実験社会心理学研究
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52 巻, 1 号
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原著論文
  • 黒川 光流
    2012 年 52 巻 1 号 p. 1-14
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    本研究では,リーダーの管理目標および課題の困難度が,リーダー-フォロワー間葛藤に対するリーダーの対処方略およびその効果性認知に及ぼす影響を,実験室実験により検討した。実験参加者は大学生72名であり,リーダー役1名,フォロワー役2名の3名集団で意思決定課題に2回取り組んだ。1つは容易課題,もう1つは困難課題であった。また,半数のリーダーは課題志向的目標を,残りの半数は関係志向的目標を設定した。いずれの条件でも,リーダー-フォロワー間葛藤に対して,リーダーは協力を用いることが最も多く,またその効果性を最も高く認知していた。困難な課題では,課題志向的リーダーは主張や譲歩を用いることも多く,関係志向的リーダーは譲歩を用いることが少なかった。ただし,いずれの条件でも,主張の効果性は最も低く認知されていた。また困難な課題では,譲歩の効果性は低く認知されていた。各葛藤対処方略の用いられ方とその効果性認知との関連は明確にならなかったが,困難な課題では,リーダーの管理目標に応じて,リーダー-フォロワー間葛藤に対してリーダーが用いる対処方略が異なることが示唆された。
  • 平川 真, 深田 博己, 樋口 匡貴
    2012 年 52 巻 1 号 p. 15-24
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,Brown and Levinson(1987)のポライトネス理論に立脚し,要求表現の使い分けに及ぼす社会的距離,社会的地位,要求量の影響について検討することであった。本研究では,要求表現の丁寧度と間接度を区別し3要因の影響を検討するとともに,理論の重要な媒介変数であるフェイスに対する脅威度の認知を取り上げ,理論の検討を試みた。265名の大学生に対して場面想定法による実験を行った結果,3要因の認知が高まると丁寧な表現が使用されることが明らかとなったが,3要因の認知は使用される要求表現の間接度には影響を及ぼさないことが示された。また,その影響過程については,Brown and Levinson(1987)の見解とは異なり,社会的距離,社会的地位の認知に関しては直接影響を及ぼす過程も存在することが示された。本研究で得られた結果は,3要因が要求表現の使い分けに影響を及ぼすというBrown and Levinson(1987)の主張の根幹を支持するものであったが,影響を及ぼす次元やその影響過程については理論の妥当性に疑問を投げかけ,再考を促すものであった。
  • 渡辺 匠, 唐沢 かおり
    2012 年 52 巻 1 号 p. 25-34
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    本研究は存在脅威管理理論の観点から,死の顕現性が自己と内集団の概念連合に与える影響について検証をおこなった。存在脅威管理理論では,死の顕現性が高まると文化的世界観の防衛反応が生じると仮定している。これらの仮定にもとづき,人々は死の脅威にさらされると,自己と内集団の概念連合を強めるかどうかを調べた。死の顕現性は質問紙を通じて操作し,内集団との概念連合は反応時間パラダイムをもちいて測定した。その結果,死の脅威が喚起された参加者は,自己概念と内集団概念で一致した特性語に対する判断時間が一致していない特性語よりも速くなることが明らかになった。その一方,死の脅威が喚起されても,自己概念と外集団概念で一致した特性語に対する判断時間は一致していない特性語よりも速くはならないことが示された。これらの結果は,死の顕現性が高まると,自己と内集団の概念連合が強化されることを示唆している。考察では,自己と内集団の概念連合と存在脅威管理プロセスとの関係性について議論した。
  • 宮本 匠, 渥美 公秀, 矢守 克也
    2012 年 52 巻 1 号 p. 35-44
