実験社会心理学研究
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55 巻, 2 号
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原著論文
  • 孫 英英, 矢守 克也, 谷澤 亮也
    2016 年 55 巻 2 号 p. 75-87
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル フリー

    本研究は,行政や専門家が防災・減災に関わる際の基本スタンスを問い直し,防災・減災活動における当事者の主体性の回復をはかったアクションリサーチである。研究する主体となる行政や専門家とその客体的対象となる地域住民との間に一線を画す自然科学的な研究スタンスが,行政や専門家の過度にパターナリスティックな関与と地域住民の主体性の喪失との間に見られる悪循環が生じているとの考えに立って,両者の共同的実践を中核に据えたアクションリサーチを導入した。具体的には,津波リスクがきわめて高い高知県沿岸のある地域社会において,個別避難訓練を提案し実施した。訓練結果に基づき,当事者の主体性の回復という観点において注目すべき3つの事例を取り上げて考察を行った。第1は,どのような避難訓練を行うか,その計画・立案における主体性が回復された事例,第2は,避難訓練を地域内でより活発に推進・展開するための活動において主体性が回復された事例,第3は,個別避難訓練の実施を通じて,訓練そのもの,あるいは防災・減災活動という限定された側面における狭義の主体性ではなく,こうした活動が地域社会やそこに暮らす人びとに対してもつ意味や大義を根底から問い直す点において,当事者が主体性を発揮した事例であった。


  • 大門 大朗, 渥美 公秀
    2016 年 55 巻 2 号 p. 88-100
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル フリー

    本研究では,大災害発生後の利他行動において,特に阪神・淡路大震災及び東日本大震災でのボランティア活動に着目し,どのようなダイナミックスで利他行動が生起したのかを把握し,実践的なツールとして活用できるようにするために基礎的なシミュレーション研究を行った。シミュレーションは,セル・オートマトンを採用し,周辺の状況に合わせてボランティア活動を行うとする近傍要因と,被災地からの報道といった遠隔要因から,ボランティア活動がどのように生起するかを想定した。2つの震災を比較すると,阪神・淡路大震災では遠隔要因が強く作用し,ボランティアのピークが速く発生したが継続しなかったこと,逆に東日本大震災では,近傍要因が作用しピークが遅かったが継続したボランティアにはつながったこと,ただし,地方で起きたことから全体のボランティア数自体は減少したことが明らかになった。その上で,これまでの震災後の取り組みに提言を行うとともに,中心からしかボランティアが広がらない(中心局在化)モデルの限界に留意した上で,今後の災害時には近傍-遠隔要因のバランスに注目することの重要性を指摘した。


資料論文
  • 秋保 亮太, 縄田 健悟, 中里 陽子, 菊地 梓, 長池 和代, 山口 裕幸
    2016 年 55 巻 2 号 p. 101-109
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,チーム・ダイアログがチーム・パフォーマンスへ与える影響に関して,共有メンタルモデルが調整効果を持つか検討することであった。大学祭において模擬店の営業を行った団体を対象に,質問紙調査を実施した。大学生・大学院生236名,29チームから回答が得られた。階層的重回帰分析および単純傾斜検定の結果から,チーム・ダイアログは客観的なチーム・パフォーマンス(目標売上達成度)へ単純な促進的効果を持っているのではなく,メンバーがメンタルモデルを共有している程度によって及ぼす影響力が異なることを明らかにした。チーム内でメンタルモデルが共有されている場合,チーム・ダイアログは目標売上達成度に関連しておらず,一定の高いパフォーマンスを示していた。その一方で,チーム内でメンタルモデルが共有されていない場合は,チーム・ダイアログが少ないと目標売上達成度も下がることが示された。主観的なチーム・パフォーマンス(主観的成果)に関しては,共有メンタルモデルの調整効果は見られなかった。本研究の結果は,暗黙の協調の実現における共有メンタルモデルの重要性を示唆していると言える。


特集論文 身体と外界の相互作用から醸成される社会的認知
原著論文
  • 沼崎 誠, 松崎 圭佑, 埴田 健司
    2016 年 55 巻 2 号 p. 119-129
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル フリー

    身体感覚が社会的知覚や行動に影響を与えることが近年多くの研究で示されている。本研究では,持つものの柔らかさ-硬さによって生じる皮膚感覚が対人認知と自己認知に及ぼす効果を検討した。身体的温かさが性格的温かさと連合して表象していることを示す研究とHarlow(1958)の研究から,柔らかさ-硬さ感覚が性格的温かさ-冷たさと連合して表象されていると予測した。女性的ポジティブ特性,女性的ネガティブ特性,男性的ポジティブ特性,男性的ネガティブ特性の自己評定をあらかじめしていた21名の女子大学生が実験に参加した。参加者は,対人認知課題及び自己認知課題を行う間,柔らかい軟式テニスボールか硬い針金のボールを握り続けるように教示された。結果として,他者認知では,柔らかいボールを持った参加者は硬いボールを持った参加者に比べ,刺激人物が女性的ポジティブ特性を持っていると評定し,刺激人物に好意を示した。一方,自己認知では,柔らかいボールを持った参加者は硬いボールを持った参加者に比べて,男性的ネガティブ特性を持っていると評定するようになることが示された。これらの結果は,持つものの柔らかさ-硬さによって生じる皮膚感覚が,対人認知と自己認知に対して,それぞれ異なった影響を与えることを示唆する。


