実験社会心理学研究
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45 巻, 1 号
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原著論文
  • 田村 美恵
    2005 年 45 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/04/29
    ジャーナル フリー
    人は,自分自身の判断や態度,行動(以下,自己判断)に対する合意性をどのように推定するのだろうか。またその際,自己判断に対する合意性推定のあり方は,自分以外の他者の判断を示されることで,どのように影響を受け,調整/修正されるのだろうか。この点に関して,先行研究間では,必ずしも一貫した結果が得られていない。本研究では,自己判断と他者判断の一致,不一致が合意性推定に及ぼす影響について,自分が多数派に属するか少数派に属するかという「所属集団サイズに関する予期」との関連で検討した。その結果,所属集団サイズに関する予期の違いによって,自己判断や他者判断への関心(重み付け)が左右され,異なる合意性推定プロセスが生起することが見出された。まず,自分が多数派に属するという予期を有する場合には,合意性推定は,専ら,自己判断をベースとして行われ,他者判断は,その内容如何に関わらず,合意性推定に影響を及ぼさなかった。これに対して,自分が少数派に属するという予期を有する場合には,自己判断だけでなく他者判断も考慮され,それらの内容が一致しているか否かによって,合意性の見積もり方が左右されていた。これらの結果に基づき,従来の見解の相違について考察した上で,合意性推定に及ぼす集団間文脈の影響,ステレオタイプ研究との関連などについて議論を展開した。
資料論文
  • 谷口 淳一, 大坊 郁夫
    2005 年 45 巻 1 号 p. 13-24
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/04/29
    ジャーナル フリー
    本研究では異性との親密な関係における自己呈示を取り上げ,異性との関係の親密さが,その異性に対する自己呈示動機に与える影響について検討した。調査対象者は758名(男性328名,女性428名,不明2名)の大学生であり,最も親しい異性を一人思い浮かべて質問紙に回答した。主な結果は次のとおりである。(1)関係を重要視しているほど,異性に対して恋愛感情を感じるほど自己呈示動機は高くなっていた。(2)関係が継続しているほど,異性友人関係では自己呈示動機が低くなっていたが,恋人関係では高くなっていた。(3)恋人関係であることの排他性は自己呈示動機を抑制していた。これらの結果より,長期的関係において短期的関係に比べて自己呈示動機が一概に低くなるわけではなく,長期的関係における自己呈示に関する研究を扱う必要性が示された。
特集論文 政策の公共受容と社会的合意形成:社会心理学的アプローチの可能性
原著論文
  • 藤井 聡
    2005 年 45 巻 1 号 p. 27-41
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/04/29
    ジャーナル フリー
    本研究では,公共事業の合意形成問題における公共受容の問題を考えるために,受容意識に関わる因果関係と信頼の醸成に関する仮説を措定し,それを検証するための実験を行った。すなわち,受容意識は自由侵害感と公正感に,公正感は手続き的公正感と分配的公正感と公共利益増進期待に,そして,手続き的公正感と公共利益増進期待は行政に対する信頼にそれぞれ影響を受けるという仮説を措定した。また,公共事業の趣旨を理解している場合には,そうでない場合よりも,その公共事業の実施者に対する信頼の水準は高くなるという仮説を措定した。以上の仮説を検証するために,都心部の渋滞や大気汚染を緩和する目的で都心部への自動車流入に関する罰金を伴う規制施策を実施するという想定のシナリオ実験(n=800)を行ったところ,以上の仮説を支持する結果が得られたと共に,行政への信頼は受容意識,自由侵害感,公正感,分配的公正のそれぞれに対しても直接的な影響を及ぼしていること,ならびに,公共事業の趣旨の教示の信頼に対する効果は,罰金額が一万円の場合の方が千円の場合よりも小さいという結果が得られた。
  • 青木 俊明, 鈴木 温
    2005 年 45 巻 1 号 p. 42-54
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/04/29
    ジャーナル フリー
