実験社会心理学研究
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54 巻, 2 号
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原著論文
  • 田端 拓哉, 池上 知子
    2015 年 54 巻 2 号 p. 75-88
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/26
    ジャーナル フリー
    自尊心の研究はさまざまな自尊心調節機制が相互に代替可能であることを示唆している。人はある領域で自尊心が脅かされてもその領域とは関連しない領域でその脅威に対処することができる。このことから,能力次元における自尊心への脅威は,集団成員性の活性化および所属集団の実体性を高く認知することによる所属感の強化を引き起こしうると考えた。この予測を検討するため,大学生を対象に,想起法(研究1)と課題フィードバック法(研究2)を用いて自尊心への脅威の水準を操作する2つの実験を行った。実験1では,能力次元における自己評価が脅威を受けると,脅威を受けない場合に比べて,個人がかかわるあらゆる集団の実体性評価を高めることが,高特性自尊心者についてのみ示された。一方,実験2ではそのような集団実体性評価の高揚が特性自尊心の水準にかかわらず示された。これらの結果から,自尊心維持機制における領域間補償の一般化可能性が論じられた。
  • 上原 俊介, 中川 知宏, 田村 達
    2015 年 54 巻 2 号 p. 89-100
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/26
    ジャーナル フリー
    義憤(moral outrage)とは,ある出来事やそれに関与した人物の行動が道義に反しているという知覚によって引き起こされる怒りのことを指す。怒りの研究者たちはこれまで,道徳違反を目の当たりにしたときには義憤が喚起されると仮定してきた。ところが最近の研究によれば(たとえば,Batson, Chao, & Givens, 2009),怒りの喚起は自分(あるいは自分の同胞)が危害を加えられたときにしか確認されず,私憤(personal anger)が怒りの本質であると指摘する者もいる。そこで本研究は,公正に対する敏感さ(justice sensitivity)という人格特性に注目し,義憤とは正しさに過敏に反応する人たちにみられる制限的な感情反応ではないかと予測した。日本人参加者に対して架空の拉致事件に関する新聞記事を読ませ,そのとき感じた怒りの強さを答えさせた。その結果,どんなに公正に敏感な参加者でも,強い怒りは日本人が拉致被害の犠牲になったときにしか報告されず,私憤説に一致する証拠しか確認されなかった。こうした知見を踏まえ,本研究は,私憤がきわめて堅固な反応であるという可能性を指摘した。
資料論文
  • 杉浦 仁美, 坂田 桐子, 清水 裕士
    2015 年 54 巻 2 号 p. 101-111
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/26
    [早期公開] 公開日: 2014/03/28
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,地位格差のある集団間状況において,集団間葛藤が生起する過程を明らかにすることである。そのため,内集団バイアスに着目し,集団間の相対的地位と集団間の関係性,集団内での個人の地位が,内集団,外集団メンバーの評価に及ぼす影響について検討した。大学生120名に対して,集団間地位と集団内地位を操作した実験を行った。その結果,高地位集団では,高地位者よりも低地位者のほうが,外集団メンバーの能力を低く評価することが明らかとなった。逆に,低地位集団では,低地位者よりも高地位者のほうが,外集団の能力を低く評価していた。また,この交互作用は,集団間の関係を非協同的であると認識する者においてのみ見られた。これらの結果から,集団内地位と集団間地位の高さが異なり,個人間比較と集団間比較のジレンマが生じる状況では,補償的に外集団を卑下する戦略が用いられる可能性が示唆された。
  • 田戸岡 好香, 石井 国雄, 村田 光二
    2015 年 54 巻 2 号 p. 112-124
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/26
    ジャーナル フリー
    ステレオタイプ抑制後にはステレオタイプのアクセスビリティが増加するリバウンド効果が生起する。これまでの抑制研究では,スキンヘッド男性のような少数派や高齢者のような地位が低いとみなされる対象に関する抑制が扱われてきたが,本研究では嫉妬的ステレオタイプを抑制した後のリバウンド効果について検討した。ステレオタイプ内容モデルによれば,我々は成功した外集団に対して有能だが冷たいとみなすことがある。ただし,そうした対象をいつも冷たいとみなすわけではなく,特に競争意識を知覚した時にネガティブな特性が顕現的になることが示されている。そこで,本研究では,抑制対象に対する競争意識の知覚がリバウンド効果の生起を調整することを検討した。参加者はキャリア女性(実験1)もしくはエリート男性(実験2)が他者と働いている場面を記述した。その際,半数の参加者にはその人物の冷たいというイメージを抑制するよう教示し,半数にはそういった教示は与えなかった。その後,ステレオタイプのアクセスビリティを測定した。実験の結果,抑制対象に競争意識を感じやすい場合にはリバウンド効果が生起し,感じにくい場合にはリバウンド効果が生起しなかった。ステレオタイプ抑制を対人認知の観点から検討することの意義について考察した。
  • 鈴木 有美, 木野 和代
    2015 年 54 巻 2 号 p. 125-133
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/03/26
    ジャーナル フリー
    本研究は,ウェルビーイングの検討において共感性を考慮する重要性に着目し,特に共感性の感情的側面である共感反応の他者指向性―自己指向性の違いに焦点を当ててウェルビーイングにおける差異を検討した。大学生210名を対象とした相関分析の結果から,他者指向的な共感反応傾向および社会的スキルの高い者ほど日常生活や対人関係で満足している一方,自己指向的な共感反応傾向が高く社会的スキルの低い者ほどディストレスの多い傾向が明らかとなった。また,他者/自己指向的な共感反応および社会的スキルにより分析対象者を4クラスタに分類し,ウェルビーイングの差異を検討した分散分析では,他者指向的な共感反応傾向が高く,自己指向的な共感反応傾向が低く,社会的スキルの高いクラスタのウェルビーイングが良好であった。これらにより,自身のウェルビーイングを維持するためには,社会的スキルが高いというだけでなく,他者指向的に共感すると共に自己指向的に共感しない重要性が示された。
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