実験社会心理学研究
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51 巻, 1 号
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原著論文
  • 川西 千弘
    2011 年 51 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,好ましい顔と好ましくない顔の認知的表象における構造的特性の相違を探ることであった。92名の女子大学生が実験に参加し,4人の刺激人物(好ましい顔の刺激人物2名と好ましくない顔の刺激人物2名)について,各々15個の行動(好ましい行動5個,好ましくない行動5個及び中立的な行動5個)をする可能性を評定した。その結果,好ましい顔の人物がポジティブ行動をする可能性のほうが,好ましくない顔の人物がネガティブ行動をする可能性より高いというポジティビティ・バイアスが確認された。また,多次元尺度法の分析から,好ましい顔におけるポジティブ行動情報間のほうが好ましくない顔におけるネガティブ情報間より緊密に体制化されていることが示された。
  • 渡辺 匠, 唐沢 かおり, 大髙 瑞郁
    2011 年 51 巻 1 号 p. 11-20
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    本研究では,家族介護と公的介護に対する選好度の規定要因および関係性について検討を行った。一般成人331人を対象とした調査研究の結果,家族介護意識が家族介護・公的介護に対する選好度を規定していること,および,両者の選好度の間には背反的な関係があることが明らかになった。具体的には,調査対象者が被介護者の立場に立って回答した際に,家族介護への選好は介護サービス等の公的介護の利用抑制につながり,介護への態度が公的介護導入を制限する要因になることが認められた。一方,家族介護に伴う負担の懸念が高い場合は公的介護利用を志向して,介護サービスに対する税金使用への賛意が高まることが示唆された。しかし,以上の仮説モデルは心理的負債感によって調整されており,心理的負債感が低い人は返報義務を感じにくいために,介護受容における選択的選好や公的介護を利用する上での積極的関与が観察されなかった。以上の結果に基づき,介護選択と介護政策に対する態度の関連性や,介護受容における家族介護意識と心理的負債感の役割について議論した。
  • 山中 咲耶, 吉田 俊和
    2011 年 51 巻 1 号 p. 21-31
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    他者の面前や重要な場面において,思ったように能力を発揮できないことは,しばしば“あがり”と表現される。本研究では,“あがり”を緩和する状況要因として,面前の他者からのフィードバックと,個人差を示すパーソナリティ要因として特性的共感性に着目し,これらの要因が主観的感情体験と課題遂行に与える影響について検討した。その結果,課題遂行時に面前の他者からポジティブなフィードバックを知覚した遂行者は,ネガティブなフィードバックを知覚した遂行者よりも,主観的な“あがり”意識が低くなった。さらに,特性的共感性が高い人の方が低い人と比較して,ネガティブなフィードバックを知覚した際,主観的“あがり”意識がより高くなった。また,主観的な“あがり”意識の高低とパフォーマンス中の失敗数には,中程度の相関が示された。以上より,他者からのポジティブなフィードバックは,“あがり”の緩和効果を持つ可能性があることが示された。また,“あがり”が他者からの評価への意識と関連すること,さらに他者への意識だけでなく,他者からどれだけ影響をうけるかという個人特性,すなわち特性的共感性と深く関連した現象であることが示唆された。
資料論文
  • 上原 俊介, 船木 真悟, 大渕 憲一
    2011 年 51 巻 1 号 p. 32-42
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    人間関係に関して怒りが果たす重要な役割とは,相互作用を制御している関係規範,つまり相互の欲求に応じる責任を浮き彫りにすることである。この見方にしたがえば,他者が個人的欲求に応じなかったとき,親密他者に対しての方が,非親密な他者に対してよりも,怒り感情は強いと予想される。だが,本研究では,関係規範の違反に対する怒り反応は,種々の状況要因によって調整されると仮定して,以下の仮説を検討した。すなわち,親密他者が欲求に応じなかったときに非親密他者よりも怒りが強いのは,相手が特異的欲求に応じなかった場合(仮説1)と,個人が欲求情報を伝達しなかった場合(仮説2)に限られるであろうと仮説を立てた。大学生75名を対象にシナリオ調査を実施した。要因計画は人間関係(親密vs.非親密)×欲求の種類(特異的vs.非特異的)×欲求情報の伝達(ありvs.なし)である。各参加者は,人間関係と欲求情報伝達の水準を変化させた4バージョンのシナリオのうちひとつに配置された。特異的欲求と非特異的欲求のシナリオはいずれのバージョンについても含まれている。各シナリオを読んだ後,参加者はそのとき感じた怒りの強度を評定するよう求められた。分析の結果,仮説1は支持されたが,仮説2は不支持であった。これらから,親密他者に向けた怒りは利己心を反映している可能性が示唆された。
  • 塚脇 涼太, 深田 博己, 樋口 匡貴
    2011 年 51 巻 1 号 p. 43-51
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,ユーモア表出が表出者自身の精神的健康に及ぼす影響過程を検討することであった。3類型のユーモア表出が,表出者自身のユーモア感情喚起と周囲からのソーシャルサポートに影響し,さらに,その2つの変数が表出者自身の精神的健康に影響を及ぼすと仮定するモデルを構成し,共分散構造分析による解析を行った。その結果,遊戯的ユーモア表出と自虐的ユーモア表出は,周囲からのソーシャルサポートを促進することを通して,不安を低減することが示された。さらに,遊戯的ユーモア表出は,表出者自身に対してユーモア感情を喚起させることでも不安を低減することが示された。一方,攻撃的ユーモア表出は,周囲からのソーシャルサポートを阻害することを通して不安を高めることが示された。これらの結果から,ユーモア表出の類型によって,精神的健康に及ぼす影響過程が異なる可能性が示された。
  • 縄田 健悟, 山口 裕幸
    2011 年 51 巻 1 号 p. 52-63
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/30
    ジャーナル フリー
    集団間代理報復とは,一方の集団の成員が他方の集団の成員へと危害を加えたときに,それを知った被害者と同集団の成員が,加害者と同集団の成員に対して報復を行うという現象である(Lickel, Millar, Stenstrom, Denson, and Schmader, 2006)。本研究の目的は,初対面の一時集団においても,集団間代理報復の生起が見られるか否かを検討することである。本研究では,勝者が敗者に罰金を与えるというルールの一対一対戦ゲーム場面による実験室実験を行った。前回の対戦の結果として,危害明示条件では,外集団成員が内集団成員に罰金を与えたという情報を提示した。危害不明条件では,危害明示条件と同様の罰金の情報を提示したが,誰が誰に危害を与えたかは不明であった。以上の情報を提示した後に,当初の危害の加害者本人ではない外集団成員に対して罰金を与えてもらい,その大きさを条件間で比較した。その結果,実験1,実験2ともに,危害明示条件では,危害不明条件よりも有意に大きな罰金額が見られた。さらに,実験2では,罰金額が報復動機づけに基づいていることが示された。ただし,報復動機づけの平均値は高いものではなかった。以上より,実験室における一時集団であっても,集団間代理報復の萌芽的形態が見られた。
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