実験社会心理学研究
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49 巻, 2 号
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原著論文
  • 大西 彩子, 吉田 俊和
    2010 年 49 巻 2 号 p. 111-121
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/02/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,自己愛傾向,認知的共感性,情動的共感性,いじめに否定的な集団規範が生徒のいじめ加害傾向に与える影響を明らかにすることで,いじめの個人内生起メカニズムについて検討することである。188人(男子103人,女子85人)の中学生を対象に,自己愛傾向,認知的共感性,情動的共感性,関係性いじめ否定規範意識,直接的いじめ否定規範意識,関係性いじめ加害傾向,直接的いじめ加害傾向を質問紙調査で測定し,共分散構造分析による仮説モデルの検討を行った。主な結果は以下の通りであった。(1)各いじめ否定規範意識は,各いじめ加害傾向に負の影響を与えていた。(2)誇大的自己愛傾向は,各いじめ否定規範意識に負の影響を与えることで間接的に各いじめ加害傾向に影響を与えていた。(3)認知的共感性は,直接的いじめ加害傾向へ負の影響を与える直接効果と,関係性いじめ否定規範意識に正の影響を与えることで,関係性いじめ加害傾向に負の影響を与える間接効果がみられた。(4)情動的共感性は,各いじめ否定規範意識に正の影響を与えることで,間接的に各加害傾向に影響を与えていた。本研究によって,集団規範がいじめ加害傾向に影響を与える主な要因であることが示唆され,集団規範を考慮したいじめ対策を行うことの重要性が明らかになった。
  • 中島 健一郎, 礒部 智加衣, 長谷川 孝治, 浦 光博
    2010 年 49 巻 2 号 p. 122-131
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/02/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は次の2つである。ひとつは,文化的自己観と集団表象(common identity group vs. common bond group: Prentice, Miller, & Lightdale, 1994)の関連を検証することである。もうひとつは,この関連が個人の経験したストレスフルイベントの頻度によってどのように変動するか検討することである。そのために本研究では大学1年生を対象とする縦断調査を行った。その結果,独自に作成した集団表象尺度が想定どおりの2因子構造であり,信頼性も許容できる範囲であることが示された。加えて,予測されたように,相互協調性とcommon bond group得点に正の関連があり,common bond group得点において文化的自己観とストレスフルイベントの経験頻度の交互作用効果が認められた。相互協調的自己観が優勢な個人の場合,ストレスフルイベントの経験頻度が少ない群よりも多い群においてcommon bond group得点が高いのに対して,相互独立的自己観が優勢な個人の場合,これとは逆の関連が示された。しかしながら,common identity group得点において予測された効果は認められなかった。この点に関して,個人の集団表象と内集団の特徴との一致・不一致の観点より考察がなされた。
  • 清水 裕士, 小杉 考司
    2010 年 49 巻 2 号 p. 132-148
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/02/20
    ジャーナル フリー
    本論文の目的は,「人々が対人行動の適切性をいかにして判断しているのか」について,一つの仮説を提案することである。本論文では,人々が対人行動の適切性をある原則に基づいた演繹によって判断しているものと捉え,演算の依拠する原理として,パレート原理を採用する。次に,Kelley & Thibaut(1978)の相互依存性理論に基づいて,パレート解を満たす葛藤解決方略を導出した。さらに,これらの理論的帰結が社会現象においてどのように位置づけられるのかを,Luhmann(1984)のコミュニケーション・メディア論に照合しながら考察した。ここから,葛藤解決方略は,利他的方略・互恵方略・役割方略・受容方略という四つに分類されること,また,方略の選択は他者との関係性に依存することが示された。そして,このような「行動の適切性判断のための論理体系」をソシオロジックとして定式化し,社会的コンピテンス論や社会関係資本論などへの適用について議論した。
  • 柿本 敏克, 細野 文雄
    2010 年 49 巻 2 号 p. 149-159
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/02/20
    ジャーナル フリー
    状況の現実感尺度(柿本,2004)の妥当性を,仮想世界ゲーム(広瀬,1997)を用いて構成された集団間状況において検討した。研究1では従来型の仮想世界ゲームを用いた実験が行われ,研究2では今回新たに開発されたその電子試作版を用いた実験が実施された。研究1では参加者がゲームのルールを学習しその状況を想像しただけのシナリオ条件と,実際のゲームに携わったゲーム実施条件の間で,状況の現実感尺度の各下位尺度得点と全体尺度得点を比較した。予想通り,ゲーム実施条件でシナリオ条件でよりも状況の現実感尺度の諸得点が大きいという傾向がみられた。研究2では電子試作版のゲーム場面と,研究1の従来型のゲーム場面からの結果を比較した。電子試作版では,その特徴を反映して参加者の現実感が従来型よりも小さかった。下位尺度の得点パターンとともに,全体としてこの尺度が状況の現実感を比較的良好に捉えていると解釈できた。いくつかの研究方法上および理論上の問題が議論された。
資料論文
  • 樋口 収, 埴田 健司, 藤島 喜嗣
    2010 年 49 巻 2 号 p. 160-167
