実験社会心理学研究
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54 巻, 1 号
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原著論文
  • 平島 太郎, 土屋 耕治, 元吉 忠寛, 吉田 俊和
    2014 年 54 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/29
    [早期公開] 公開日: 2014/03/28
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,子宮頸がん検診の受診を題材とし,態度の両価性が行動意図の形成に及ぼす影響を検討することであった。先行研究では,態度の両価性が,SD法で測定されるような全般的な態度と行動意図との一貫性を低下させることが報告された。従来の研究では,両価的な態度は時間的に不安定であるため,態度と行動意図が一貫しなくなるという説明がなされてきた(不安定仮説)。しかし,先行研究における理論的・方法論的な問題により,不安定仮説の妥当性は明確ではなかった。そこで本研究では,計画的行動理論の諸要因を加えた縦断調査を行い,不安定仮説を検証した。女子大学生を対象とし,子宮頸がん検診の受診に関する調査を実施した。その結果,子宮頸がん検診の受診に対する態度の両価性が低い群では,態度が受診意図を予測したが,態度の両価性が高い群では,態度が受診意図を予測していなかった。しかし,2時点間の全般的な態度の不安定性を検討した結果,態度の両価性が高い方が態度が不安定になるという,不安定仮説を支持する結果は得られなかった。また,態度の両価性が高い群では,主観的規範と行動統制感が受診意図を予測した。これらの結果から,態度の両価性が態度と行動意図との一貫性を低下させる現象について,不安定仮説の限界が示唆された。最後に,不安定仮説以外のメカニズムの可能性と,子宮頸がん検診の受診促進について考察した。
  • 日高 友郎, 水月 昭道, サトウ タツヤ
    2014 年 54 巻 1 号 p. 11-24
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/29
    [早期公開] 公開日: 2014/03/28
    ジャーナル フリー
    本研究では市民と科学者の対話(科学コミュニケーション)の場であるサイエンスカフェでフィールドワークを行い,両者のコミュニケーションの実態を集団研究の文脈から検討した。目的は第1にサイエンスカフェの記述的理解,第2に集団の維持要因についての検討である。結果は以下の2点にまとめられた。第1に参加者の関心の多様性(KJ法による),第2に科学者―市民間の会話は,第三者であるサイエンスカフェ主催者(「ファシリテーター」)が介入することで維持されていたこと(ディスコース分析による)である。集団成員間に専門的知識や関心などの差がありながらも,ファシリテーターの介入によって,両者の「双方向コミュニケーション」が実現され,集団が維持される可能性がある。これはサイエンスカフェにとどまらず,専門家と一般人のコミュニケーションが生起する場の理解,またそのような場を構築していくにあたって示唆的な知見となるであろう。
  • 高森 順子, 諏訪 晃一
    2014 年 54 巻 1 号 p. 25-39
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/29
    [早期公開] 公開日: 2014/03/28
    ジャーナル フリー
    阪神・淡路大震災の体験についての手記を集め,その一部を出版した「阪神大震災を記録しつづける会」の手記集には,読み手があらかじめ想定していた震災体験の典型には収まらない体験も含めた,多様な体験が収録されている。その理由を,手記集の成立過程を踏まえて考察した。「震災」という出来事と個人の体験は互いに影響し合う関係にある。加えて,一般に,手記集に収められた手記の内容は,ある特定の目的に適う内容に収斂される傾向がある。従って,通常,手記集を通じて多様な体験を残すことには困難が伴う。それにもかかわらず,「記録しつづける会」の手記集に多様な体験が収録されている理由は,編集者と手記執筆者の対話によって,それぞれの手記,そして手記集が共同構築されたからである。さらに,手記を共同構築することは,手記執筆者が,創られた震災像に抗いながら体験を再構築することであり,そのことを通じて,典型的な被災者像とは異なる「災害体験者」が成立する。これらの考察を踏まえ,最後に,手記集を媒介として災害体験の伝承を行うことが,伝承活動を行う人々の連帯を創り,災害体験のより豊かな伝承の一助となることを指摘した。
  • 野波 寬, 土屋 博樹, 桜井 国俊
    2014 年 54 巻 1 号 p. 40-54
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/29
    [早期公開] 公開日: 2014/03/28
    ジャーナル フリー
    正当性とは,公共政策に対する自他の決定権について,人々が何らかの理由・価値をもとに評価する承認可能性と定義される。本研究では沖縄県における在日米軍基地政策を取り上げ,これに深く関わる当事者と関与の浅い非当事者との間で,NIMBY問題における政策の決定権をめぐる多様なアクターの正当性とその規定因を検討した。正当性の規定因としては信頼性と法規性に焦点を当てた。当事者は精密な情報処理への動機づけが高いため,信頼性から正当性評価への影響は,評価対象のアクターごとに変化すると考えられる。これに対して非当事者は,各アクターの正当性を周辺的手がかりにもとづいて判断するため,一律的に信頼性と法規性が規定因になると仮定された。これらの仮説は支持されたが,その一方で非当事者ではNIMBY構造に関する情報の獲得により,自己利益の維持を目指して特定アクターの正当性を承認する戦略的思考の発生が指摘された。以上を踏まえ,公共政策をめぐるアクター間の合意形成を権利構造のフレームから検証する理論的視点について論じた。
展望
  • 飛田 操
    2014 年 54 巻 1 号 p. 55-67
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/08/29
    [早期公開] 公開日: 2014/03/28
    ジャーナル フリー
    成員の等質性と異質性が集団による問題解決パフォーマンスに及ぼす効果を検討した研究のレビューをとおして,多様な成員から構成される異質性の高い集団は,潜在的には優れたパフォーマンスを示す可能性が高くなること,しかし,一方で,このような多様な成員からなる異質性の高い集団においては,相互のコミュニケーションや共通理解の困難さが高まり,情緒的魅力や集団凝集性が低減する可能性も高まり,あるいは,対人葛藤が生起する可能性も高まること,そして,これら対人関係にかかわる問題が集団による問題解決パフォーマンスに抑制的に影響する可能性があることを明らかにした。長期に持続する確立した集団や,介入・訓練を受けた集団においては,異質性の高い集団がより優れたパフォーマンスを発揮する可能性が示されている。このことは,相互の異質性について成員が相互に共有し,これらの異質性を前提とした相互依存的関係が形成されるかどうかが集団による問題解決パフォーマンスに大きな影響を与えていると考えられる。
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