実験社会心理学研究
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43 巻, 2 号
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原著論文
  • 深町 珠由, 伊藤 由香, 中川 正宣, 前川 眞一
    2004 年 43 巻 2 号 p. 123-139
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/04/16
    ジャーナル フリー
    従来の相互作用論におけるパーソナリティは質問紙法で測定され,動態的相互作用という時系列変化過程を測定していなかった。本研究は,コンピュータ制御による相手との相互作用過程から動態的個人特性を測定し,従来の質問紙法による静態的指標と比較した。課題では,コンピュータ内の相手が反省エネ行動を繰り返し行う中で,被験者に省エネ行動と相手との友好関係維持という二律背反の目標を与えた。対人協調・非協調行動と対人友好感情評定値の時系列変化を測定し,この2変数相関を個人で求めて動態的個人特性とみなし,得点から高・低群に分類し,各群の代表的時系列特徴を主成分分析で求めた。実験条件には,相手が反省エネ行動を反復することを共通として,相手の攻撃的口調条件と非攻撃的口調条件とを設定した。結果として,対人友好感情評定値の時系列変化が動態的特性の高・低群と各実験条件とで変化傾向が異なり,相手の表面上の口調の影響と,口調と反復される反省エネ行動との一致感の認知の影響を受け,それが時間経過で変化する傾向が示された。動態的指標と静態的指標とを比較したところ,実験条件を通じて一貫した相関は確認されず,動態的指標が質問紙法で測定できない独自の個人特性を表現している点が示された。今後も動態的相互作用に基づく個人特性の測定研究が多くなされる必要がある。
  • 東村 知子
    2004 年 43 巻 2 号 p. 140-154
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/04/16
    ジャーナル フリー
    日本の高校教育は,高校全入の時代を迎える一方,多数の不本意入学者や高校中退者という新たな困難に直面している。サポート校は,こうした事態に対応するものとして生まれ,現在まで急速に発展してきた。サポート校とは,通信制高校に在籍する生徒の卒業資格取得をサポートする私塾であり,不登校や高校中退を経験した生徒が数多く通っている。本研究では,あるサポート校C学院においてフィールドワークを行った。C学院における教育実践は,以下の3つの特徴―(1)教師と生徒が親密な関係にあること,(2)ふだんの授業では,学習よりも生徒が学校を楽しいと感じることが重視されており,高校卒業資格取得については特別な授業が設けられ,徹底した指導が行われていること,(3)教師が生徒一人一人に合わせた丁寧な対応を行っていること―を有していた。これらの特徴が,C学院に多く在籍する,不登校経験のある生徒や学力の低い生徒にとって有効であることを,事例研究から明らかにした。このように,サポート校における教育実践は,一般の学校にはない意義を有するものであるが,サポート校は学校教育を代替することはできない。その理由を,「制度化された教育」と「制度化されない教育」(林,1994)という観点から考察した。「サポート校=制度化されない教育」と「学校=制度化された教育」では,常に後者に正統性が与えられるがゆえに,サポート校は困難や矛盾を抱えることになる。意義と矛盾を共に抱えこむサポート校のあり方は,われわれが暗黙のうちに支えている学校教育制度の正統性に疑問を呈し,その再考を迫るものである。
  • 加藤 謙介, 渥美 公秀, 矢守 克也
    2004 年 43 巻 2 号 p. 155-173
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/04/16
    ジャーナル フリー
    本研究では,高齢者に対するロボット介在活動(Robot Assisted Activity: RAA)の事例を取り上げ,RAAを,ロボットをめぐる物語の共同的承認の過程であるとして検討した。筆者らは,有料老人ホームに入所する高齢者を対象とした,ペット型ロボットを用いたRAAを実施し,参与観察するとともに,RAA実施中における参加者群の相互作用を,定量的・定性的に分析した。定性的分析の結果,RAA時には,対象となった高齢者のみではなく,施設職員やRAAの進行係等,RAAの参加者全員が,ペット型ロボットの挙動に対して独自の解釈を行い,それを共同的に承認しあう様子が見出された。また,定量的分析の結果,RAA実施中における参加者群の「集合的行動」のうち,最も頻度が多かったのが,「ロボットの動きを参加者群が注視しながら,発話を行う」というパターンであることが明らかになった。筆者らは,RAAを,参加者によるロボットの挙動に対する心の読み取り,及びその解釈の共同的承認を通して物語が生成され,既存の集合性とは異なる集合性,<異質性>が生成される過程であると考察した。
  • 浅井 千秋
    2004 年 43 巻 2 号 p. 174-184
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/04/16
    ジャーナル フリー
    本研究では,専門重要性と専門効力感が専門コミットメントを規定し,組織サポートと組織からの評価が組織コミットメントを規定し,職務複雑性と職場への適応が職務モチベーションを規定するという仮説が設定され,さらに,専門コミットメント,組織コミットメント,職務モチベーションの3つの態度間にも因果関係が設定された。そして,これらの仮説に基づいて構造モデルが構成された。派遣技術者133人に対する質問紙調査のデータを用いた共分散構造分析によって,このモデルの妥当性を検討した結果,専門コミットメントには,専門重要性と職務モチベーションからの正の影響が見られ,組織コミットメントには,組織サポート,組織からの評価,職務モチベーションからの正の影響が見られ,職務モチベーションには,職務複雑性,専門コミットメント,組織コミットメントからの正の影響が見られた。本研究の結果から,派遣技術者が有する専門志向の態度は,彼らの仕事に対する動機づけに強い影響を与えていることが示唆された。
資料論文
  • 柳澤 さおり, 古川 久敬
    2004 年 43 巻 2 号 p. 185-192
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/04/16
    ジャーナル フリー
    企業組織における人事考課に関わる研究では,評価目的が評価者の情報処理過程や評価に及ぼす影響について重視されてきた。しかし,そこで問題とされているのは評価目的の内容の差異が及ぼす影響であり,評価目的を与えること自体が及ぼす影響については言及されてこなかった。また,評価目的が,情報処理過程に及ぼす影響についても十分に検討されているとはいえない。本研究は,(a)評価目的を与えること,および評価目的を与える場合には(b)評価目的の内容が異なることが,被評価者の情報の記憶および評価に及ぼす影響について検討した。99名の被験者のうち,評価目的を提示した群には,昇給の査定(昇給査定群),もしくは再教育の必要性の査定(再教育査定群)のために,被評価者を評価することが教示された。評価目的が提示されない群(目的無し群)には,そのような目的が示されなかった。被験者は,被評価者の職務行動に関わる情報を読み,その後にその情報を再生し,被評価者に対する評価と好悪感情について評定した。評価目的が与えられた群は,目的無し群と比較して,多くの情報を再生していた。また,評価目的が与えられた群は,目的無し群よりも,評価と好悪感情が独立した評価を下していた。評価目的が与えられた昇給査定群と再教育査定群の間では,再生した情報および評価と好悪感情との関連に差異はみられなかった
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