて, 彼の結果の一般性と妥当性を議論した。
  • 長谷川 孝治, 浦 光博
    1998 年 38 巻 2 号 p. 151-163
    発行日: 1998/12/20
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本研究では, アイデンティティー交渉過程 (Swann, 1987) が, 個人の精神的健康に及ぼす影響について, 検討した。このアイデンティティー交渉の枠組みでは, 自己評価と他者の評価とのズレの低減のされ方に, 自己評価が他者の評価に近づく形 (評価の効果) と他者の評価が自己評価に近づく形 (自己確証の効果) の2つがあり, そこで生じるズレ低減が個人の精神的健康を導くとされる。本研究では, このような2種類のズレ低減の方向性に加えて, 先行研究において明確にされてこなかった, 「自己評価と他者の評価の相対的な高さ」 に着目した。研究1の結果, 自己評価が他者の評価よりも低い群 (相対的自己評価低群) では, 他者の評価が下がる形のネガティブな確証 (ズレの低減のされ方) は個人の適応を阻害し, 自己評価が上がる形のポジティブな確証は個人の適応を促進することが示された。一方, 自己評価が他者の評価よりも高い群 (相対的自己評価高群) では, このような関連は見られなかった。両群のこのような結果の差異は, アイデンティティー交渉過程そのものの違いによることが, 研究2の結果から明らかになった。すなわち, 相対的自己評価低群は高群に比べて, 自己評価や他者の評価が不安定であり, しかも自らの低い自己評価に他者の評価を近づける交渉を行っていたのである。そして, 適応の水準そのものに関しても, 相対的自己評価低群は高群よりも低かった。本研究の結果から, 自己評価の低い個人の社会的相互作用は機能障害的であることが明らかにされた。また, 対人関係と適応の関連における, 自己過程のもつ仲介機能についても考察された。
  • 堀内 孝
    1998 年 38 巻 2 号 p. 164-171
    発行日: 1998/12/20
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本研究では自己記述課題 (あなたにあてはまりますか?) を用いた自己関連付け効果の生起要因について, 自己知識と記銘材料 (形容詞) の特質という観点から検討を行った。実験1では, 関連付ける自己知識の領域によって自己関連付け効果の生起パタンが異なるか否かについて検討した。その結果, 中心的な領域 (被験者の性格特徴) に記銘語を関連付ける処理を行った場合には自己関連付け効果は得られたが, 周辺的な領域 (被験者の足や目) に関連付けても自己関連付け効果は得られなかった。実験2では, 記銘材料に関して, 自己知識の記述性と熟知度を操作した。その結果, 性格を記述し日常よく使用する記銘語においてのみ自己関連付け効果は得られた。これらの結果は, 自己関連付け効果の生起には, 豊富な自己知識領域に適切な記銘語を関連付けることが必要であることを示唆するものである。
  • 安達 智子
    1998 年 38 巻 2 号 p. 172-182
    発行日: 1998/12/20
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本研究では, 未入職者における将来の職業に関連した動機に注目し, 大学生を対象とした測定を試みた。ここでは就業動機を, 未入職者が未来の仕事状況に関連してもっている動機, または, 将来携わる職業的場面を想定した動機と定義した。文化系の学部に所属する大学生257名 (男子135, 女子121, 不明1) より得られた回答を因子分析したところ4因子が見出された。「探索志向」は, 将来携わる仕事に関する情報を収集するなど職業に対する積極的姿勢, 「挑戦志向」は, 困難な作業に挑戦して仕事によって自己成長しようとする傾向, 「対人志向」は, 仕事を通じた人との接触を志向する傾向, 「上位志向」は, 社会的地位や名声を得ようとする傾向であると解釈出来た。α係数と項目-尺度間相関を検討した結果, 職業的動機づけ尺度は十分な信頼性を有することが確認出来た。つづいて, 性格特性, 職業価値観, 成功回避動機との関連を検討したところ, 就業動機の各側面の特徴がより明確化された。
  • コンピュータ・コミュニケーション条件と対面コミュニケーション条件の差異に関する実験社会心理学的検討
    木村 泰之, 都築 誉史
    1998 年 38 巻 2 号 p. 183-192
    発行日: 1998/12/20