    本研究では,自己関連性と情報提示に着目し,社会資本整備に対する市民の態度形成のメカニズムを検討した。その際,ヒューリスティック・システマティック・モデルおよび精緻化見込モデルに基づいてモデル構造を検討した。インターネットを用いてシナリオ実験を行った結果,情報開示が不十分な状況では,自己関連性の高さに関わらず,プロジェクトの社会的妥当性と信頼感などの周辺情報に基づいて賛否態度が形成されることが示された。その際,どちらの場合であっても周辺情報以上に事業情報の方が賛否態度に強い影響力を持つことが示唆された。一方,十分な情報が開示されている状況では,自己関連性の高低に関わらず,プロジェクトの社会的妥当性と手続き的公正によって賛否態度が形成されることが示唆された。さらに,態度変容モデルに基づいて考察した結果,自己関連性が高い場合には手続き的公正の中身が重要であり,自己関連性が低い場合には手続き的公正が認識させる行為自体が重要であることが示唆された。これらのことから,自己関連性の高さによって手続き的公正の役割や態度形成のメカニズムが異なることが示唆された。
  • 福野 光輝
    2005 年 45 巻 1 号 p. 55-64
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/04/29
    ジャーナル フリー
    本研究では,紛争当事者の利害関心に関する一般市民の認知が公共事業における紛争解決手続きの選好に与える効果を検討した。全国の一般成人を対象に質問紙調査を実施し791名から回答を得た。分析の結果,公共事業をめぐる利害対立において,公共事業への賛成を主張する当事者に対して利己的な関心が知覚されるにつれ,また反対当事者に対して利他的な関心が知覚されるにつれ,一般市民は住民投票や直接交渉,調停,意見聴聞といった解決手続きを選好した。一方,事業に反対する当事者に対して利己的な関心が知覚されたり,事業に賛成する当事者に利他的な関心が知覚された場合,一般市民は行政主導の解決手続きを選好した。
  • 大渕 憲一
    2005 年 45 巻 1 号 p. 65-76
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/04/29
    ジャーナル フリー
    全国15地域の一般市民772名に対する社会調査によって,社会的公正感,政府に対する信頼,公共事業政策に対する評価などを測定し,それらの間の関係を分析した。公正感,政府に対する信頼,公共事業政策などに対する評価は全体として厳しいものであった。公共事業政策評価は事業そのものの評価と事業主体である行政の評価に分かれること,前者に関しては肯定的評価と否定的評価が独立性の高い別次元となることなどが見いだされた。また,政府に対して一般的信頼を持たない回答者が公共事業政策をあらゆる面で否定的に評価する傾向が見られ,このことは,人々がヒューリステックな政策評価を行っていることを示唆している。また,政府に対する一般的信頼は,ミクロ,マクロ,地域,職業の4水準における社会的公正感によって強められることも確認された。このことは,社会集団内において自分が公正に扱われていると感じるかどうかが集団の権威者(例えば,政府)に対する態度を規定するとする公正の絆仮説を再確認するものであった。
資料論文
  • 山口 裕幸
    2005 年 45 巻 1 号 p. 77-84
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/04/29
    ジャーナル フリー
    本稿では,公共事業の実施を巡る社会的合意形成の過程における葛藤のマネジメント方略について,全体連合の形成メカニズムを参照しながら検討を試みた。全体連合は,もともと独立した存在で互いに競争関係にある3者以上の当事者たちが,互いに譲歩したり妥協したりして,皆全員で一致して協同に合意する行為であり,より円滑な社会的合意形成方略の検討に有益な示唆をもたらすことが期待される。連合形成に関する実証研究の知見をレビューして,全体連合への動機づけを高めるには,当事者が自己利益だけでなく全体の利益までも考慮する視野の拡大が効果的であることを確認した。その一方で,当事者たちの協同への動機づけが高まり全体連合の提案頻度は高まっても,報酬分配交渉を経ることによって,実際に形成に至る頻度は減少してしまうことも確認された。これらの知見に基づき,人間は,協同を選択する際にも,より大きな自己利益を追求する動機づけを絶えず持ち続けることを認識することの重要性について議論し,インプリケーションの提示を行った。
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