実験社会心理学研究
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48 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著論文
  • 岡本 卓也, 藤原 武弘, 野波 寛, 加藤 潤三
    2008 年 48 巻 1 号 p. 1-16
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,マクロレベルでの集団間の関係性を測定,図示,解析することである。そのため,ある集団やそのメンバーに対して人びとが抱いているイメージ,情報,認知を元にして集団と集団の境界を決定しようとする集団共有イメージ法を提案する。従来の集団研究では,マクロな関係である集団間の関係性を表す際,ミクロデータを代用することが多かった。そこで,対象集団に関するイメージをもとに対応分析を行うことで,マクロレベルでの集団間の関係性の分析を試みた。大学生274名を対象にSIMINSOC(広瀬,1997)を実施した結果,イメージの類似性による集団間の関係性の認知マップが描かれた。またその座標を元にクラスター分析を行うことで集団間の境界線が抽出された。さらに小杉・藤原(2004)の等高線マッピングを応用することで,集団間の関係性(マクロデータ)と個人の好意度(ミクロデータ)の関係を分析した。これらの方法によって測定された集団間の関係性について,好意度や交流時間などのその他の指標との対応を検討した結果,本研究で用いた手法は十分な妥当性を持つものと判断された。最後にこの分析手法の成果や今後の展望について議論した。
  • 林 幸史, 藤原 武弘
    2008 年 48 巻 1 号 p. 17-31
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,日本人海外旅行者の観光動機の構造を明らかにし,訪問地域・旅行形態・年令層による観光動機の違いを比較することである。出国前の日本人旅行者1014名(男性371名,女性643名)を対象に観光動機を調査した。主な結果は以下の通りである。(1)観光動機は「刺激性」「文化見聞」「現地交流」「健康回復」「自然体感」「意外性」「自己拡大」の7因子構造であった。(2)観光動機は,年令を重ねるにつれて新奇性への欲求から本物性への欲求へと変化することが明らかになった。(3)アジアやアフリカ地域への旅行者は,今までにない新しい経験や,訪問国の文化に対する理解を求めて旅行をする。一方,欧米地域への旅行者は,自然に触れる機会を求めて旅行をすることが明らかになった。(4)個人手配旅行者は,見知らぬ土地という不確実性の高い状況を経験することや,現地の人々との交流を求めて旅行をする。一方,主催旅行者は,安全性や快適性を保持したままの旅行で,外国の文化や自然に触れることを求めて旅行をすることが明らかになった。これらの結果を踏まえ,観光行動の心理的機能について考察した。
資料論文
  • 黒川 雅幸, 三島 浩路, 吉田 俊和
    2008 年 48 巻 1 号 p. 32-39
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    本研究の主な目的は,小学校高学年児童を対象に,異性への寛容性尺度を作成することであった。小学生を対象とするので,できる限り少ない項目数で実施できるように,6項目からなる尺度を作成した。休み時間や昼休みによく一緒に過ごす仲間の人数を性別ごとに回答してもらったところ,同性の仲間が1人以上いて,異性の仲間も1人以上いる児童の方が,同性の仲間が1人以上いて,異性の仲間がいない児童よりも,異性への寛容性尺度得点は有意に高く,妥当性が示された。また,異性への寛容性尺度得点には性差がないことも示された。同性の仲間が1人以上いて,異性の仲間も1人以上いる児童の方が,同性の仲間が1人以上いて,異性の仲間がいない児童よりも,級友適応得点は有意に高く,異性との仲間関係が級友適応に影響する可能性が示された。
  • 竹村 幸祐, 有本 裕美
    2008 年 48 巻 1 号 p. 40-49
