実験社会心理学研究
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50 巻, 1 号
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原著論文
  • 小森 めぐみ, 村田 光二
    2010 年 50 巻 1 号 p. 2-14
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/19
    ジャーナル フリー
    本研究では,社会的状況を手がかりとした自発的感情推論が生じるかどうかを,そして視点取得がその推論に果たす役割を,記憶課題を用いて検討した。実験1では,参加者はさまざまな状況に置かれた人物についての記述文を記憶した。記述文から推論される感情語が後に手がかりとして呈示された場合には,手がかりがない場合と比べて記述文の再生が促進されることが示された。実験2では,参加者は特定の感情が表出された人物の顔と名前の対を記憶した。その表情が事前に呈示された同一人物の記述から推論される感情と一致する場合には,そうでない場合と比べて対連合記憶課題の成績が良いことが示された。これらの傾向は視点取得した場合(実験1)にはより強く見られ,状況に注目した場合(実験2)には記憶課題全体の成績を向上させた。二つの実験で見られた記憶の促進効果は,人が表情などの表出行動からだけでなく,他者の置かれた状況からも,その人の感情を自発的に推論する場合があることを示しているだろう。また,視点取得が他者の置かれた状況への注目を強め,推論を促進させる可能性も示しているだろう。
  • 松本 良恵, 神 信人
    2010 年 50 巻 1 号 p. 15-27
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/19
    ジャーナル フリー
    現実の社会では,社会的ジレンマはリーダーが非協力者を罰し,メンバーがそうしたリーダーを支援すると言う相互依存関係を通して解決されていると考えられる。この研究の目的は,進化ゲームシミュレーションを用いて,そうした相互依存関係がリーダーとメンバーの間に生まれる条件を明らかにすることにある。我々のシミュレーションでは,20の集団が設定されており,集団はそれぞれ20人のメンバーと1人のリーダーで構成されていた。リーダーは,自分の集団内の非協力者と,自分をサポートしない者を罰することができた。コンピュータ・シミュレーションの結果,ある条件が満たされる時に,非協力者とリーダーを支援しない者の両方を罰するリーダーが出現し,それにより多くのメンバーが協力とリーダーへの支援が強いられることで,社会的ジレンマは解決された。その条件とは,リーダーは個人的利益と集団利益の両方を高めないと,その地位を維持できないというものである。
  • 村井 剛, 猪俣 公宏
    2010 年 50 巻 1 号 p. 28-36
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/19
    ジャーナル フリー
    リーダーシップは集団メンバー個々の行動と集団活動に決定的な影響をあたえるものとして一般に理解されている。本研究では,勝利志向型のスポーツチームの理想のキャプテン像の特徴を質問紙調査によって明らかにすることを目的とした。116項目のキャプテンの理想像に関する質問紙を808名,9競技種目のチームスポーツの選手を対象として調査を行った。項目の因子分析の結果,「目標志向性」,「人間関係の維持発展」,「メンバーへの激励」,「競技知識」,「競技能力」の5つの因子を抽出した。これらの結果は概ね先行研究で得られた見解と類似していた。 信頼性を検討するため,Cronbachのα係数の算出と,再検査法によるピアソンの相関係数を算出した。 α係数,再検査法による相関はともに比較的高い値であった。従って今回得られた結果はある程度の信頼性を有していると考えられる。 妥当性は基準関連的妥当性,内容的妥当性について検討した。また,性差の観点から比較を行った。
  • 田村 美恵
    2010 年 50 巻 1 号 p. 37-48
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/19
    ジャーナル フリー
