実験社会心理学研究
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51 巻, 2 号
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原著論文
  • 木村 昌紀, 磯 友輝子, 大坊 郁夫
    2011 年 51 巻 2 号 p. 69-78
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/24
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,関係に対する展望が対人コミュニケーションに及ぼす影響を関係継続の予期と関係継続の意思の観点から検討することである。先行研究では,実験操作による外発的な関係継続の予期に注目していた。そこで本研究では,自発的に生起した関係継続の意思に注目して,これらの関係に対する展望が対人コミュニケーションに及ぼす影響の共通点と相違点を調べた。未知関係20組40名と,友人関係25組50名の大学生が実験に参加した。結果は以下のとおりであった。先行研究と一致して,これからも関係が続いていくと思うときは,コミュニケーションの動機づけが促進されて,対人的志向性の個人差が消失した一方で,その場限りの一時的な関係と思うときは,社会的スキルの高い人ほど,積極的にコミュニケーションに取り組んでいた。また,先行研究では,関係継続の予期があるときは相手を知るために視線量が増加したのに対して,本研究では,関係継続の意思があるときは発話量が増加して,対人コミュニケーションをポジティブに認知していた点が異なっていた。そして,関係継続の意思が対人コミュニケーションに及ぼす影響の程度は,友人関係よりも未知関係において大きかった。
  • 藤本 学
    2011 年 51 巻 2 号 p. 79-90
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/24
    ジャーナル フリー
    本研究は,会話者の発話行動の独自性を明らかにするために,話者役割説を理論的背景とする発話行動生起プロセスについて検討を行った。コミュニケーション行動の規定因として,コミュニケーション参与スタイルに注目した。さらに調整変数として,対人的状況要因であるソシオメトリック・ステータスと,コミュニケーション参与スタイルの集団内メンバー構成を取り上げた。小集団討議実験を実施し,諸変数の関連性について検討を行った結果,集団内メンバー構成を考慮することによって,コミュニケーション参与スタイルは仮説どおり,実際の発話行動を予測することが確認された。また,ソシオメトリック・ステータスは調整変数ではなく,発言頻度に影響を及ぼす独立変数であることが明らかとなった。これらの知見は話者役割説の立場を支持する一方で,発話行動生起プロセスに関するモデルに対して修正を迫るものであった。
  • 橋本 剛, 吉田 琢哉, 矢崎 裕美子, 森泉 哲, 高井 次郎, Oetzel John G.
    2011 年 51 巻 2 号 p. 91-103
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/24
    ジャーナル フリー
    日米の大学生を対象とした質問紙調査によって,高親密/低親密関係それぞれにおける対人ストレッサー頻度,それらとソーシャルスキルの関連,およびディストレスへの影響の文化差について検討した。対人ストレッサー頻度に関して,対人葛藤(ケンカや対立)の文化差は示されなかったが,対人過失(迷惑をかけること)と対人摩耗(本音の抑制や気遣い)については文化と親密性の効果が見いだされ,なかでも日本・高親密条件では他の条件と比較して対人過失の頻度が最も高く,一方で対人摩耗は相対的に低かった。対人ストレッサー頻度の文化差に対するソーシャルスキルの影響として,日本のほうがアメリカよりも高親密関係の対人過失頻度が高いという文化差に対するスキルの媒介効果が有意であった。また,高親密関係における対人葛藤頻度とスキルの関連について,アメリカでは高スキルほど対人葛藤頻度が低いという負の関連が示されたが,日本ではそのような関連は示されないという文化の調整効果が見いだされた。対人ストレッサーとディストレスの関連については,高親密関係の対人ストレッサーについて,アメリカより日本の方がディストレスとの関連が強いという文化差が見いだされた。
  • 橋本 剛明, 唐沢 かおり
    2011 年 51 巻 2 号 p. 104-117