  • 上林 憲司, 田戸岡 好香, 石井 国雄, 村田 光二
    2016 年 55 巻 2 号 p. 130-138
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル フリー

    社会における善悪判断を左右する道徳性が,外的要因により意識されないまま変化することが知られている。本研究は道徳性に変化を及ぼす要因の一つとして,着衣に注目した。特に,道徳性が白色および黒色と結びついていることに基づき,白色または黒色の着衣が,着用者の道徳性に関する自己認知に及ぼす影響を検討した。参加者は白色または黒色の衣服を着用した状態で,自己と道徳性の潜在的な結びつきを測る潜在連合テスト(IAT)に取り組んだ。その後,道徳性について顕在的な自己評定を行った。その結果,潜在認知と顕在認知のどちらにおいても,白服着用者の方が黒服着用者より,自己を道徳的に捉えていた。これらの結果を踏まえ,着衣が認知や行動に影響を及ぼす過程や,道徳性を変化させる要因について議論した。


  • 田戸岡 好香, 井上 裕珠, 石井 国雄
    2016 年 55 巻 2 号 p. 139-149
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル フリー

    自分よりも優れた他者を見た時,私たちは妬みを感じることもあれば,羨望を感じる時もある。これまでの研究において,羨望は自分が優れた他者に追いつくという動機づけと,妬みは優れた他者を引きずりおろすという動機づけと関わっていることが示唆されている。本研究では身体化メタファー理論の観点から,これらの感情が自己他者概念と上下の運動感覚に関連していることを検討した。参加者は「自分」という単語の上に「他人」という単語が配置された図を呈示された。自己上方移動条件では「自分」という単語を「他人」という単語まで上げる動作を繰り返し,他者下方移動条件では「他人」という単語を「自分」という単語まで下げる動作を繰り返した。その後,参加者自身が競争相手に負けてしまうという内容のシナリオを呈示し,妬みと羨望を測定した。2つの実験の結果,自己上方移動条件は他者下方移動条件と比べて,妬みよりも羨望を感じていた。さらに,自己上方移動条件は防衛的な原因帰属をする傾向が減少していた。こうした結果から,メタファーが妬みと羨望に果たす役割について議論した。


  • 杉本 絢奈, 本元 小百合, 菅村 玄二
    2016 年 55 巻 2 号 p. 150-160
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル フリー

    「首を傾げる」ことで,疑問や不審を抱くだろうか。大学生82名が箱に空いた角度の異なる穴を覗くことで,右傾,左傾,無傾の3種の姿勢をとり,対人認知,リスクテイキング,論理的思考という3課題を行った。姿勢操作はカウンターバランスされた。その結果,首を右に傾げると,傾げない場合よりも,社会的に望ましい人物の仕事への関心を低いと評価しやすくなり(p=.002, d=0. 9),また男性は首を左に傾げた場合,傾げなかった場合に比べ,危険な行動をとると判断しやすかった(p=.014, d=0. 8)。論理的思考には差が見られなかったが,仮に疑い深くなっても論理性の判断はつきにくいからかもしれない。対人場面では提示された人物描写を字面通りに受け取らなかったと解釈でき,首傾げ姿勢が慎重な情報処理を促すという仮説は,右傾に限って支持された。右傾で仮説通りの効果がみられた理由は,大半の人は生まれつき首を右に傾けやすいからかもしれない。左傾によって軽率な行動傾向が高まったが,これは不自然な姿勢を取ったためと考えられ,右傾によって慎重になるという結果と矛盾はしない。今後は姿勢の個人差を考慮した上で,参加者間計画にし,追試をすることなどが求められる。


資料論文
  • 阿部 慶賀
    2016 年 55 巻 2 号 p. 161-170
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル フリー

    本研究では,印象評定時の重さの身体性入力が評定に及ぼす影響を検討する。近年の身体性研究では,事物や人物の印象評定時に触覚や力覚での身体性刺激を添えることによって判断に歪みが生じることが報告されている。例えば,重いクリップボード上に提示された履歴書の人物や記事に対して印象評定を行うと,軽いクリップボード上に提示された場合より重要性を高く評定する傾向が見られるとされている。しかし,こうした重さをはじめとする知覚される身体性入力は,主観量と物理量が必ずしも一致しない。そこで,本研究では重さによる印象への影響は主観量と物理量のどちらが主導であるのかを「大きさ重さ錯覚」を用いた心理学実験によって検討した。実験の結果からは,同質かつ同じ重量の飲料水でも容器の大きさから生じる錯覚で重さの主観量が異なっていた場合には,飲料水の貴重さや値段の見積もりが異なることが示された。このことから,重さによる印象評定には主観量が作用していることが示唆された。


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