実験社会心理学研究
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43 巻, 1 号
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原著論文
  • 工藤 恵理子
    2003 年 43 巻 1 号 p. 1-21
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/02/17
    ジャーナル フリー
    血液型性格関連説を信じている程度が,対人認知過程において選択的確証情報の使用と確証的判断に異なった影響を及ぼす事を検討した。2つの実験において実験参加者は,刺激人物の記述を与えられ,その人物が仮定された血液型かどうか判断を求められた。両実験において,血液型性格関連説を信じる程度に関わらず,実験参加者は確証的情報をその他の情報に比べてより重要であると評定していた。一方,刺激人物の血液型の判断においては,血液型性格関連説を信じる程度により違いが見られた。血液型性格関連説を強く信じる者はそうでない者に比べ,より確証的な判断をする傾向が見られた。これらの結果は,血液型性格関連説を信じる程度が対人認知の過程の中の異なった段階で異なった形で働くという予測を支持するものであった。実験2では,血液型性格関連説についての知識が選択的確証情報の使用にどう影響するかをも検討した。
  • 高木 邦子
    2003 年 43 巻 1 号 p. 22-35
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/02/17
    ジャーナル フリー
    本研究は,否定的対人感情の形成における「認知経路」と「情動経路」の影響力を比較し,「認知経路」において否定的対人感情の形成に影響を及ぼす責任帰属要因を示すことを目的とする。
     研究1では,クラスメイトとの葛藤状況を描写した3つの仮想場面を238名の高校生に提示し,各場面における不快情動,責任帰属,相手への否定的対人感情への評定を求めた。階層的重回帰分析の結果,否定的対人感情形成における「情動経路」と「認知経路」の両経路の存在が示唆され,特に,回避場面と支配場面において「認知経路」の影響力が強いことも示された。責任帰属の影響については「意図的―正当」と「無意図的―回避不能」への帰属が,「意図的―不当」と「無意図的―回避可能」への帰属よりも否定的対人感情の形成に促進的に影響を及ぼすことが示された。
     研究2では,244名の高校生に,研究1で「認知経路」の影響力が強かった回避場面と支配場面を提示した。その後,「意図的―不当」「意図的―正当」「無意図的―回避可能」「無意図的―回避不能」から任意の帰属情報を提示し,否定的対人感情の評定を求めた。帰属群間での一元配置分散分析の結果,「意図的―正当」と「無意図的―回避不能」への帰属情報を与えた際に,形成される否定的対人感情が低いことが確認された。
     以上の結果から,「認知経路」が否定的対人感情の形成に及ぼす影響が強い場合は,否定的対人感情の形成に「意図的―不当」と「無意図的―回避可能」への帰属が促進的に,また「意図的―正当」と「無意図的―回避不能」への帰属が抑制的に作用することが示唆された。
  • 沼崎 誠, 工藤 恵理子
    2003 年 43 巻 1 号 p. 36-51
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/02/17
    ジャーナル フリー
    自己呈示が呈示者の能力の推定に及ぼす効果を検討した。先行研究のレビューから実験室実験とシナリオ実験の結果が異なり,この方法的問題と文化的説明が混交している可能性が示唆された。この問題を明らかにするために,日本人女子大学生を実験参加者として,実験室実験とシナリオ実験をおこなった。実験1では,実験室実験をおこなった。実験協力者は,課題の遂行前に,自分の能力に関して自己高揚的主張をおこなうか,自己卑下的主張をおこなうか,主張をしないかのいずれかの呈示をおこなった。実験協力者の遂行は高い遂行か低い遂行に操作された。自己高揚的呈示は自己卑下的呈示に比べ,実験協力者の能力を高く推定させていた。この結果は,欧米人を実験参加者としておこなわれた実験室実験での知見と整合しており,東洋人を実験参加者としておこなわれたシナリオ実験での知見と整合していなかった。実験2では,実験1の手続きを説明したシナリオを読ませ,呈示者の能力を推定させた。実験2では,呈示スタイルは能力推定に対して影響を与えなかった。これらの結果は,能力推定に対する自己呈示の効果に関して,実験室実験から得られる結果とシナリオ実験から得られる結果が異なることを示している。
  • 伊藤 君男
    2003 年 43 巻 1 号 p. 52-62
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/02/17