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/24
    ジャーナル フリー
    本研究は,侵害者が行う謝罪に対して,実際の被害者と,被害の観察者とが異なる反応を示すという傾向を検討した。特に,謝罪によってもたらされる「許し」の動機づけと,さらにその規定因となる責任帰属や情緒的共感といった変数に注目し,被害者と観察者の謝罪に対する反応の差異を検討した。大学生136名に対して,被害者/観察者の視点を操作した被害場面シナリオ,及び侵害者による自発性を操作した謝罪シナリオを段階的に提示し,各段階で侵害者への反応を測定した。その結果,「許し」の動機づけに関しては,視点と謝罪タイプの交互作用が見られ,非自発的な謝罪は,観察者のみに対して「許し」の促進効果を持っていた。さらに,謝罪が「許し」を規定する媒介過程においても,視点間の非対称性が示された。観察者においては,謝罪は責任判断と情緒的共感の両者の変数と介して「許し」を規定していたのに対して,被害者においては,情緒共感のみがそのような役割を担っていた。以上の結果から,対人葛藤場面においては,その被害者と観察者の判断を動機づける要因が異なることが示唆される。
資料論文
  • 源氏田 憲一
    2011 年 51 巻 2 号 p. 118-129
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/24
    ジャーナル フリー
    本研究は,ソーシャル・サポート(SS)受領が他者からの受容の認知に媒介されて精神的健康への(主)効果を持つという変数間の関連を,ソシオメーター理論を応用することでモデル化し,横断データにより検討した。さらにこれをネガティブな行為である否定的相互作用(NI)にも拡張し,同時に検討した。研究1では周囲の人からのSS/NIが,周囲に対する受容の認知を媒介して受け手の精神的健康に影響することが示された。研究2では特定の個人との関係性の安定的な認知を統制しても,その人からのSS/NIが,その人からの受容の認知を媒介して受け手の精神的健康に影響することが示された。しかし特性自尊心を統制した上で研究1,2の分析を行ったところ,SS/NIから受容の認知への効果は有意だったが,受容の認知から精神的健康への効果は消失した。これらのことから,SS/NI行為の認知は受容の認知と関連するが,それが精神的健康につながるプロセスは自尊心が深く関わっている可能性が示唆された。
  • 尾関 美喜, 吉田 俊和
    2011 年 51 巻 2 号 p. 130-140
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/24
    ジャーナル フリー
    社会的アイデンティティ形成の相互モデル(Postmes et al., 2006)が提唱されて以来,近年の集団アイデンティティ研究ではマルチレベルの視点がとられている。しかし,集団レベルの集団アイデンティティの操作的定義は統一されていない。さらに,集団レベルにおける集団アイデンティティの意味するところも明らかにされていない。本研究の目的は,二段抽出モデルによって,(1)Swaab et al.(2008)と尾関・吉田(2009)の2つの操作的定義を比較する (2)集団アイデンティティの下位尺度である成員性と誇りの相違を,個人レベルと集団レベルの両方で明らかにすることを目的とする。358人の大学生(男性161名,女性190名,不明7名)が,所属学科に対する集団アイデンティティ,当該学科の集団実体性,内集団価値(Leach et al., 2008)を評定した。また,Swaab et al.(2008)の操作的定義である,所属学科のメンバーが,どのくらい当該学科に対する集団アイデンティティを共有していると思うかを評定した。集団レベルでは成員性が集団実体性を媒介して集団アイデンティティの共有につながっていた。しかし,個人レベルでは,成員性の強い成員ほど集団実体性が高く,成員が集団アイデンティティを強く共有していると思うことが示された。個人レベルのモデルからは,知覚された内集団価値が誇りを高め,成員性につながることが示された。また,集団レベルでは,内集団価値が誇りに影響していた。以上の結果と社会的アイデンティティ形成の相互作用モデルを統合し,本研究では新たにマルチレベルでとらえた集団アイデンティティを通じた集団化過程モデルを提唱した。
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