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本研究では, 近年急速に普及しつつあるコンピュータ・コミュニケーションの特質を社会心理学的に検討した。集団意思決定における集団極化現象を扱ったコンピュータ・コミュニケーション条件と対面コミュニケーション条件による実験を行い, 両コミュニケーション・モード間における差異について検討を加えた。被験者は3人1組の実験集団を構成し, ジレンマ課題におけるリスク水準決定を行った。コンピュータ・コミュニケーション条件では対面コミュニケーションに比べ, コミュニケーション当事者から受ける緊張感や心理的負担といった対人圧力が減少することが分かった。こうした対人圧力の減少によって, 通常言われているコンピュータ・コミュニケーション上での立場の平等化という現象が説明可能であることが示唆された。コンピュータ・コミュニケーション条件で, 集団極化現象が観察され, 対面コミュニケーションに比べ, よりリスキーな意思決定を行いやすいことなども確認された。その他, 第1発言効果の検証を行った。
  • 性差の検討
    和田 実
    1998 年 38 巻 2 号 p. 193-201
    発行日: 1998/12/20
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本研究は, 大学生がストレスにどのように対処しているのか, また男女で対処法に違いがあるのかを調べた。さらに, ソーシャルサポートはストレス低減に有用かどうかも調べられた。被験者は大学3年生285 (男性114, 女性171) 人であった。自分の将来のこと, 勉強のこと, 友人・仲間のこと, 自分のこと, 余暇, 異性のこと, 教師・授業について, 両親・家族とのこと, の8つのストレッサーが用いられた。対処法は, 積極的解決の試み, 積極的回避, 忍耐, 支援要請, 消極的回避の5つであった。男性よりも女性の方がストレスとサポートが多かった。対処法で一番多いのが, 男女とも消極的回避であった。忍耐は低より高ストレス者, 消極的回避は高より低ストレス者がより多く選択した。低サポート者より中サポート者, 中サポート者よりも高サポート者の方が孤独でなかった。しかし, サポートは疾病徴候には何の効果も示さなかった。すなわち, ソーシャルサポートはストレスに対して限られた効果しか持たないのである。
  • 杉万 俊夫
    1998 年 38 巻 2 号 p. 202-204
    発行日: 1998/12/20
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
  • 町衆の医療
    早川 一光
    1998 年 38 巻 2 号 p. 205-214
    発行日: 1998/12/20
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
  • 京都「西陣健康会」の50年
    孫 冶斌
    1998 年 38 巻 2 号 p. 215-225
    発行日: 1998/12/20
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    高齢者が安心して暮らせる地域づくりを考えるために, 先駆的事例として, 京都市西陣において約半世紀にわたって展開されてきた住民運動を取り上げ, その歴史を整理するとともに, 現在的含意を抽出した。その現在的含意は, 西陣における住民運動を再活性化するために, 当事者と研究者 (筆者) との実践的共同研究を通じて導出された。西陣における住民組織「西陣健康会」の50年は, 住民と医療関係者が同じ目線に立ち, 「住民のための住民による住民の医療」を構築していった歴史であった。この歴史を, 哲学者, 廣松渉によって提起された, 実践的世界の四肢的関係態論に基づき考察した。とりわけ, 四肢的関係態のイデアールな契機である役柄, および, それが物象化した役殻という2つの概念を重視した。その結果, 役殻の解体と新たなる役柄の構築を, 医者と住民の双方において行うことが要請されているとの考察を得た。
  • 介護者の語りを住民と共有する
    横山 和佳子, 藤原 尚子, 西田 光代, 金辻 治美, 藤井 朱美, 味田 真理子
    1998 年 38 巻 2 号 p. 226-236
    発行日: 1998/12/20
    公開日: 2010/06/04
    ジャーナル フリー
    本稿は, 京都府相楽郡の保健婦が, 自らの地域に住む介護者の語りに耳を傾け, その語りを地域住民と共有しようとした実践研究の報告である。(1) まず, 保健婦たちは, 高齢者を在宅介護している13名の介護者に, 介護に携わりだしてからのストーリーを語ってもらった。それを基にして, 保健婦たちは, 介護者が直面する問題点と, それに対する対応を分析, 整理した。(2) 次に, 保健婦たちは, 研究の成果を地域住民と共有すべく, 住民たちとの学習講座を通じて, 啓発活動を行なった。本稿の最後では, 高齢社会における住民による地域医療・地域介護を, 専門的立場からサポートすべき立場にある保健婦のあり方について論じた。
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