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/02/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,達成動機づけと締め切りまでの時間的距離感が計画錯誤に及ぼす影響について検討した。計画錯誤は,課題の遂行を楽観的に予測するために生じるといわれている。先行研究は,予測時の動機づけが予測を楽観的にし,また時間的距離感は楽観的予測を調整することを示唆している。そこで本研究は,48人の参加者に動機づけの操作のための乱文再構成課題(達成プライミングvs.誘惑プライミング)と期末テストまでの時間的距離感に回答してもらい,また期末テストのための勉強時間を予測してもらった。その後,テスト当日に,実際に行った勉強時間について回答してもらった。その結果,達成プライミング条件の参加者は,誘惑プライミング条件の参加者に比べて,勉強時間をより楽観的に見積もり,計画錯誤が生じていた。またこの傾向は,時間的距離感により調整されており,テストまでの時間的距離感が遠い場合にのみ,この傾向はみられた。最後に,計画錯誤における動機づけと時間的距離感の影響および今後の研究の可能性について考察した。
特集論文  地域環境問題の社会心理学
原著論文
  • 永田 素彦, 吉岡 崇仁, 大川 智船
    2010 年 49 巻 2 号 p. 170-179
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/02/20
    ジャーナル フリー
    環境開発における住民参加手法の一つとして,シナリオアンケートを開発し実施した。シナリオアンケートは,環境開発がもたらす環境の多様な属性の変化についての自然科学的情報を提供し,かつ,それらの環境の属性の変化に対する人々の選好および複数の環境開発シナリオへの相対的支持率を明らかにすることができるアンケート手法である。シナリオアンケートの開発にあたっては,社会科学者と自然科学者が緊密に連携した。開発したシナリオアンケートは,研究フィールドである北海道幌加内町の朱鞠内湖集水域を対象地域として,幌加内町住民を対象として実施した。コンジョイント分析の結果,森林伐採がもたらす水質悪化や植生の変化が最も懸念されていることが明らかになった。最後に,シナリオアンケートの,環境開発における住民参加への貢献可能性について考察した。
  • 小林 仁, 渥美 公秀, 花村 周寛, 本間 直樹
    2010 年 49 巻 2 号 p. 180-193
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/02/20
    ジャーナル フリー
    本研究では,人々によってすでに馴致された生活環境を対象として,その環境を一瞬未知の状態へと変換し,新たな馴致を促すという一連の流れを発生させる手法について,実践プロジェクトによるアプローチを試みた。Moscovici(1984=八ッ塚,未公刊)による社会的表象の議論をもとに,社会的表象としての現実の馴致プロセスについて概観し,その後,原(2005)の「未知化」という概念を参考に,未知化の技法と未知化後に事象を再び馴致してゆく方法について検討した。「未知化」の方法として,プロジェクト型ツールの設計および実践を行った。実践のフィールドとして,筆者らが所属する大阪大学キャンパスを設定した。参加者が阪大(ハンダイ:大阪大学の略称)に関する情報を詳細に獲得し,各々が今まで知らなかった阪大を再発見してゆくDATA HANDAIプロジェクトは,2005年10月より始まり,2007年9月現在も継続して進行中である。活動は領域横断的に実施され,教員5名と学生20名あまりを中心として活動を行った。プロジェクトの成果として数十枚に及ぶ情報カードを作成した。結果として,参加者の言説の変化や活動に関するエスノグラフィーが得られた。本研究では,このプロジェクトを対象として,未知化を解説し,既知から未知へ,そして新たな既知として現前する社会的表象の分析を行った。
  • 加藤 潤三, 野波 寛
    2010 年 49 巻 2 号 p. 194-204
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/02/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,2種類の目標意図(地域焦点型目標意図・問題焦点型目標意図)およびコモンズの連続性認知が地域住民の環境配慮行動に及ぼす影響を検討することである。琵琶湖の流域住民335名に対する質問紙調査を行った。共分散構造分析による分析の結果,問題焦点型目標意図は,行動意図に対して幅広く影響しており,特にその影響は個人行動意図に対して強いことが明らかになった。また地域焦点型目標意図は,問題焦点型目標意図に影響を及ぼし,間接的に行動意図に影響を及ぼしていることも示された。コモンズの連続性認知は,各目標意図だけでなく,個人行動意図・集団行動意図にも有意な影響を及ぼしていた。以上より,地域住民の環境配慮行動を促進させるためには,コモンズの連続性認知を喚起させることが重要であることが示唆された。
  • 中谷内 一也, 野波 寛, 加藤 潤三
    2010 年 49 巻 2 号 p. 205-216
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/02/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,沖縄県赤土流出問題を題材として,環境リスク管理組織への信頼が,一般住民と被害を受けてきた漁業関係者との間でどのように異なるかを検討することであった。何が信頼を導くのかという問いへの,社会心理学の長年にわたる標準的な回答は,能力認知と誠実さ認知が信頼を導くというものである。これに対して,リスク研究分野で注目されている主要価値類似性モデル(SVSモデル)は,人々が,リスク管理者に対して自分たちと同じ価値を共有していると認知することこそが信頼を導く基本要因だと主張する。われわれは両モデルが統合可能であると考えた。すなわち,当該環境問題に利害関係の強い人びとは主要価値が明確であるので,SVSモデルが予測するように,価値の類似性評価によって信頼が導かれる。一方,直接の利害関係にない人びとの信頼は代表的な信頼モデルが予測するように,能力評価や誠実さ評価によって導かれる。この統合信頼モデルを検証するために,沖縄県宜野座村をフィールドとして質問紙調査を実施し,一般住民(n=234)と漁業関係者(n=72)から回答を得た。分析の結果は仮説をおおむね支持するものであり,利害関係の強い漁業関係者の信頼は価値類似性評価と関連し,一方,一般住民の信頼は能力評価と関連することが見いだされた。最後に,今回の知見がリスク管理実務に与える示唆について考察した。
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