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,被説得者の印象志向動機が内集団成員による説得的メッセージの処理に及ぼす効果を検討するものである。実験1は,被験者は大学生79名で,説得話題に関する議論が後になされることを実験参加者に予期させるか否かによって印象志向動機を操作した。それに加えて,説得者(内集団・外集団)と論拠の質(強・弱)を操作して実験を行った。その結果,議論なし条件では内集団の説得者の説得効果のみが認められた。一方,議論あり条件では,内集団の説得者による説得効果と論拠の質による説得効果が共に認められた。実験2では,議論の予期の操作によって高められる動機(印象志向動機か正確性志向動機)が,個人によって異なるという実験1の示唆に基づき,セルフ・モニタリングの相違によって印象志向に動機づけられる被験者と正確性志向に動機づけられる被験者に分類した。被験者は大学生216名で,実験の手続きは実験1の議論あり条件と同様である。高セルフ・モニタリング群(印象志向動機)は内集団の説得者の説得効果のみが高かった。一方,低セルフ・モニタリング群(正確性志向動機)では論拠の質の主効果のみが認められた。こうした結果に基づき内集団の説得者の特殊性が議論された。
  • 小川 一美
    2003 年 43 巻 1 号 p. 63-74
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/02/17
    ジャーナル フリー
    対人コミュニケーションは後続する対人認知などの対人的相互作用ときわめて密接な関係にあると考えられる。会話はダイナミックな相互作用であるため,各々の会話者の特徴だけではなく,二人の会話者によって作り出される相互作用そのものに着目をする必要がある。本研究では,Burgoon et al.(1995)による相互作用パターンのひとつである返報性の考えをもとに,二者の発話量の均衡が,会話者や会話の印象に及ぼす効果について検討した。実験1では,より日常に近い場面における発話量の均衡状態と観察者が抱く印象の関係を探索的に検討するため自然会話場面を刺激として用い,実験2では,会話者や会話内容などの要因を可能な限り統制した会話を作成し刺激として用いた。結果,発話量の均衡状態は会話者に対する印象とは関連がなかったが,会話に対する印象では,快印象を生じさせる可能性が示唆された。本研究は,認知的負荷が少なく会話を冷静に観察することができる観察者を認知者としたが,今後,会話者による認知と比較検討することで,発話量の均衡が印象形成に及ぼす効果についてより詳細に検討していくことが課題として残された。
資料論文
  • 相馬 敏彦, 山内 隆久, 浦 光博
    2003 年 43 巻 1 号 p. 75-84
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/02/17
    ジャーナル フリー
    本研究では,恋愛・結婚関係における排他性が,そのパートナーとの葛藤時への対処行動選択に与える影響が検討された。我々は,恋愛・結婚関係における排他性の高さが,関係での葛藤時に,個人にとって適応的な対処行動の選択を抑制すると予測した。調査は,恋愛・結婚パートナーを有する社会人108名を対象に行われた。被験者は,パートナーとそれ以外の9の対象からの知覚されたサポート尺度と,パートナーとの葛藤時の対処行動尺度に回答した。分析の結果,予測通り,パートナー以外のサポート源からもサポートを知覚できた排他性の低い者は,交際期間の長い場合には建設的に対処し,一方排他性の高い者は,交際期間が長い場合に建設的な対処行動を抑制しやすいことが示された。この結果から,排他性がそのメンバーの不適応を導く可能性が論じられた。
  • 大坪 庸介, 島田 康弘, 森永 今日子, 三沢 良
    2003 年 43 巻 1 号 p. 85-91
    発行日: 2003年
    公開日: 2004/02/17
    ジャーナル フリー
    本研究では,日本の医療機関において職種内・間の地位格差により円滑なコミュニケーションが阻害されることがあるかどうかを,質問紙調査により検討した。質問紙では,職場の特定の対象が投薬量を間違っているのではないかと感じられる場面を想定してもらい,その相手に対してエラーの指摘をするのにどの程度の抵抗感を感じるかを尋ねた。調査対象は医師・看護師・薬剤師であり,それぞれの対象者ごとに同僚・先輩・後輩・その他の職種などを指摘対象として想定してもらった。結果は,同職種内では後輩より同期の相手に,同期より先輩に対して指摘に抵抗感があることを示していた。また,異職種間でも,看護師・薬剤師が医師に対して指摘する場合の抵抗感の方が,医師が看護師・薬剤師に対して指摘を行う場合の抵抗感よりも強かった。したがって,職種内・間の両方で程度の差こそあれ地位格差によるエラー指摘への抵抗感が存在することが示された。また,エラー指摘の抵抗感の程度には病院差があることも示された。今回の質問紙調査の限界と,今後,医療事故を減らしていくために必要とされる研究について考察した。
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