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    研究者と研究対象の間に一線を画して,対象を客観的に記述しようとする自然科学に対して,人間科学は研究者と当事者による恊働的実践として進められるが故に,アクションリサーチとしての性格を宿している。本稿は,人間科学のアクションリサーチにおいて研究者がとる独特な視点とその役割を,新潟県中越地震の被災地で継続しているアクションリサーチの事例から理論的に明らかにしたものである。その際,大澤(2005)による,柳田國男の遠野物語拾遺の説話についての解釈を援用し,われわれの経験の社会的構成が「言語の水準」と「身体の水準」による複層的な構成をとっていること,それが当事者の「個人の内的な世界」と当事者の内属する「共同体の社会構造」の両者に存在していることを述べたうえで,当事者の「身体の水準」に留まっている他者性を回復させることでベターメントを図ることが人間科学のアクションリサーチにおける研究者の役割であり,その二重の複層的な構成をみる「巫女の視点」が人間科学のアクションリサーチにおいて研究者がとる視点であることを論じた。最後に,アクションリサーチにおける研究者は,その実践過程を言語によって回顧的に報告し,次の実践やさらなる共同体のベターメントへつなげていくところまでを射程としていることを指摘した。
  • 田垣 正晋
    2012 年 52 巻 1 号 p. 45-62
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    本研究は,大都市圏における障害者施策の住民会議におけるメンバーの相互作用,会議の運営とその機能に関して,他地域の同様の会議に転用できる知見を明らかにしたものである。事例となった会議は,多様な障害者,ボランティア,自治体職員によって構成され,6年間継続している。筆者は,自治体職員とともに会議の運営を中心的にした。今回の研究においては,筆者が,フィールドノート,筆者の会議への提出資料,議事資料,メールから,時系列に会議の流れを再構成した。会議の議題は,障害の種類に応じた課題から,障害者全体に共通するニーズや,健常者に対する障害者問題の啓発に移ってきた。自治体職員,筆者,メンバーそれぞれが,自らの役割と施策実現上の限界を意識しながら,会議のコーディネートを行った。会議においては,施策の実現よりも,メンバーがもつ障害の多様性の尊重,意見の共有が重視された。種類の異なる障害をもつ者が参加したことによって,会議は,障害者当事者-非当事者という二分法の相対化につながった。放置自転車の軽減や,障害者向け防災マニュアルの作成に対して,事業費がつき,これらが障害者によって実行された。体験の共有を重視した本会議にとって,この事業化は,最終的なゴールというよりも,メンバーが,障害者としての生活上の経験をセンスメーキングする過程の一部であると考察された。障害の多様性の尊重と,メンバーによる問題の共有は,他地域の会議においても重要になると考察された。
  • 内田 由紀子, 遠藤 由美, 柴内 康文
    2012 年 52 巻 1 号 p. 63-75
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/25
    ジャーナル フリー
    人間関係への満足は幸福感を予測することが知られている。しかし,人間関係が幅広く,数多くの人とつきあうことが必要なのか,それともストレスが少なくポジティブな感情を感じられるような人間関係を維持することを重視するべきなのかについては明らかではない。本研究は,人間関係のあり方が幸福感とどのように関わるのかを探るため,つきあいの数の多さと,つきあいの質への評価に注目した。研究1ではソシオグラムを利用して身近な人間関係のグループを特定し,各々のグループの構成人数や,そのつきあいで感じる感情経験などを尋ねた。その結果,つきあいの質への評価が幸福感と関連し,どれだけ多くの人とつきあっているかは幸福感や身体の健康とは関わりをもたないことが示唆された。研究2ではより広範で一般的な人間関係を対象とし,関係性希求型の項目を加えて,関係志向性における個人差を検討した。結果,一般的にはつきあいの数が多いことと,つきあいの質への評価の双方が重要であるが,人間関係を広く求める「開放型」の人ではつきあう人の数が多いことが,既存の安定的な人間関係を維持しようとする「維持型」の人ではつきあいの質への評価が,それぞれ人生への満足感とより関連することを示した。また,開放型は維持型に比べてより多くの人と良い関係をもち,人生への満足感も高かった。これらの結果をもとに,人間関係が幸福感に与える影響について検討した。
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