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    北米と同様に自発的入植の歴史を持つ北海道では,日本の他の地域とは異なり,ヨーロッパ系北米人に似た相互独立的な心理傾向が優勢であると報告されている(Kitayama, Ishii, Imada, Takemura, & Ramaswamy, 2006)。Kitayama et al.(2006)は,北海道で自由選択パラダイムの認知的不協和実験を行い,他者の存在が顕現化している状況よりも顕現化していない状況でこそ認知的不協和を感じやすいという,北米型のパタンを北海道人が示すことを見出した。本研究では,Kitayama et al.(2006)とは異なる方法で他者の存在の顕現性を操作し,彼らの知見の頑健性を検討した。実験の結果はKitayama et al.(2006)の知見と一貫し,他者の存在の顕現性の低い状況において北海道人は認知的不協和を感じやすく,逆に他者の存在の顕現性が高い状況では認知的不協和を感じにくいことが示された。
特集論文  組織の安全管理とグループ・ダイナミックス
原著論文
  • 繁桝 江里, 村上 史朗
    2008 年 48 巻 1 号 p. 52-62
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    本研究は,安全行動を促進する要因として,仕事のやり方や態度に対して否定的な評価を示す言語コミュニケーションである「職務遂行に対するネガティブ・フィードバック(以後職務NFと表記)」を受けることの効果に着目し,化学プラントの研究員に対する質問紙調査による検討を行った。第1の目的として,職務NFの安全行動促進効果を職務NFの形態間や安全会話など他のコミュニケーションとの比較において検討した結果,安全職務に対するNF,一般職務に対するNFのアドバイス型,指摘型の順に効果があるが,不満型には効果がないことが示された。また,安全職務に対するNFは,安全会話とは独立の最も強い効果を持っていた。さらに,第2の目的として,職務NFは効用を持つ一方で,受け手への脅威というネガティブな効果を持つという議論に基づき,NFがもたらすフェイス脅威度に着目し職務NFが機能する条件を検討した。その結果,送り手が親しいという関係特性や,送り手の不満は含まれないというメッセージ特性の効果に加え,職場の組織風土が,より強くフェイス脅威度を弱めていた。考察では,安全マネジメントにおいてNFという特定のコミュニケーションに着目する意義や,組織風土の重要性を論じた。
  • 山浦 一保, 古川 久敬
    2008 年 48 巻 1 号 p. 63-73
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,医療の質向上に関する行動基準について,その理解と実行の程度がともに高く,かつこれら2つの間の乖離を抑制する要因を明らかにすることであった。ここでは,個人要因として職務遂行に対する自律性,職場環境要因として職場からの期待認知(安全期待と効率期待)を取り上げた。このことを検討するため,3つの病院に勤務する看護師を対象として質問紙調査を行った。その結果,医療の質向上の行動基準は4因子構造(看護計画,ルール遵守,情報交換,変革推進・改善)であり,それぞれの行動基準面に関する理解度は実行度よりも高い水準で評価された。看護師の自律性と職場からの安全期待は,概ね行動基準の実行度を高めることが明らかになった。また,職場からの効率期待は,予想に反して,医療の質向上のための活動を部分的に促進させる傾向が示された。考察では,安全確保と効率向上を別個のものとして捉えず,双方を関連づけるリーダーシップの必要性を指摘し,今後の課題を提示した。
  • 田原 直美, 三沢 良, 山口 裕幸
    2008 年 48 巻 1 号 p. 74-86
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    本研究は,病棟クラークの導入が看護師の業務の安全性と円滑さに及ぼす影響を,看護師の行動的及び心理的側面から検討した。K大学病院のA病棟に2名の病棟クラークを約8ヶ月間試験的に導入し,看護師の,業務中断経験,業務中のトラブル経験,ストレッサー,及びチームワークについて,導入前後の変化を追跡調査した。分析の結果,クラーク導入後のポジティブな変化として,看護師の業務中断経験及びトラブル経験の減少が確認されたが,ネガティブな変化として,患者に対応の遅れを指摘される経験の増加と看護師のチームワークプロセス認知の悪化が認められた。クラークの導入は看護師の業務負担軽減や安全性確保に有効であるが,そのためには,一定の時間とクラークと看護師の連携が不可欠であることが示唆された。
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