    本研究では,自己や内集団他者,及び,外集団他者に関する手がかり情報が,内集団や外集団における合意性推定にどのような影響を及ぼすのかについて検討した。その際,最小条件集団パラダイムを用いて内集団―外集団状況を作り出し,自己,内集団他者,外集団他者のいずれかの課題遂行の「結果」(成功または失敗)をフィードバックすることで,手がかり情報の内容を実験的に操作した。その結果,「自己」の結果に関する情報がフィードバックされた場合には,自己と同一の結果に対する合意性をより高く推定する「フォールス・コンセンサス効果」が,内集団においてのみ見出された。一方,「内集団他者」に関する情報がフィードバックされた場合には,これとは異なり,内集団に関する推定と外集団に関する推定との間で,「対比的」な合意性推定パターンが見出された。具体的には,提示された内集団他者と同一の結果に対する合意性が,内集団において高く推定される一方,外集団においては低く推定される傾向が見出された。また,「外集団他者」の結果がフィードバックされた場合にも,同様に,「対比的」な合意性推定パターンが見出された。この場合には,提示された外集団他者と同一の結果に対する合意性が,(当該他者の所属集団である)外集団において高く推定され,(当該他者の非所属集団である)内集団においては低く推定されていた。これらの結果を,自己に関する情報と他者に関する情報の属性の差異に注目して考察した。
  • 大髙 瑞郁, 唐沢 かおり
    2010 年 50 巻 1 号 p. 49-59
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/19
    ジャーナル フリー
    帰属と援助の先行研究は,貧困者が政府に援助されるに値するか否かの判断(Zucker & Weiner, 1993)や,貧困者を援助する社会政策に対する態度の規定因(Applebaum, 2001)を検討してきた。しかし,政府に援助されるに値しないと判断した人々も,社会保障政策を支持するかもしれない。なぜなら,彼らが貧困者に貧困を解決することが不可能であると判断すれば,政府に援助する責任があると判断し,社会保障政策を支持する可能性が考えられるからである。そこで本研究は,社会調査データの二次分析を行って,人々が社会保障政策に対する態度を決定する過程を解決責任(Brickman, Rabinowitz, Karuza, Coates, Cohen, & Kidder, 1982; Karasawa, 1991)の観点から検討した。結果は,低所得者は高所得者よりも,社会保障の対象となる人々の生活を保障する政府の責任を重く判断し,社会保障政策を支持することを明らかにした。考察では,格差が拡大しつつある日本社会に,本研究が与える示唆について議論した。
  • 大森 哲至
    2010 年 50 巻 1 号 p. 60-75
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/19
    ジャーナル フリー
    2005年2月1日,三宅島の住民は2000年に起きた噴火から4年5ヵ月ぶりに帰島を果たした。しかし,その現状は噴火から7年が経過する現在でも島内の広い範囲で環境法16条に基づく火山ガスの基準を満たしていない。本研究では,精神健康調査票(GHQ28)を用いて,繰り返される災害下で復興活動に取り組む三宅村坪田地区住民の精神健康を検討した。主要な結果は以下の通りであった。精神医学的障害のおそれがある閾値点6点以上のハイリスク者は,住民の63. 6%であり,災害による精神健康への影響が長期化していた。ハイリスク者は全年齢階層で男性よりも女性に多く,男女とも60歳以上の高齢者に多かった。また,ハイリスク者の発生に寄与するリスク要因を分析した結果,最も相対危険度の高いのは,性別の要因であり,女性は男性の3. 8倍の危険度となっていた。次いで,相対危険度の高いのは,今後の生活や復興活動に対する悩みの有無であり,悩みのある人はない人の3. 3倍の危険度となっていた。さらに,仕事の回復していない人は回復している人の2. 8倍の危険度となっていた。
  • 橋本 剛明, 唐沢 かおり, 磯崎 三喜年
    2010 年 50 巻 1 号 p. 76-88
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/19
    ジャーナル フリー
    大学生が所属するサークル集団は,フォーマルな組織とインフォーマルな集団の双方の特徴を併せ持った集団であり(新井,2004),本研究はこれを準組織的集団と位置づけた。その上で,サークル集団における成員と集団とをつなぐコミットメントのモデルを探り,検討を加えることを目的とした。具体的には,組織研究の領域における3次元組織コミットメントのモデル(Allen & Meyer, 1990)を基盤に,サークル・コミットメントを測る尺度を作成し,学生205名を対象に調査を行った。その結果,サークル集団におけるコミットメント次元として,情緒的コミットメント,規範的コミットメント,集団同一視コミットメントの3因子が抽出された。さらに,それぞれのコミットメント次元の規定要因に関して,集団がフォーマル集団に近い程度を表す集団フォーマル性との関連を含めて分析を行った。情緒的コミットメントは課題および成員への集団凝集性により規定されており,また,課題凝集性と集団フォーマル性の交互作用が示唆された。規範的コミットメントと集団同一視コミットメントはともに,集団フォーマル性と成員凝集性によって規定されていることが認められた。
  • 柳澤 邦昭, 西村 太志, 浦 光博
    2010 年 50 巻 1 号 p. 89-102
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/19
    ジャーナル フリー
    本研究では,親しい他者,親しくない他者を選択する際の特性自尊心の影響について,および選択における社会的拒絶の調整効果について,杉浦(2003)の説得納得ゲームを用いて検討した。ゲームは90名の大学新入生を対象に実施した。ゲームの特徴を利用し,説得者が説得した人数を従属変数として,セッション1(S1)とセッション2(S2)の説得者を別々に分析した。その結果,S1の他者選択(すなわちゲーム開始直後)では,高自尊心者は低自尊心者よりも親しくない他者との相互作用を多く選択することが示された。同様の効果は,親しい他者の選択においては認められなかった。このような自尊心の影響に加え,S2の他者選択では,S1納得者の際に他者から相互作用を求められる頻度,すなわち社会的拒絶の経験の有無によって,他者選択が調整されることが示された。特に,拒絶を経験した群において,高自尊心者は低自尊心者よりも親しくない他者を積極的に選択することが示された。このような効果は拒絶を経験していない群においては認められなかった。さらに,親しい他者の選択においても認められなかった。これらの結果を踏まえ,特性自尊心が社会的状況における対人選択に及ぼす影響について,さらに社会的拒絶が及ぼす影響について議論された。
  • 吉澤 寛之, 吉田 俊和
    2010 年 50 巻 1 号 p. 103-116
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/19
    ジャーナル フリー
    本論文では,単一の親友や仲間集団の反社会的傾向が個人の同傾向に与える影響を,相互影響モデルに基づいて検討した。その際,社会的な情報を処理する過程に沿って,相互的な影響を検討した。高校生を対象とした研究1において,主観的相互影響モデルを検討した結果,仲間集団からの影響が単一の親友からの影響よりも強いことが示された。中学生を対象とした研究2において,客観的相互影響モデルを検討した結果,親友や仲間集団との反社会的傾向は,行動傾向のレベルではなく主に認知レベルにおいて相互に影響していることが示された。親友と仲間集団とで影響の方向が異なることから,単一の親友との相互影響は,個人が逸脱的な他者を親友として意図的に選択することを意味し,仲間集団との相互影響は,個人が仲間集団から逸脱性のトレーニングを受けていることを意味する可能性が示唆された。
資料論文
  • 竹橋 洋毅, 唐沢 かおり
    2010 年 50 巻 1 号 p. 117-127
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/19
    ジャーナル フリー
    本研究は,時系列的な観点から,集団内でのコミュニケーション,集団同一視,共有的認知の知覚の関係性について検討することを目的とした。データは,仮想世界ゲーム(SIMINSOC)の参加者269人が3度にわたって回答した質問紙から得た。共分散構造分析の結果,集団内でのコミュニケーションは集団同一視を増加させ,それが共有的認知を高めることが示された。また,コミュニケーションにより形成された集団同一視は,その後のコミュニケーションを促進させていた。これらの結果は,コミュニケーションと集団同一視が他方を高め,それが強固な共有的認知の形成に寄与するという再帰的な強化関係の存在を示唆している。最後に,この強化関係が協力行動や意思決定の集団極化などの集団過程にどのような影響を及ぼすのかについて議論した。
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